第44話『能力の起源』

課長とのテレビ会議が続いているわ。

『現在報道規制をかけているが、SNSでは既に画像が拡散されつつある。』

「まぁ、そうなるわね。課長の説明によると、キャンセルされたライブを見に行った人達は理由を知りたがるだろうし、それはドームへと足を運ばせてしまっているわね。」

『どうもそうらしいな。SNSの内容を解析すると、それは見て取れる。』


「アダムが意図して今日を選んだってことね。」

『偶然じゃないのか?それにドームともなれば野球観戦など、イベントは豊富だ。』

偶然そんな訳ないでしょ。それは要求内容からも見て取れるわ。かなり戦略を練っているのが分かるから。」

『………。』


「得意の印象操作して報道しなさいよ。もう隠しきれないわ。」

『い、印象操作とは手厳しいなぁ。』

「メディア不信と言われて久しい現代、そろそろ別の手を考えておきなさいよ。」

『肝に銘じておこう…。』


「話が逸れたわね。」

『いや、かまわない。政府こちらとしては、兎に角提案が欲しい。少佐以外でも意見があれば言って頂きたい。』

「何かしら?」

『パニックを防ぐ為にも、報道規制を解除しなければいけないことは分かっている。だが、アダム側をどう説明するかで意見が割れている。』

「あぁ、なるほど。」


「ん?どういうことだ?」

バカ疾斗が興味津々で聞いてきた。

「疾斗にも分かるように説明するわ。」

「お、助かる。」

「あなたに理解出来るなら烈生にも理解出来るからね。」

「烈生は賢いからな!」

「………。」


夕美や力音がクスクスと笑って、護が呆れていたわ。

「政府が気にしている焦点は1つ。能力者について公表するかどうかでしょ。」

『その通りだ少佐。これだけ騒ぎが大きくなった事に便乗して公表してしまう案、解決するまで公表しない案、どちらにせよ公表しない案とある。』

「バカバカしい。」

『まずは少佐の意見が聞きたい。』

「そんなの考える必要もないくらい、駄目に決まっているでしょ。結果的にどうなろうとね。公表して良いケースは、私達が全滅した時だけよ。」

『少佐…。』


バンッ!

立ち上がりながらテーブルを強く叩く。

「私は宣言するわ。ここにいる仲間は、誰一人失わないで完全勝利すると!」

「心優タソ格好良い~!」

「格好良いから言っているのではないの。これは私の覚悟なの!」

『すまない。君達の力を疑っている訳ではないのだ。どう対処して良いかわからないのが本音なのだ…。』


「分かっているわ。前例が無い事例の判断を誤って政権交代とか洒落にならないからね。」

『………。』

「嫌味ではないわ。課長にももう少し頑張ってもらわないといけないからね。それに、アダムは1つ大きなミスをしているの。」

『大きな…、ミスだと…?』


課長を含め、誰もがそんなミスあったっけ?みたいな顔しているわね。

「そうよ!中二病全開の中学二年生に喧嘩売ったのが、最大のミスよ!」

………?

全員の頭の上に、同時にはてなマークが浮かび上がるのが見えたわ。


「能力は、能力者の想像したものを具現化するの。炎、水から始まり、矢や壁や爆弾まで!今まで見たアニメが蘇る!朝まで読みふけったマンガや小説が貴重なヒントになる!こんな状況で私の知識量と妄想に勝負しようっていうのよ!これがミスと言わずに、何だと言うのよ!」

右手を腰に、再びテーブルを左手で強打した。


バンッ!

「私が指揮する限り、絶対に負けないわ。アダムがどんな策略を用いようとも、それを上回る妄想をしてアダムを倒す。」

左手も腰に持ってくる。

「そしてココで、全員で祝賀パーティーでも開くわ。課長とオペ子も参加しなさい。盛大かつ、一生心に残る祝賀会にしてみせる!」


全員がキョトンとしている事に、気が付いたわ。

「コホン…。まぁ、そういうこと。」

ちょっとやりすぎたと感じちゃった。

「それと、報道の件だけれど、アダムは怪しい宗教の教祖とでも言っておきなさい。アークエンジェルがおこした、地下鉄での毒薬事件がそれを連想させるわ。世論がそっちに傾いてくれているうちに、私達が何とかする。」

