第二十二話 裏切り者

 力強く頷いて、カルティエは高らかに宣言する。

 当然、彼女の保護者役であるエドガーの反応は芳しくない。傍から見ても否応なく察せるほどの難色を示し、しかし終にその心情を口にすることはなかった。

 何故なら、時間がないから。

 余計な問答に時を割いている場合ではないのだ。アランとマニトゥのやり取りから察するに、次に死の歌が放送されるのは一時間後か、一分後か、あるいは一秒後か。それを知る手段がない以上、出来得る限り迅速に行動しなければならない。

 あらゆる音源を乗っ取り再生される死の歌から逃れるのは難しいが、最低限の方策として、魔物の脅威から身を隠す必要があった。

 それでもたった一つだけ、エドガーには問い質さなければならないことがある。

「……覚悟はあるのか?」

「はい。これから死地に挑む、というのは理解しています。それでも私は殺される気なんて毛頭ありませんし、妙な幻覚を突きつけられて自決する結末なんて御免被ります。自分の身くらい、必ず自分で守って―――」

「いいや、俺が訊いてるのはそういうことじゃない」

 かぶりを振って、エドガーはカルティエの言葉を遮った。

 普段のいい加減な調子を完全に廃し、努めて真摯に少女の眼を見据えて、口を開く。


 ―――後であの娘にこれからも元気でやっていくよう伝えて頂戴。


 つい先刻、そう告げて去って行った、古い知り合いの顔を思い出しながら。

 まるで遺言のようだと思ったが――違った。今思えば、それはまさに遺言だったのだろうと、エドガーは確信する。

「現状、この国に安全な場所なんてものは存在しないと思っていい。魔物に催眠兵器と――何処にいても死ぬ可能性は十分にあるんだ。自衛するのは当たり前だ。だから重要なのは、殺されないための覚悟じゃない。―――殺す、覚悟だ」

 不穏な言葉を耳朶じだに流し込まれ、カルティエは息を呑む。

 彼女は聡い。語尾のたった一言だけで、エドガーの言いたいことを概ね理解したことだろう。

 ここから先の状況如何によっては、己を含めたあらゆる人命を守るため、自らの手を汚さなければならなくなる――そう直感したに違いない。

 しかし少女の面持ちは、微風に揺らぐ水面ほどの変化を見せなかった。恐らくは、目の前であまりにも多くの人死にを目撃してしまったために頭が混乱し、感覚が麻痺しているのだろう。彼女の凛とした面差しにかげりはない。

 けれど事実とは、常に小説よりも奇怪な結末をもたらすもの。現実の悪辣さは、少女の想像を容易く凌駕した。

「結論から言うぞ。―――恐らく、君は自分の母親を殺す羽目になる」

「…………………………………………………………………………え?」

 告げられた言葉が持った重い衝撃に、然しものカルティエも呆然と瞠目した。

 対して、アランとシャーロットに目立った反応はない。

 前者は最初からその事実を周知していたかの如く、全くの無反応であり。後者に至ってはそもそも興味がないらしく、舞台の端に腰を下ろして、魔物が埋め尽くす黒い空をぼんやりと眺めていた。

「それは……どうして……?」

 悪夢にうなされるように頭を抱えて、カルティエは顔を歪め、呻くように呟く。それに対して、エドガーは努めて淡々と事実のみを列挙することにした。

「考えてもみろ。奴さんが事を起こしてから、ヒュペルボレオスの主要機関を掌握するまで。一連の手際が、。十中八九、敵側に内通した人間による組織的な犯行と見て間違いない。そして極めつけには、そこのヒューマノイドだ。……アラン、お前の目には彼女はどう見えた?」

