第三十八話 ハジメマシテ(?)
「貴様らブタ野郎が私の訓練に生き残ることができたなら、各人が兵器となる! 青空に祈りを捧げるゴミ共を駆逐する
「―――お前、ここでなにしてる」
「oh……」
シャーロットの演説を遮り、両頬を摘まみ上げる。白い肌が柔らかく潰れぐにぐにと揉みしだかれた。
遠慮のない按摩を受けてもシャーロットはされるがままだ。
むしろ心地良さそうに目を細めている。その姿は飼い主に撫でられる猫のようだ。しかし不意にシャーロットはカッと目を見開くと、アランの手から逃れて芝居がかった仕草で踏ん反り返る。
「愛撫の腕は大したものだな二等兵! 上官に手を挙げるとはいい度胸だ、気に入った! ……あれ、次のセリフってなんだっけ? えぇっと、あっ、そうだ! 『家に来て妹をファックしてもいい』!」
「コレはどういうことですか」
奇行に走る妹を完全に無視して、アランは矛先を別の者に移す。赫然と燃える赤い視線に射抜かれたエドガーは、肩を竦めて縮み上がった。
シャーロットの装いは非の打ち所のない軍服だった。
糊の利いた灰色のシャツの襟元を黒いネクタイできっちりと結び、右肩にのみ肩章の付いた軍用の黒い背広を着込んでいる。細い腰を締める分厚い幅広のベルトは肩章のループに繋がる革製のストラップに支えられており、少女の華奢な体を逆に壮健なものとして演出していた。
頭に被っているのはバイザー付きの黒い軍帽。
膝下までを覆うロングブーツの口にズボンの裾を突っ込んでいる。搾られた布が盛り上がり、急所である腿の輪郭を欺瞞していた。
完全な軍装である。
しかし着ているのは十四歳の少女だ。厳めしい、というよりも可愛らしいという印象の方がどうしても先行してしまう。
率直に言って、それはただの
つまりは観客に笑いを取るための悪ふざけ。いつもの邪気のない悪戯なのだと、普段のアランならばそう看過することができただろう。だがしかし――彼女の左腕に巻かれた赤い腕章がそれを許さない。
腕章に刻まれた黒い刻印は、
「何故この娘が軍属になっているのですか。それに、ミスター・ボウが何故ここに? ジグソウの店番はどうしたんですか。サボりですか」
「失礼な、断じてサボりじゃないぞ。俺はただの臨時講師。で、こっちの鬼軍曹モドキは俺の助手だ。これからお前等は
「受け入れろ!」
「受け入れるも何も……カルティエ、君はこのことを知っていたのか?」
頭を掻き、アランは振り返って尋ねる。
水を向けられたカルティエはどこか歯切れの悪い様子で頷いた。
「えっと、その……はい。先日、オルガン・アカデミーでアルバイトがしたいとシャーロットちゃんの方から申し出がありまして。マニトゥとも既に話はついていて……臨時講師として、私達の指導を担当することになっていたエドガーの助手を務めるとのことでしたので、丁度いいと思って承諾しました。その時に確か、その……アラン君の許可はもう取ってあると聞いていたのですが……?」
「―――お前」
真顔で圧力を発しながらアランが振り返ると、シャーロットは露骨に視線を逸らしてわざとらしく口笛を吹いた。
アランは嘆息を零す。最早怒る気力さえ湧いてこない様子だった。
「……はあ。小遣いが欲しいのなら、俺に言えばいいだろう。働くにしても、なんでこんな所に……マニトゥの口車にでも乗せられたか?」
「そういう訳じゃなもん。私はいつも通り、やりたいからやってるだけ」
「だから指図は受けないって?」
「なにか指図するの?」
「………………………」
唇を尖らせ、腕を組んでそっぽを向いてしまうシャーロット。
あまりにも頑なな彼女の態度に、アランは当惑した風に俯く。
「……ごめんね、嫌な言い方しちゃって。でもそれだけ私も本気なの。お兄ちゃんには分かって欲しいよ」
ふざけた態度を一転させて、シャーロットは真摯に訴える。
それでもアランは重く口を閉ざしたままだ。
この状況で自分はどうするべきなのか――カルティエが重く悩んでいる所で、不意に外野が口を挟む。