『それだ!いつもすまない…。』


「それともう一つ。私の中では重大な懸念が生じているわ。」

『これ以上何か起きるというのか?』

「そうね…。起きるかどうかは不明。だけれど疑問がいくつもあるのよ。」

「疑問?いくつも?」

護が私の言葉にくいついてきたわ。

「そうよ。細かい事がいくつかあるけれど、能力という事象に対して一番大きな疑問として、能力というのがとても人為的、作為的なことよ。」


護は前のめりになって私の言葉に反論してきた。

「能力が人為的だと…?それじゃ心優は、誰かがこの能力を作ったというのか?」

「そうなるわね。」

「そ、そんな事…。」

私達の会話に芽愛が驚く。

まぁ、ビックリするわよね。


「どうしてそう思った?」

護は納得がいかないみたい。

「いくつかあるけれど、一番分かり易い事柄で説明すると、例えば疾斗。」

「ん?」

「何故あなたに瞬間移動の能力が与えられたのか。理由や条件、その他なにか思いつくかしら?」

「そう言われれば…。俺、なんでテレポート出来るようになったん?」

「私が聞いているのよ!」

「ん?」


ハァァァァァ…。

「まぁ、いいわ。元々足が速いわけでもない疾斗が、テレポートを獲得した。これは疾斗自身が努力して身に付けた訳でもないわね。」

「まぁ、そうだな。」

「なら、こう考えたらどうかしら?『誰かに与えられた』と。」

「えっ?誰に?」


「めぼしもついているわ。」

「心優ちゃん…、それは誰に…?」

これは誰もが、ふと疑問に思うけれど答えなんか出ない。

それに、分かったとしても逃げることも出来ない状況だから、深く考えることもない、いえ、考える必要がないわね。


「与えたのは、アダムとイブが出会ったという狐ね。」

「まさか…。」

「現状分かっている情報からは、この線が濃厚よ。そうじゃないとしても、狐がキーになるのは間違いなさそうね。」

「お姉ちゃん!でも僕、狐さんに会ったことないよ?」

「そうね。ここに居る全員が会っていないと思う。」


烈生以外にも、狐に会ったという人はいないわ。

「恐らくランダムで付与された…。そう考えるのが無難ね。」

「これだけ大勢の人物にか?」

護はまだ納得いかないようね。

まぁ、納得する必要も無いけれど。


「そうなるわ。では、どうやってランダムに振り分けたかって事も気になってくるところよ。」

「確かに…。心優タソ、その顔は何か閃いたのかい?」

「多分、『名前』よ。」

「名前…、だと…?」

「そう。整理してみましょうか。まずは疾斗。『疾い』という漢字が含まれているわね。だから瞬間移動。」

「おい…。まさか…。」


既に護や夕美はピンッときたみたいね。

「力音は『力』という感じが入っているわ。護はちょっと特殊ね。『護』という漢字からは『壁』という能力は連想しづらいけれど、『まもる』という文字からは『守る』とも書くことが出来て『壁』を連想し易いわね。まぁ、『壁』なんて漢字を使った氏名は少ないでしょ。」

「強引じゃないか?」

まだ半信半疑のようね。


「そう感じる人物は他にもいるわ。『烈生』から『爆弾』だしね。『夕美』も漢字じゃなくて読みの『ゆみ』から『弓』、そして実際には『矢』を操っている。」

「矢を射るには弓が必要だしね。心優ちゃんが言うように、あながち間違っていないと思う。」

夕美は納得したみたい。


「そして芽愛。あなたは『麻美澤あさみざわ』の『み』が『視る』となったか、『芽愛めいと』の『め』が『目』となったかとなるわ。」

「そういう理屈なら、『麻美澤あさみざわ』を『浅く視る』とも読み取れます。」

私は小さく頷く。

「まぁ、法則性を見つける必要はないわ。恐らく能力はこんな感じで、名前に由来して手当たり次第に振り分けられた。その結果、その中で能力に適正のある人物だけが、高レベルの能力者となったと考えるのが、一番無理が無い考え方だわ。」


全員が完全にとは言い難いけれど、納得したようね。

「私は『時時雨ときしぐれ』という漢字から、時間を操る能力のようね。そして、アダム側としては『不動』は漢字から『動かない』と読み取れるし、『吹雪』は雪に関連する系統だと予想出来る。ちなみに、殺されてしまった圧縮野郎の名前は何だったかしら?」