「少なくとも、機械や人形の類には見えなかった。人と同じように物を食べ、楽しそうに笑い、夢を語る……とても、素敵な人だったと思う」

 感傷を剥き出しにして、吐き捨てようにアランが答える。それが表すのは、ある一つの事実だった。

 エドガーは告げる。

「見た目は元より、内面まで人間そっくりの高等な機械人形。そんなものを用意できる人間なんて、この世界には一人しかいない」


 ―――ヒューマノイド・ロボット技術の生みの親、胎動卿ヴュアルネ・クルーシュチャ。


 その人を措いて他にない。

 淡々と告げられる推理。それはカルティエの心境とは裏腹に、何の違和感もなく彼女の明晰な頭脳へと浸透した。

 確かに高位の碩学である彼女が青空教会に与しているのだとすれば、瞬く間に国家を掌握することも不可能ではないだろう。それはヒューマノイド・ロボットの方も同様だ。しかも折よく、レナータ・ボーイトと同型らしき造形のヒューマノイドが一体ほど紛失しているという報せもある。

 そして何より――彼女には、青空教会と結託し、国家を転覆せしめんと企むだけの十分な動機もあることだろう。

 最早、疑う余地はない。

「『見つけた敵は全て殺し、あの愚物を存分に叩き潰せ』――マニトゥは確かにそう言った。そしてどういう訳か性質の悪いことに、そこのカチナドール臨時代行者様はやる気満々でいらっしゃる。どこからそんな自信が出てるのかは知らないが……そんなことはこの際どうでもいい! 出来なけりゃ人類が滅ぶだけだ! ―――ああもう、口に出すと余計馬鹿馬鹿しく聞こえるな! たかだか十六のガキ共に命を預けるなんざ、正気の沙汰じゃない!」

 めちゃくちゃに頭を掻き毟り、エドガーが吐き捨てる。

 当事者であるカルティエですら、彼の愚痴には概ね賛同できた。今の事態は、明らかに自分達の手に余る。しかし傍らに立つアランは、侮蔑とも取れる台詞に対し気にした素振りもなく、自信に満ちた面持ちで悠然と構えている。

 釈明は、アランの携帯端末から発信された。

『そう言わないでくれたまえよ、エドガー君。この馬鹿げた事態を収拾するに能うだけの能力を、彼はきちんと備えているともさ。そこだけはボクが保証しよう。無論、有事の際の超法規的措置もことごとく容認するともさ。だから……そうだね、カルティエ君に同行を強制するのは、ちょっと酷だったかな?』

 何が、とまでは口にすることなく、マニトゥはくすくすと笑う。

 意外なことに、母親が殺される瞬間を実の娘が目にする――それを悲劇と捉えられるだけの感性が、機械マニトゥには備わっているらしい。

「―――ここが分水嶺だ、カルティエ」

 正面から真っ直ぐに少女の蒼い瞳を見据えて、アランが言う。

「技師として同行する君が直接手を下すことはないだろうが……それでも最低限、母親を見殺しにすることは覚悟しておけ。でなければ俺は君を置いて先に行く。君は全てが終わった後に、おっかなびっくりやって来ればいい」

 アランの言葉は極めて淡白だった。だからこそ、彼ならば本当に有言を実行してしまうだろうという説得力がありありと読み取れる。

 カルティエの夢は、父であるホァン・ガウトーロンを逮捕することだ。

 その目的は法の名の下に彼が犯した罪を白日の下に晒し、正当な償いを行わせることにこそある。例え最期には処刑台に送られる運命なのだとしても、せめてその瞬間までは正しく人として生きるべきであると考えるからだ。

 彼女の目指す正義とは――正しき司法とは、そうあるべきなのだから。

 当然ながら、その対象は自身の父親以外にも適応される。例え母親であろうとも、彼女が元々は哀れな被害者に過ぎないのだとしても――罪を犯したのなら、機械に依る公正な処断を受けるべきだ。

 しかし、状況がそれを許さない。

 エドガー達が語った事実は全て推測に過ぎず、真偽の程は未だ不明である。そもそもヴュアルネが生きているのかすら分からない。にも関わらず、事態は彼女の殺害を前提として動いている。

 現場の判断だけで命を奪うというのは、あまりにも無責任だ。

 しかもそれを実行するのは、カルティエと同じ十六の少年だという。


 ―――果たして、それでいいのだろうか?


