紙園の意思と主の使命
「…………」
レイジーは目の前にある結果を見て、苦虫を噛み潰したようなしかめっ面を見せていた。原因はヘルがあの時に持ち帰った、あの植物群の残骸である。
これは外見が植物っぽい別の何かであるという、精密検査結果が出たのだ。そして精密検査結果の後に、ただ一文が付け加えられていた。
『
精密な遺伝子検査の結果、『黒き仔山羊』と類似した体細胞組織を有している。
そして、再生能力に関しての調査の結果、厳密に言うとあの力は、再生能力ではなく『アブホース』のように自分の体から生まれ、本体に吸収される特徴とも考えられる。
しかし、あれほどの圧倒的な捕食能力を有する神格生物は、今のところ確認されておらず、早急な実態解明の為の情報が必要である。
以上、これらの生態的な証拠から
「…やはりあの連中は物騒だな。
検査結果を示す、グリモワールのページをソッと閉じてから、レイジーは椅子の背にもたれかかり、一つ大きなため息を吐く。
(全ての元凶はアイツ等だ。それだけはハッキリと分かっている。だが…この事実を、紙園の連中に伝えるわけにはいかない)
しかし、紙園の神々の力を借りなければ、例の植物群との決着は難しい。スサノオの一件で、その事実を嫌というほど理解はしている。グリモワールは確かに万能だが、それにも限界があるのだ。
(グリモワールにも限界がある。俺だって元は人間だ。下手に滅茶苦茶なことはできない…。それでも、そうだとしてもこれは俺の運命だ。何が何でもやはりアイツ等を巻き込む訳にはいk)
「
「うおッ!?」
いきなり、椅子に座っていたレイジーの背後から、バエルが飛びついてきた。『あたしと遊べ遊べ~!』とバエルが背中で駄々をこねている隙に、レイジーは慌ててグリモワールを懐にしまう。
「だから俺の部屋に入るときはノックをしろと…」
『お言葉ですが、私がちゃんとノック致しました。入室してよいという反応がなく、しかも部屋の扉が少し開いていたもので…』
レイジーの言う事を遮ったガープが、入り口の傍に立っていた。ガープの隣にはパイモンもいる。
「そ、そうか…悪い」とだけ言ったレイジーは、背中に引っ付いているバエルを下す。そんな時、顔のない客がレイジーの部屋を訪ねてやって来た。
『やぁ、主。少し話があるんだが…。おっと、これは失敬。先客がいたようだね』
『…誰かと思えば、ダンタリオン公爵でしたか。最近、他の大悪魔達の姿であちこちをうろつかれていると噂になっておいでです。私としてはお止め頂きたいのですが』
『いやいや、申し訳ない。私はこう見えて、好奇心と知識欲の塊でね。何でもかんでも、ついつい興味本位で知りたくなってしまう癖があるんだ。だから、多少の事は許してほしいな』
『た、多少ってそんな程度では…!』
『あ~、ダンタリオンなのだ~。ダンタリオンも私とバエルと一緒に遊んでほしいのだ~!』
ダンタリオンとガープとの会話を遮るように、パイモンがダンタリオンの手を引っ張って、バエルと一緒に遊んでくれとせがみ始めた。
『おやおや。王女の頼みとあらば、仕方がないですね』と、いかにもわざとらしい口調で、ダンタリオンはパイモンに連れられるがまま、ガープから距離をとった。
『王女様の言うことには従わなくちゃね。じゃ、その話はまた今度ね』とだけ、ガープに対して去り際の言葉を残して…。
ガープは、自分に背を向けたダンタリオンに、何かを言いかけた。しかし、言うのを諦めたのか、独り言をポツリとつぶやく。
『…追及をかわす上手さだけは、本当に72の悪魔随一ですね』
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