『まあまあ、ミスター・ウィック! 実の妹の身を案じる貴公の気持ちはよくわかるである! カチナドール・ココペリを目指す我々の道は険しく危険を伴うであろう! だが! だからといって! 彼女の意志と希望を曲げてしまうのは如何なものであろうか!? 貴公自身もそこは不本意な筈だと僕は信じているである! 肉親の了承を得ていなかったのは褒められたことではないが、ここは優しく見守るべきではないか!?』
「喧しい、他人が口を出すんじゃない」
「アラン君……地が出てますよ……」
横合いから肩に触れようとしたダーレスの手を一瞥もすることなく叩き払い、アランは舌打ちを零した。
冗談ではなかった。
カチナドール・ココペリ――それは死と隣り合わせの職業だ。国家公務員である彼等は、時には公共の安全の為自らの命を危機に投じなければならない義務がある。たとえそれが見習い未満の学生であろうと例外ではない。
つまりアランはシャーロットの身を案じているのだ。だからこそ、彼女が自分達に関わることを安易に承知出来ない。
……もっとも、反対する理由はそれだけではないのだが。
「う……やっぱり、だめ? お兄ちゃん……」
おずおずと上目遣いで、シャーロットはアランの顔を窺った。
アランは一ツ間を置いてから、溜息を零す。
そして両省の旨を告げた。
「本当!? やった! ありがとう、お兄ちゃん!」
向日葵のような笑みを咲かせ、シャーロットはアランの胸に飛び込んだ。細い腕を背に回して抱き着き、厚い胸板に頬擦りする。
「よかったですね、シャーロットちゃん」
「うん! これでお兄ちゃんと一緒にいられるよ! もちろん、カルティエさんともねっ!」
「―――シャーロットちゃんっ!」
感極まったカルティエが、アランごとシャーロットを抱き締めた。
すっかり逆上せ上った様子の二人とは対照的に、アランの表情は無に近い。
『話が纏まったようで何よりである!』
固定された笑顔のまま言うと、ダーレスが前に出た。
『―――さて、改めましてエドガー・
「お、おう……どうも……?」
エドガーの手を握り、ぶんぶんと上下に振るダーレス。
当のエドガーも困惑している様子だったが、彼が尋ねるよりも早くカルティエが――アランとシャーロットに抱き着いたまま――水を向けた。
「? ダーレスはエドガーのことを知っているのですか?」
『ああ! 何を隠そう、僕は
「「『シュヴァリエ・ド・シャーロック』……?」」
キラキラと瞳を輝かせて告白するダーレス。対して、アランとシャーロットが揃って首を傾げた。
二人はエドガーが作家であることは知っているが、ダーレスが口にした本の題名には一切聞き覚えがなかった。
そんな二人に、カルティエがこっそりと耳打ちする。
「お二人が知らないのも無理はありませんね。以前にエドガーがビッグ・ボウ・ザ・ミステリーという別名義で書いていた本ですから。
『シュヴァリエ・ド・シャーロック』シリーズはその名前の通り、『シャーロック・ホームズ』の
「それはまた、随分とカオスな……」
「うん! なんか面白くなさそう!」
「HAHAHA、まあ実際、商業的には大失敗だったようです。それでも一部の界隈ではカルト的な人気を誇っていまして、ダーレスのようにコアなファンがいるようですが」
「聞こえてるからなお前等」
険しくも複雑そうな眼差しを寄越すエドガー。ただし反論はないようだ。カルティエの解説は正確であると、認めているようである。
それは兎も角――と。
カルティエを退かしつつ、エドガーに向けて、アランが尋ねた。
「―――で、今日はこれからどうするのですか。ビッグ・ボウ作家大先生もとい、臨時講師殿」
「ビッグはやめてくんない? ……んー、その辺りの話は全員揃ってからにしたいんだが……一人足りないんだよな。五人目の名前は、あー……なんて言ったっけか……―――」
「―――ッしゃぁああ! 間に合った! ギリギリセーフッ!」
乱暴にドアが開け放たれる。
全員が、そちらへ注目する。
砲弾のような勢いで教室に飛び込んできたのは丁度話題に上った、風紀委員作業班最後の一人。五人目の少年だった。
彼の姿を目にした瞬間──
咄嗟にカルティエとシャーロットを庇うように前に出る。極自然な動作。ともすれば不用意とも取れる行動だが、幸いにも誰にも見咎められていない。しかし胸中から溢れる動揺はその限りではなかった。