 カルティエは冷静に自問する。

 ある種の禅問答めいた、堂々巡りの思考。それはいつまでも続くものと思われたが、しかしその途中で、カルティエは不意にある一つの事実に気が付いた。

(ああ、なんだ。私は―――――母様の死を、そこまで恐れてはいないんだ)

 自嘲めいて、カルティエの唇がうっすらと弧を描く。

 事ここに至って自分が考えることといえば、裁判を省略しての断罪に対する正当性とその実行者への懸念のみ。自らの母の無実を信じるとか、その命が喪われることに対する恐怖だとか、そういった感情は驚くほどに希薄だった。

 相手は実の母親だというのに、あまりにも薄情だとカルティエは

羞悪しゅうおする。

 けれどそれだけだった。それ以上の感慨はない。当たり前だ。たとえ血を分けた実の肉親であろうと、数えるほどしか顔を合わせたことがない相手を真に思いやることなど、人間には到底出来はしないのだから。

 所詮は、他人事に過ぎない。

 、義務はあるのだろうと、そう思う。

 カルティエは毅然きぜんとした態度を取り戻し、傍らに立つ少年の赤い瞳を正面から真っ直ぐに見据えて、答える。

「いいえ、私も行きます。もしも本当に母様がこんな非道を行ったのであれば……娘である私が、始末を付けなければなりませんから」

 確固たる決意をその蒼い双眸に宿して、カルティエは言う。その瞳に灯る輝きは、最早何があろうと揺らぐことはないだろう。

「……分かった。一緒に行こう、カルティエ」

「―――――はい!」

 活力を漲らせて、カルティエが首肯する。

 め付けるように絞られた蒼い眼差しに、迷いはない。ならば後はこちらが後顧の憂いを断つだけだと己の決心を再三度そらんじて、アランは視線を横へと向ける。

 愛すべき妹、シャーロットの姿がそこにあった。

 危機的状況にも関わらず、彼女は相変わらず嫣然えんぜんと微笑んでいる。そのチェシャ猫のように自由な振る舞いは、純粋に愛おしい。

 傍らで微笑まれれば愛さずにはいられない、そんな生き物だ。彼女の言動は幼く愛おしいもので、その健啖ぶりは愛嬌がある。

 彼女がいなければ、今のアランは存在しない。死にたくなるほどの酷く凄惨な出来事に幾度となく遭遇してきた彼だったが、道を踏み外しそうになる度に踏み止まらせたのは、いつだって彼女の笑顔なのだ。その存在に一体何度救われたのか、数知れない。


 それが喪われるようなことがあってはならない―――――決して。


「……行って来る」

「うん。行ってらっしゃい、お兄ちゃん。カルティエさんもね!」

 シャーロットの言葉に、二人揃って首肯を返す。

 ともすれば、その場に留まり続ける理由はない。アランは再び表情を無にすると、態々口頭で指示を出すのも億劫だと言わんばかりにアイコンタクトとハンドサインのみでカルティエについて来るよう指示を出し、走り出した。

 一秒の遅れもなく、カルティエは黒い背中を追いかけて行く。

 二人は危なげなく舞台から飛び降り、奇跡的に死体の落ちていない道を選択して走り抜ける。その背中が遮蔽物に隠れ見えなくなるまで、エドガーは彼等の後を目で追い続けた。

(結局、いい所は全部アランちゃんに持ってかれちまったか)

 胸中に蟠る自嘲めいた燻りを飲み込み、エドガーはふっと小さく溜息を吐く。

 母親を殺めることになる可能性と、その是非。それをカルティエがどう決めるべきか結論を出すよう促す――本来ならばそれは、保護者であるエドガーが果たすべき務めだったのだ。

