悪徳を愛する者達

 ベリアルが意気揚々と、Ωゾーンから出てきた時、そこで待ち受けていた者達がいた。


『……ホゥ、まさか貴方がレイジー様よりも先に、ここに出てくるとは思いませんでした』


『ハァ、アスモデウスの次はアモンの出迎えか。なんでこう野郎ばっk』


 ベリアルの返答を遮るかのように、アモン周囲から衝撃波が発生する。ベリアルは怯みこそしていないが、動かしていた口は止まった。


『ほぉう? 何か言いたげだなアモン?』


『……では遠慮せず、貴方に訊ねるとしましょう。なぜこの監獄から出てきたのか、詳しく教えてもらいましょうか?』


『おいおい、そう殺気立つなって。俺には争う気なんざねぇよ。出て早々に騒ぎを起こして、牢屋に逆戻りなんて笑えねぇ冗談じゃねぇか』


『…………』


『……ま、その辺については、俺じゃなくレイジーの奴に聞きな。アイツなら事細かに事情を知ってるだろうぜ。恐らく―――、な』


『貴方はどうやら、自分が何をしてその監獄に入ったのか、自覚していらっしゃらないようですね』


『おぉ~コワコワ。流石に強欲の悪魔様のお相手なんざまっぴらご免だぜ。こちとら好きで命を投げ捨てたくはないんでな』


 ベリアルはわざとらしく、両手で自分の肩を抱き、震えるような仕草をしながら、アモンから距離をとった。


 だが、それが演技であるとバレていると悟ったのか、震えるような仕草を止めて、再び口を開いた。


『まさかとは思うが、本気で殺り合おうとしてるんじゃねぇだろうな?』


『……ホゥ。もちろん、今は殺り合うつもりなどありません。レイジー様の意向にただ従うだけです』


 そう言ったアモンは、ベリアルの脇を通り過ぎ、Ωゾーンの中へと消えていった。


 そんなアモンの様子を見届けた後、どこからか自分を、ジッと見つめるような視線を察したベリアルは、どこを見るでもなく徐に呟いた。


『……趣味が悪いな。それだけガン見しておいて、俺の弁護の1つもしねぇとはよ』


『これがそう言うわけにもいかないんだなぁ。だってあのアモン君だよ? 仮に君と僕の2人がかりだとしても、アモン君は止められないよ』


 そんなことを言いながら、ベリアルと背中合わせになる形で、いきなり姿を見せたのはダンタリオンだった。


 自身の背後からの声を聞き、ベリアルがゆっくりと自分に向き直る間に、ダンタリオンは自分が喋るべき事を喋った。


『そもそも君、法律を司る悪魔じゃないか。自分の弁護ぐらいは自分でしたらどうだい?』


『……痛いとこを突いてきやがる。それにしても。俺はお前に面を貸した覚えはねぇが?』


 そう聞かれたダンタリオンは、振り向きざまにベリアルの顔を模したお面で、自分の顔を隠し、ふざけたような調子で返す。


『生憎だが、俺はお前等本人の意思とは関係なく、お前等の顔を借りることができるんでな』


『悪ふざけは止めろ、見てて気味が悪い。自分の鏡写しがそのまま喋ってるみたいだ』


『お褒めに与り光栄です、ベリアル陛下。しかし私の芸はこれしかないものでして』


『誰もお前を褒めちゃいねぇだろうが……』


『一芸に秀でる者はなんとやらと言うじゃないか。要は気の持ちようだよ』


 ダンタリオンは笑いながら返答した後、ベリアルの横を通り過ぎ、アモンと同じくΩゾーンに入っていく。


 その時、ふと疑問に思ったベリアルが、ダンタリオンを呼び止めた。


『おい、何かジジイの奴に用があるのか?』


『いいや、僕が言伝ことづてを頼まれたのは、主は主でも新しい主の方さ。彼、ここにいるんだろう? 君を1人で呼びに行くとか言いながら、なぜかアスモデウス君を連れて行ってるのを見かけたし』


『あぁ、アスモデウスの奴も、俺に用があったからな。多分そのついでに連れて来たんだろうぜ。……で、言伝を頼まれたってのは? 聞いた感じでは誰かからの伝言って事だろう?』


『うん、ちょっとガープ嬢から脅さr…頼み込まれちゃってね。君だから隠すような事でもないんだけど、説明がいちいち面倒だしな……。そうだ、主に話すついでに、君も聞いていくかい?』


『お、おう……。じゃ、そうさせてもらうとするか。聞いといたら自分が得するんだろ? なら聞かない手はねぇな』


『……そういう自分の利益にはがめついところ。本当に悪魔らしいよね君』


『フン、何とでも言ってろ。褒めたって褒美のほの字も出ねぇよ』


『別に褒めたわけじゃないんだけどなぁ』


『そこはお互い様だろうが。俺だってお前を褒めたわけじゃねぇよ!』


 『ハハハ! それもそうだねぇ!』とダンタリオンの笑い飛ばす声が、Ωゾーンの中へと消えていく。


 そして、その声を追いかけるかのようにベリアルの姿も再び、Ωゾーンの中へと消えていった。

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