「お前は……───」
『ふむ――目くじらを立てる程の遅れではないが、遅刻は遅刻であるぞ! むん! 何かあったのであるか!?』
「や、スンマセン、野暮用で遅れました~。えーっと、ダーレスの大将にジュニア坊、それからカルティエ嬢とは面識あっけど、そっちの
少年が剽軽に笑う。
齢は十代の半ば――アラン達と同い年だろう。オルガン・アカデミーの制服を着ているが、緩く結ばれたネクタイに大きく開かれた胸元、ズボンを低い位置で履くなど、だらしなく着崩している。ひどい猫背で姿勢も悪い。その上、彼はピアスやチェーンといったシルバー系のアクセサリーを幾つも身に着けていた。
痩せているが上背があり、同年代の男性の中では長身の部類であるアランやダーレスよりも更に頭一つ分以上背が高い。細い四肢はよくよく見れば鍛えられた筋肉が見て取れる。一流のアスリートのような、一切の余分が削ぎ落された肉体だ。
その肌は黒い。
肌に色を入れているのだろうか。黒色人種特有の濃褐色とは異なる人為的な肌色。薄墨色の皮膚を肉に張り付けた彼の姿は、酷く不気味だった。
ある種の色香が漂う美丈夫ではある。
ヘアバンド代わりに黒いバンダナを巻き荒々しく逆立てた白い髪は
―――違和感。
そう、違和感があった。筆舌に尽くし難い不快な既視感。痺れて役に立たない理性とは対照に、脳の原始的な階層に残る獣じみた部分が喧しく警鐘を鳴らしている。
間違いなく、アランとウィルバーが顔を合わせるのはこれが
「俺、ウィルバー。イェイ、ピースピース。ここにいるってことは、アンタ等も風紀委員作業班ってことでオーケー?」
「あっ、あー! オホン! その辺りのことはこれからこれから説明する。まずはだな―――」
「―――失礼」
「痛い!?」
前に出ようとするエドガーを乱暴に退けて、アランはウィルバーに詰め寄る。
胡乱に目を細め、下から覗き込む。彼の灰色の面貌を注意深く観察してから、低い声音で一言。
「―――
「えっ、なんで?
かくりと
その仕草は自然だ。恍けているようには見えない。だが、訓練を受けていればその程度の演技は容易だろう、という印象を受ける。少なくとも、アランには同様の真似が出来る自負があった。
おかしい。
この状況は、絶対におかしい。
だが――
「オホン! オホンオホン! 悪いがそこまでだ! 個人で友好を深めたいのなら後にするように! 時間も押してるからな! これから我々、風紀委員作業班のミーティングを行う! 全員集合ッ!」
派手に音が鳴るよう、エドガーが両手を打ち鳴らす。
エドガーとシャーロットの前に整列する必要があった。カルティエとダーレス、そして小柄な少年は間もなく並ぶ。次いで、アランが如何にも憤然とした調子でウィルバーから乱雑に視線を切り、皆の後に続く。
最後に飄々とした所作で肩を竦め、ウィルバーが並んだ。
カチナドール・ココペリ候補生――風紀委員作業班、総勢五名。
全員が整列したのを確認してから、エドガーは口を開く。
「それではまずは自己紹介をしよう。俺はエドガー・ボウ。敢えて多くは語らない。この中には俺を知っている人間もいるが、俺の経歴の全てを知る者はいない。俺は前任のラバン・シュリュズベリィ教授の後釜を任された、ただそれだけの男だ。だから何も聞くな、調べるな。世の中には知らない方がいいことがあるからな。お前達はただ先生とだけ呼んで、俺の後についてこい。いいな」
『Ia! 了解したであります、ビッグ・ボウ先生!』
敬礼し真面目に答えたのはダーレスのみ。アランとカルティエは、頓珍漢な生き物を見るような目でエドガーを白眼視している。
「だからビッグはやめて。……って、まあいいや。で、こっちは俺の助手」
「訓練教官のシャーロットマン軍曹である!」
「いい加減ごっこ遊びはやめて真面目にやって」
「アッハイ。……えーっと、シャーロット・ウィックです。エドガー先生と同じく、この前の青空教会のテロ事件により甚大な人手不足に陥った
「教員はもう一人いるんだが、そっちは仕事があって今日は顔を出せないらしいんで、紹介するのはまた今度な。―――はい、そういう訳で次はお前達の番な! 一人ずつ名前と所属学部、それから特技とチャームポイントを言っていけ!」