 にも関わらず、気が付けば主要な部分は全てアランに掻っ攫われてしまっている。その先導の上手さたるや、教職に勤める人間と比べても遜色はない。

(先生、か。そういえば―――)

 ふと思い出したように、エドガーは舞台上に横たわった人形へと視線を向ける。

 レナータ・ボーイトという人間とエドガー・ボウの間に面識はない。けれど今の彼女の貌は、彼にとって


 エレナ・S・アルジェント。


 アカデミーにおいてエドガーを始めとして、ヴュアルネやマグワイア等多数の学徒を導いた教師。その特異な遍歴から大魔女サスペリアと畏怖された女傑。―――何の因果か、そこに倒れた人形は、ソレとそっくりな生き写しであった。

(さっきのアランちゃんの様子からして流石に偶然ってことはないだろうが……今はそんなことを考えてる場合じゃないな。早くシャーロットちゃんを連れて、シェルターに逃げねぇと)

 ―――などと、そこまで考えた所で、エドガーの思考はぶつ切りに断たれた。

 いつの間にやらすぐ目の前にシャーロットが佇み、上目遣いでエドガーのことを見上げている。その表情は何故か楽しそうだ。

「……なんだよ?」

「んー? さっきからのエドガーさん、なんだかお父さんって感じだなー、って思って」

 意地悪気に笑いながらシャーロットが言う。

 エドガーは即座にそれを否定しようとしたが、しかしそれが口から放たれることはなく、喉の奥でつかえてしまう。

 何故なら、彼女の言うこともあながち間違っていないからだ。

 カルティエに拾われてから数刻前まで、保護者など自分の柄ではないと本気で考え、現状にうんざりしていた筈だ。だと言うのに、先程からのエドガーの考えや態度はどうにもらしくないものになってしまっている。

 他人のことなどどうでもいいと、そう思っていたのに。

 エドガーは頭を掻きむしった。

「ああ――クソ、遂に俺もやきが回っちまったか? ったく……それより、いいから俺達もさっさと行くぞ。お前にみすみす死なれると、俺が後でアランちゃんに殺されちまいそうだしな!」

 シャーロットの言葉には答えず、エドガーは乱暴に言い放つ。

 それから二人は歩き出そうとするが――携帯端末の不吉な律動が、その歩みを遮った。

 エドガーとシャーロットは顔を見合わせながらも、それぞれが所有する携帯端末を取り出す。画面にはマニトゥからの着信を伝えるメッセージが灯っていた。


 * * *


「―――それで、何故ここに?」


 辺りを見回しながら、カルティエは困惑の様相でアランに問いかける。

 そう長くない時間を疾走に費やして辿り着いたのは、今朝訪れた小型航空機の展示会場だった。その周辺は地形からして積極的に自死に使えそうなものが少ないからか、ほとんど死体の類が見受けられず、魔物の姿もない。

 アランは地面に描かれた幾何学模様めいた案内図を見やり、自分達が目的地に到着したことを確認しつつ、口を開いた。

「理由は一つ、移動手段の確保の為だ。空を飛べた方が都合がいいからな」

「それは分かりますが……その、あの、それは―――」

 最初からソレを使うことに決めていたのだろう、アランは迷いなく展示された航空機の一つに歩み寄る。

 ソレはカルティエが良く知るマシンであった。

 それだけに、彼女の口元が歪に引きる。

「―――私のマシンは、まだ未完成品ですよ……?」

 漆黒の大型バイクを指さして、カルティエは生真面目に言った。

「昨日も言ったと思うのですが、それにはまだエンジンが搭載されていません。なので空を飛ぶどころか、現状では下り坂を降りるのが少々楽になるくらいしか役に立ちませんよ、ソレ」