課長にたずねてみた。


『うむ…。』

資料に目を通している。

『名字は関係なさそうだが、名前が『あつし』だ。つまり…。』

「『圧』という漢字につながるわね。」

『なるほど。』

「まぁ、これが分かったとして、こちらが有利に戦えるって訳ではないけどね。」

「そうだな。だが、こうして整理すると、確かに作為的なこととも考えられる…。」

護は取り敢えず納得した顔で頷く。


「次に気になっているのは、行方不明者が東京に住んでいる、または東京に居たという人達だけってところね。」

『うむ。確かにそこは気になっている。』

「ニュースでも取り上げられていたけれど、総合するとあの動画を見た時点で東京に居た人達だけが行方不明になっているようなのよね。これって、おかしくない?」


勿論、動画の事はマスコミも分かっていないようだったわ。

だけれど、私達の持っている情報をまとめれば分かることよ。

『何か考えがあるのか?』

課長が気にしていた。

東京在住、もしくは東京に居るという状況で行方不明になるならば、他県は気にする必要がないからね。

つまり、捜査・監視範囲が狭まることになる。


「私は逆に考えたの。」

『逆だと?』

「能力は東京にしか影響が無い。能力者も東京在住者のみ、ってね。」

『なんと…。』

「でも…、そんな事が…。」

驚愕した芽愛がペタンと椅子に座った。


「でも、こう考えると全てが納得出来るわ。他県で行方不明者がいないことも、能力者が見つからないことも。」

「なんでこんな特殊な状況になったんだろうな?」

「疾斗にしては、なかなか良い着眼点よ。」

「だろだろ?」

「………。」

「そのジト目をやめてくれ…。」


「そこでさっき出てきた狐が関係していると考えたの。つまり、狐の影響力は東京程度が限界、つまり、日本中には無理ってね。まぁ、どれもこれも仮説なうえに、こう考えると納得できるって程度の内容だから、間違っているかもしれないわ。」

課長は顎に手をやり、少し考えていた。

『少佐の話しから、1つ気になることがある。』

「何かしら?」

『少佐の仮説に大きな違和感はない。むしろ、聞けば腑に落ちる内容である。だが、能力というものの原因とも言える狐の存在は、いったい何を意味するのだろうか?』


課長は、狐の目的が知りたいようね。

「正直わからないわ。『大きな危機が訪れようとしている』なんて危機感煽っておきながら、今のところそんな兆候もないしね。」

「ちなみに心優タソは、どんな危機を想像したんだい?」

力音が余談とばかりに聞いてきた。

「そうねぇ。被害想定数億人という隕石が地球にぶつかりそうとか、地軸が大きく変わるほどの超巨大地震とかかな。」


「おいおい、それじゃぁ人類は滅亡しかねないし、俺達の力程度じゃどうしようもないぞ…。」

「護の言いたい事も分かっているわ。だけれど私は能力の限界はこんなものじゃないし、東京以外にも能力者が居るなら、防げる可能性もあると思ったの。」

「まだ能力が成長するだと?」

「仮定の話しよ。でもね、成長を止めたらそこが限界点になっちゃう。成長し続ける事が出来れば、もっと大きな力を手にすることだって可能なはずよ。何せ、妄想が具現化するのだから、再現なく妄想する事は可能でしょ?」

「………。」


「地軸が変わることがそんなに大変なことか?」

「バカ疾斗は少し考える癖をつけなさい。」

「だってよぉ…。」

「こう言えば良いかしら?日本が赤道直下の国になっちゃったとか、日本が北極点になっちゃったとか。どうかしら?」

「暑かったり寒かったりするぐらいか?」

ハァァァァァァァァァァ…。


「疾斗さん、気温の変化は日本だけじゃないし、この場合生態系すら変わっちゃうよ。そうなったら食糧不足だとか、生活出来なくなる国が誕生しちゃう。きっと大量の難民になるし、それによって戦争すら起きる可能性があると思うよ。」

「烈生の言う通りよ。というか、このぐらい直ぐに理解しなさいよ。」

「俺、地理は苦手だし。」

「科目としては生物や歴史、経済でしょ!」

「そっちも苦手だし。」

「もういいわ…。」


あったま痛い…。

「どちらにせよ、危機自体がブラフの可能性も考えているわ。では、狐は何の目的なのかと問われると…。」

全員が私に注目する。

それは、この戦いの終着点とも言える回答になるはずだから…。

「分からないわ…。こればっかりは不明。というか、この状況だと何でもアリになっちゃうのよ。宇宙人が攻めてくるとか、そんなのまで考慮しなくちゃならない。」

「………。」


その時だった。

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

私の言葉と同時に、モニターの向こうから警報音が鳴り響く。

「課長!どうしたの!?」

『まってくれ…。』

映像の中の課長は珍しく慌てているわ。

それは緊急事態だからだと読み取れた。

電話の受話器を上げ、ボタンを押して何やら会話をしていた。

直ぐに切ると、顔面蒼白でこちらに振り向いた。


『アダムがテレビ用電波をジャックしたようだ。』

その言葉は、日本にとって最悪の自体なのだと、直感的に理解してしまった。


戦争が始まる…。


能力者達による宴が…。


「全員決してテレビは見ないように!それと、谷垣!」


「ハッ!」


「車の準備をして頂戴。戦闘開始よ!」


「して、どちらに?」


「決戦の地は…」


東京ドーム。


日本の運命を賭けた戦いが、今、始まろうとしていた。

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