「な、ななな、なにを言ってるんですかエドガー!? 特技はともかく、チャームポイントだなんてッ! いきなりそんなことをいわれても……ッ!?」
目に見えてカルティエが嫌そうに狼狽える。それを他所に、エドガーは「イニシャルのA・C・J・R・Wの順でアランから始め!」と宣った。
一切の滞りなく、黒い少年が口を開く。
「アラン・ウィック。工学部所属。特技は手品。チャームポイントは歯」
「普通に答えちゃうんですかアラン君!? っていうか、歯!? チャームポイント歯ですか!?」
「ああ」
首肯して、アランは数歩前に出てから踵を返し、皆に見えるよう口に指を入れて頬を引き歯を見せた。
そこにあったのは人らしい臼歯ではなく、鋭利な歯列だった。
門歯だけでなく奥歯まで、その全ての先端部が鋭く尖っている。それは丁度、鮫のものとよく似ていた。しかし乱杭歯という訳ではなく、噛み合わせはしっかりとしていて隙間もない。
「おっ、ギザ歯じゃん!」
『うむ! 正しく
ウィルバーとダーレスの称賛を「それはどうも」と流し、アランは列に戻った。
「次はCのカルティエ、君だ」
「は、はい……ッ」
ガチガチに緊張した面持ちで、白い少女が口を開く。
「えっと、名前はカルティエ……クルーシュチャ、ガウトーロン……です。所属学科はアラン君と同じ工学部で……特技は勉強で……えーっ、チャームポイントは……その……すみません、思いつかないです……」
がっくりと項垂れるカルティエ。その胸と肢体は豊満であった。
「んーっと、次は誰かな?」
気を使ってか、シャーロットが次の人間がバトンを取るよう促す。
答えたのは、これまで全く口を利かなかった少年だ。
「お、おれ……です……」
虫の羽音のような、今にも消え入りそうなほど弱々しく委縮した声だった。
アラン、ダーレス、ウィルバーの三人がいずれも長身であるのに対して、その少年は非常に小柄だった。ともすれば上背はシャーロット以下である。矮躯にオルガン・アカデミーの制服を纏った姿は、子供の仮装じみていた。
顔立ちもまた幼い印象が強い。端整な造りの中性的な童顔は、見る者の庇護欲を刺激する。大きな黒縁の眼鏡がより一層その印象を強くしていた。
肌の色は焼けた小麦のような褐色。髪は赤みがかった浅紫で、マフラーのように首に巻いた太い三つ編みが目を引く。ピアスだろうか、額には
注目を浴びた緊張からか、手足は生まれたての小鹿の如く震えていて、アッシュグレイの大きな瞳は怯えにも似た色を湛え涙で潤んでいた。
「えと……お、おれ……俺の名前は、ジュニア、です。アブドゥル・アルハザード・ジュニアといいます。よろしくお願いします……。所属学部は……工学部で……とっ、特技は速読……チャームポイントは……三つ編み……かな……?」
如何にも自信なさげに、ジュニアは豊かな髪の束を軽く持ち上げて見せた。
―――アブドゥル・アルハザード
今生の楽園たるヒュペルボレオスにおいて、その歴史に名を遺した碩学は数多い。その筆頭は言わずもがな
物質を電子にまで分解し送受信する装置――
通称『
それこそが
そんな
開発に至った経緯と技術は、現在に至るまで完全に秘匿されている。識っているのはアブドゥル・アルハザードと彼の子孫のみ。そして彼等一族の情報もまた謎に包まれている。一般に知られていることといえば、一族の中で最も優れた頭脳を持つ者が、初代と同じ『アブドゥル・アルハザード』の名を襲名する習わしとなっている、ということくらいだ。
今代のアブドゥル・アルハザードは二十七代目。
ジュニアはその実子に当たる。そして親に恥じぬ優れた才気を持つことから、二十八代目の継承を確実視された少年だった。
……大層な肩書きの割には威厳も甲斐性もなさげな、如何にもいじめられっ子といった風情の様子ではあるが。カルティエの例を鑑みれば逆にある種の納得を得られるかもしれない。代償として、碩学という人種に対しえも言われぬ偏見を持つことになるだろうが。
碩学は皆コミュニケーション能力に難があるのか?
