Guiltyon Metallion Deformation!
『ギルティオン発進準備につき、各オペレーターは至急、指定されたオペレートルームに急行せよ。繰り返す、ギルティオン発進準備につき…』
各方々の施設内放送で、同じような事を繰り返し放送している。
その声に急かされるように、メインコントロールルームへとやって来た、樹と叶香も軍のオペレーターと共に席についた。
「正式名称は、遠隔操作変形無人機動兵器…か。こりゃまた大層なお名前じゃねぇか?」
「まぁ、ギルティオンってのは、あくまで貴方が付けた通称みたいなものだし、これぐらい長ったらしくなっても、仕方ないんじゃないかしら?」
そんな会話をする2人の前方には、巨大なモニターが暗闇の中に浮かぶ、白銀の金属光沢を映していた。暗い場所に格納されているからか、ギルティオンの全貌はまだ見えない。
そのモニターの前に立ったのは、ギルティオン起動の指示を出した、あの軍の幹部であった。
「え~、ゴホン。今回初の実践段階のギルティオン試運転として、民衆の間でまことしやかに噂されている地域の上空を確認しようと思う」
それと、目的地へと到着する前に、2つほど確認しておかなくてはならない、ギルティオンの動作があるらしい。
出撃と2つの動作確認。これらがクリアできなければ、実戦での戦闘は認められない、と軍の幹部は言う。
「…俺達を威圧したいだけだ。別に何も問題ない。ただ何の苦もなく、サラッと成功させればいいだけの話なんだからな」
「口ではそう簡単に言ってるけど…本当に大丈夫でしょうね?」
「まだ『机上の空論』と言われても仕方がないような、仮想実験でしか実績が出せてない。ここで実際にできれば、俺達の評価も一変するはずだ」
小さい声でそう答えた樹は、自分の席に座り、通信用のヘッドフォンを装着しながら、機械の電源を全て起動し始めた。
叶香も、いい加減な返答しかしない樹を見て、不安な表情をしながらも、樹と同じくヘッドフォンを装着しながら、自分が担当する機材を起動させる。
『ギルティオンの通過ルートを確認。障害物無し、オールグリーン。格納ハッチ及び、ギルティオンのバランスアンカー、開放します』
アナウンスが終わったと同時、ギルティオンの向いている先にある壁が、モーターの回転音と共に左右に退き始める。
そしてギルティオンの、周囲に張られていたバリアのようなものが取り払われ、飛行機の着陸を促す滑走路のように、通路の電灯が点滅し始めた。
『左右の機体バランス安定を確認。トライ・ブースター、起動します』
そのアナウンスが終わり、ギルティオンの背中と思しき場所から、左右3対の大型ブースターが、一斉に火を噴く。
ブースターの推進力を受けて、ギルティオンが前へと進み始めたと同時。
ギルティオンの眼を造っていると思われる、トパーズのような色をしたダイオードが強く光を放つ。
ギルティオンを格納している施設の照明が、光の差す出口から、出口を目指しているギルティオンに向かって、次々と点灯していく。
そして、先程まで暗闇の中で、少しずつ動いていたギルティオンが―――照明の光に照らされる。
「…改めて見ると、すげぇ格好してんだなコイツ」
「それ、
猛禽の眼ように鋭く縁取られた、トパーズ色の機械的な輝きを放つ、2つのダイオード。3対ものブースターを装着している、天翔る為の巨大な白銀の翼。
その姿は、とても巨大な鉄の隼に見えた。
『トライ・ブースター3対の出力チェック。…オールグリーン。推進力・出力共に安定まで、残り3…2…1…。左右3対の出力安定を確認。いつでも飛び立てます』
「オールグリーンを確認。ギルティオン発進!」
全て問題が無い事を、樹が自分の眼で確認した後、ギルティオン発進の合図を出す。
すると、モニターに『Guiltyon Take off!!』という文字が表示され、ギルティオンの両翼が、目一杯に開かれる。
鉄の翼を広げた途端、一気に速度を上げたギルティオンは、瞬く間に滑走路のような通路を走り抜け、陽光の溢れる外へと飛び出した。
滑走路を飛び出したギルティオンは、翼をはばたかせる事も無く、大空へと舞い上がる。
「お~、飛んだ飛んだ。…で、ブースターに問題は無いか?」
「左右3対のブースターに出力異常は見られません」
「よし。各員、ギルティオンについている視覚カメラに切り替えてみろ」
樹の一言で、オペレーター達が一斉に、視点の切り替えを始める。
ギルティオンは飛行形態の時、体の至る所に小型のカメラが内蔵しており、それらの視界を繋げる事ができる。
そして主に、機体下方と機体上方の2つに視界を分け、機体周囲の安全を確保しているのだ。
もしどこかのカメラに、変な動きをする物体が映り込めば、ギルティオンのブラスト・ブースターの出力を上昇させて、追跡を振り切るなり、攻勢に転じる事も出来る。