「それはどうかな――っと」

 アランは軽やかな調子で言いながら右ハンドルを握り、捻る。その瞬間――途轍もない爆音が大気に轟いた。

 それは獣の咆哮にも似ていたし、単純に爆発物が爆ぜたようにも感じられた。

 ビリビリと肌を震わせ、骨まで響く音の波濤。それはまるで、燻り狂った猛虎スナッチの雄叫びのように力強く荒々しい。心臓を持たない筈の鋼鉄の獣が吐き出す精気に満ちた呼気エキゾーストノートに当てられ、カルティエは思わず息を呑む。

 有り得ない筈の事態を目の前にして、少女の脳は混乱していた。

 けれど目に映る光景は単純にして明快である。車体後部に設えられた排気筒マフラーから噴出する黒煙の量こそ甚大であったが、けれどそれ以外の全ての事象が彼女の計算と一致していた。

 カルティエ・ガウトーロンの作成した二輪車型航空機が――動いている。エンジンもなしに。

「これは、どういう……」

「ちょっとした手品だよ。ほら、君も乗れ」

 シートに跨り、調子を探るように機材メーターに反映される数値を一瞥いちべつしながらアランが言う。

 悪い冗談にもほどがあった。

 しかしその言葉を疑う余地はない。何故なら呆けたままの脳とは違い、彼女の特異なる五感がその不可思議な現象の仔細を正確に捉えていたからだ。

 其は魔術。

 偉大なる一族クルーシュチャ等が身体に備える、超常の脳構造や感覚器官と同様のもの。純然たる生態として備えたられた異能――即ち、魔術である。

「早くしないと置いて行くぞ。……いや、その格好じゃ無理か」

 ばつが悪そうに眉を寄せ、アランが呟く。

 カルティエが穿いているのは青のロングスカートだ。バイクに騎乗するにあたって相応しい格好であるとは、お世辞にも言えたものではない。

「……………」

 カルティエは俯いたまま重く沈黙する。

 思えばレナータの死の歌を聴いて以降、事態はあまりにも目まぐるしく変化し過ぎていた。催眠兵器という新たな魔術の存在、青空教会からの宣戦布告、魔物の襲来、そして母の裏切りの可能性。ここに更にアランの手品こと魔術が加わったことで、カルティエの脳は遂にパンクしてしまった。

 カルティエは不意に顔を上げて天を仰ぎ見ると、奇声を上げながら乱暴に頭を掻き毟った。

「うわ―――――! もうやってられません! 催眠兵器とかいうものといい、といい、今日だけで二つも未開技術を発見してしまうって一体どういう偶然なのか! これは碩学わたしに対する挑戦ですかッ!」

「……謎を謎のままにしておくのも、時には必要なことだと思うが?」

「そんな正論めいた屁理屈知ったことかー! いいですか!? 事が終わって帰還を果たした暁には、必ず原理を暴いて見せますからねちっくしょう! 検査とか計測とか色々、貴方には絶ッ対に付き合って貰いますからね!」

 自分でも何を言っているのかよく分からないまま喚き散らし、カルティエは勢いよくその場にしゃがみ込む。そしてスカートの裾の一部を両手で掴むと、一気に布地を引き裂いた。

 嫌な音を立てて、スカートが腰の辺りまで真っ二つに裂ける。

 カルティエは布を折り畳んでまとめると、両端を手繰り寄せて固く結ぶ。大胆にもストッキングに覆われた長い両足が剥き出しになるが、しかし本人に気にした様子はなかった。

 彼女は勢いに任せてアランの後ろに飛び乗る。

「行きましょう! こうなったら行くところまで行ってやります! 試験飛行が出来ていないので本当に飛ぶかどうかは机上の空論の域を出ませんが、そんなものは知ったことか! 宇宙人を乗せた自転車が飛べるのです、私のバイクが飛べない筈がない! 碩学は度胸! 無間の彼方へ、さあ逝くぞ―――!」

「自棄になるのは結構だが、後ろで不吉なことを言うのはやめてくれないか」

 心底から苦々しく言いつつ、アランは車体を押してセンタースタンドを倒す。

 これから発進しようとする二人に対して、ヘルメットの装着を注意する者は、誰一人として存在しなかった。

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