答えは不明である。
『次は僕の番であるな!』
促されるまでもなく前に出たのは、言わずと知れた
『我が名はレプリディオール・ダレス・クルーシュチャ! 気軽にダーレスと呼んで欲しいである! 法学部所属! 特技は正義! チャームポイントは我が正義の心! この楽園の秩序を守護するため、皆と共に励みたい所存である! 以上!』
先程のジュニアとは全く対照的に、詰まることなく言い終えるダーレス。その声音は溌溂としていて、聴いていて気持ちの良いものだった。
そしてバトンは最後の者へ。
「俺はウィルバー・ウェイトリィ。考古学部所属。特技は他愛のない悪戯とか悪巧みとか。チャームポイントは視て分かれ。はい終了! お疲れさまッした~!」
「―――待て待て待て、勝手に終わらせるな。まだ用事はあるんだよ!」
ヒラヒラと手を振って踵を返そうとするウィルバーを制し、エドガーは努めて厳かに咳払いを一つ零す。
「助手、例のものを」
「アイアイサー!」
敬礼して答え、シャーロットは駆け足で何処かへと向かう。
彼女は講堂の隅に安置されていたボックス状のワゴンカートの取っ手を掴むと、そのままエドガー達に突っ込みかねないほどの勢いで引き返してきた。
カートには上覆が掛けられていて、中に何があるのか傍目には窺えない。
「お待たせしましたッ!」
「ご苦労。―――それじゃあ、全員注目!」
大仰に言って、エドガーはワゴンカートを覆う布を取り払う。
ワゴンカートの上には、イヤーフック型のインカム、スピーカーとカメラ付きのチョーカー、各人の顔写真入りの手帳、そして赤い腕章が一セットで整然と安置されている。それ等全てにカチナ・オルガンの
その数は五。
この場にいる学生の人数と一致する。
「さっきも少し話題に出たが――諸君等も知っての通り、現在のカチナ・オルガンは猫の手も借りたいほどの人手不足に見舞われている。皆自殺したからな。そこで猫代わりに白羽の矢が立ったのがお前達って訳だ。今後、風紀委員作業班は、異例ながら実地訓練の一環としてカチナドール・ココペリが担当する任務に携わることになる。これ等のアイテムはその時に必ず装着すること。
インカムは通信用で、いつでもマニトゥや
エドガーが解説している横で、シャーロットが五人に一セットずつ配る。
全員に行き渡ったのを確認してから、エドガーは掌を叩いた。
「それでは本日のミーティングはここまで! 次は午後十三時三十分から風紀委員作業班でちょっとしたオリエンテーションを行うからここの校舎裏にある中庭に集合すること! 後はそれまで各人、それぞれの学部にて勉学に励むように! 以上、解散!」
その宣言を皮切りに、五人は学生らしく思い思いに言葉を交わしながら講義室を出て行く。しかしその途中で―――
「―――おっと。その前にちょーっといいかな、カルティエちゃん?」
呼び止められ、小首を傾げて振り返る。
その時カルティエが見たものといえば、如何にも悪巧みをしていそうな顔で揉み手するエドガーとシャーロットの姿だった。
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