「あとは2つの動作確認だ。叶香、問題なさそうか?」
「やってみる価値はあるんじゃないかしら。これだけ調子がいいなら、何とかなるかもしれないわよ?」
機体のパワーバランスを示す、様々なバロメーターを見ながら、叶香が返答する。
樹もそのバロメーターを覗き込み、各機関のパワーバランスが乱れていない事を確認して、「これなら大丈夫だろう」と言いながら頷いた。
「これから、ギルティオンの形態変化を行う。変化手順は
樹の一声を合図に、全員が自分の前にある機材を触り始める。
それに合わせて、ギルティオンを飛行させている、左右3対のブースター出力を示すバロメーターが、徐々に低下していく。
最大出力の、半分以下になったタイミングを見計らって、樹が一声をあげる。
「半分になったな…よし、左右3対のブースターを停止させろ!」
その発言が終わった次の瞬間、本当にブースターの出力を表すバロメーターがみるみるうちに下がっていき、最終的にバロメーターが表示されなくなった。
それと同時に『Power Balance Collapse!』と『Fall Down!』の警告文面が、ブザー音と共に交互に、モニターを埋め尽くす。
『ギルティオンの高度が急激に落ちています! 直ちに
「言われなくてもやってやる。形態変化しろ、ギルティオン!」
樹が、警告文面と音声で、ギルティオンの危機を知らせる画面を見て少し笑いながら、自分の席の前にあるボタンの1つを押した。
すると、ブザー音と警告文が同時に消え、代わりにモニターには、『Guiltyon Metallion Deformation!』の文字が大きく表示される。
『変形指示の入力を確認。緊急変形を実行します。機体内外の構築を変形中…』
『変形進行中…』という言葉が、画面隅に表示されたと同時、ギルティオン胴体の左右が開き、エンジンなどの重要な機関が、上半身や下半身の方へと、移動する様子が見えた。
そして、落下するギルティオンの翼が、コンパクトに折りたたまれ、エンジンなどが移動してできた空間に、両翼が収納される。
ギルティオンの鳥のような脚が、機体後方にスライド。スライドしながら変形し、鳥のような指ではなく、チーターのような足先へと変形した。
機体前方では、後方で変形した脚によく似た部品が、胴体から2つ突き出してくる。しかし脚部があるだけで、人間の足で例えると、くるぶしから先の肝心のパーツが無い。
棒状の部品が、機体前方に突き出した直後。ギルティオンの首元から、真っ白な蒸気と電撃が迸ったかと思えば、頭部が分離を始める。
分離したギルティオンの頭部は、さらに縦から真っ二つに分離する。その断面には、鋭い爪のような形をした金属が、光沢を放ちながら見え隠れしていた。
『ギルティオン頭部の分離に成功。これよりビースト・クローへの変形を開始します』
2つに分かれたギルティオンの頭部が、火花をあげながら変形を繰り返し、両足のパーツへと変形する。
そして、変形した両足のパーツが、機体前方から出てきた脚のパーツと、紅い火花を飛び散らせながら連結し、前足を造り上げる。
そして最後に、虎のような頭部が胴体から出現し、再びトパーズのような黄色いダイオードが瞬いた。
ギルティオンの双眸が瞬いた瞬間、画面隅にあった文字が、『変形進行中…』あから『変形完了』へと変わる。
『ギルティオン空中変形完了。着地まで残り5…4…3…2…1…。着陸しました』
『着陸しました』と言い始めた辺りで、墜落したのではないかと見紛うほどの土煙が上がる。しかし、トパーズの色をした眼光が、土煙の中で確かに光っていた。
『機体損傷はなし。目立つ問題もなく、着地に成功しました』
機械の駆動音と、聞き間違うほどに、生物的ではない咆哮を上げるギルティオン。
その声は生物らしくなくとも、戦意と矜持に満ち溢れた、力強い咆哮であった。
「…
「あぁ、問題はここからだ。まだ―――第三形態『
その時、ギルティオンの危機を知らせるランプが光り、樹と叶香達が一斉に困惑する。
「な、何事よ…まさか不具合!?」
『ギルティオンへの加害対象を確認。生体反応の地点は―――ギルティオンの真下。地下より来ます!』
次の瞬間、ギルティオンを足元から掬い上げるように、地面が隆起し始める。
そして、地面を突き破り、機体を力任せに弾き飛ばした物体の正体を見て、樹と叶香は息を呑んだ。
「あれって…植物の茎!?」
「おいおい冗談はよしてくれ。って事はまさか…」
『ビキャァアアァァアァアァァアアァ!!』
ギルティオンを、いともたやすく吹き飛ばした者の正体。それは、スサノオ達が逃げた時にいた、例の奇妙な植物群であった!
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