決着と謎

『倒しても倒しても、再生する相手とは面白い!』


「馬鹿なこと言うんじゃねぇ! このまま延長戦になったら、こっちが不利になるに決まってるだろ!」


 謎の植物群は、空中に逃げたギルティオンとアイジャー・ヴァーミリオンに、躍起になって食らいつこうとする。


 ギルティオンは、空中旋回で噛み付きを避けつつ、両翼についているカッター状の薄い先端部で、噛み付いてくる植物の葉を切り落としたり、小型の穿攻ミサイルで、植物を吹き飛ばしたりと、相手を翻弄する戦い方をしている。


 一方でアイジャーの方はというと、サクリファイズを全機展開し、襲い掛かってくる植物を片っ端から斬り捨てるという、なんとも豪快な戦い方で相手を圧倒していた。


「良い戦いっぷりだが、飛ばしすぎたせいで燃料切れなんて笑えないオチはよしてくれよ?」


『すまない。こう見えても、かつては高官だった身でな。こうハメを外して暴れられる機会なんてなかったのさ。それとアイジャーは、無尽蔵にエネルギーを生成できる。その点については心配いらないさ』


「あぁ、そうかい。だが、斬っても斬っても、頭数が減るわけじゃねぇ。何とかして本体を地表に引きずり出す方法を考えねぇと…」


 樹の言う通り、斬っても斬っても頭数が減らない。なぜなら相手は切断部位を、何らかの力で接合しているのだ。


 切断部位を接合させた瞬間、白い蒸気を発しながら、切断された部位が何事もなかったかのように、再びギルティオンとアイジャーに牙をむく。


 そんな状況の中、苦虫を嚙み潰したような表情で、樹がギルティオンのメインシステムのチェックをしている最中、オペレーターの一人が生体反応を示すマップと、実際の地図を見比べながらあることを口に出した。


「海です。この生物は海に向かおうとしています!」


「チッ、ここから追跡の手を撒こうって魂胆だな…。そうされたら、今度尻尾を出す時まで、どこに潜んでいるかもわからなくなる…」


『恐らくアイジャーがつけた傷を癒すために、どこかへと逃げているのだろう。それがどこなのか、おおよそでも見当がつけばいいのだが……。それができれば苦労しないか』


 「よく分かってるじゃねぇか。やっぱり高官だっただけあるな」とロータスの言葉に反応した後、樹はしばらく考え込む。


 だが、樹が考え込んでいる間に、刻一刻と海が植物群の目前にまで迫っている。追跡の手が撒かれることを覚悟した樹は、忌々しいものを見る目で、モニターに映る植物群を睨みつけていた。


――――その時だ。


 もう、海が目と鼻の先にあるために、ギルティオンが斬り落とした植物の一つが、海の中に落ちてしまう。


 斬り落とされてしまった先端部に、茎が近づこうとするが、なぜかその茎は海水の中に入ろうとしない。


 まるで――――海水をかのような反応だ。


 その様子を、叶香が見逃さなかった。


「あれ、樹! あの植物、海水を触ろうとしないよ?」


「なに…?」


 叶香の言う通り、植物は海水の中に茎を突っ込んで、損傷部位を接合しようとしない。その様子を見た樹は、ギルティオンの操作を別のオペレーターに任せ、ジッとその様子を見て考え込む。


(仮にだ。仮に化物コイツが、海水を苦手としよう。ならばなぜ化物は、自分が苦手な場所にんだ…? この弱点らしき情報は、自分しか知り得なかったはずだ)


 一瞬だけ彼の脳裏に「誘導されている」という仮定が過ったが、少し顎に手を当てて考える。今までの情報を整理する限りでは、この化物にそれほどの知能は見受けられない。


となると――――そこからはじき出される結論は…。


「…まさか地中に潜んでいる本体には、のか?」


 自身のいる位置、及び敵対生物などの完全に把握するためには、目や鼻や耳が必要不可欠のはず。現在、地表に露出している植物群は、大きさにばらつきがあれど、全員に目がないという共通点が存在していた。


 しかし敵の位置を正確に把握し、危害をを加えてくるのは紛れもない事実。


 最初は気にもしていなかったが、相手は動物と植物のハイブリット種。よって聴覚か臭覚があって当然だと思っていたのが、思わぬ落とし穴だったということだろう。


 しかし問題は、あの植物群は何を以てして、こちらの居場所を正確に把握し、攻撃してくるのだろうか。何をどう考えても、樹は結論が出せなかった。


 説明ができないのだ。視覚と聴覚、さらには臭覚すら持たない生物が、何をどうすれば相手の位置を正確に把握できるのか。


「これは足元を掬われたな。動物と植物のハイブリットだとばかり思っていたが、まさか可能性まであるとは…」


「えっ…!? じゃ、じゃあアレは一体何なのよ…?」


「そこを今考えているところだ。あまり口を挟むな…」


 ミサイルによる爆破攻撃で、あの植物らしき体は燃えない。


 化学薬品系は試していないが、相手にこちらの常識は通用しない所を見るに、あまり期待しない方が良いだろう。


 以上の点を踏まえ、改めて考えなおすと、やはり「生物」という枠を、遥かに超越した存在であることが、さらに浮き彫りになるだけだ。


(ならあの植物らしき姿は、擬態とでも言えばいいか…。食虫植物にも似ていないわけではないが、さすがにここまで凶悪でもないしな)


 (まさか知性的ではない所を除けば、アレは神に近い生物だというのか…?)という考えすら、いよいよちらつき始める。


 しかしアレは、こちらの常識が通用しないとはいえ、確かに生きている生物だと思い直して、その考えを頭の中から排除する。


 まずは与えられた情報を、とにかく試してみる以外に方法はない。猶予はもう幾許いくばくも無いのだ。


「…ロータス、ギルティオンの後方に続け。俺に策がある」


『ほう? 何か思いついたのかね?』


 作戦とは言っても、非常にシンプルなものだ。まずギルティオンとアイジャーを、植物群が届かない高度まで上昇させ、一瞬で海側から陸地に向く位置に急降下。


 そして、ギルティオンとアイジャーの兵装を用いて、人為的に大きな波を起こし、その植物群に波を覆いかぶせる…という内容であった。


「アイジャーがつけた傷はまだ癒えていないはず。更に言えば、奴の地中の潜行速度はそこまで速くない。先ほどの条件を鑑みて、海水が弱点ならば、何とかなる可能性はある」


『なるほど面白い。ならばやるだけやってみようではないか!!』


 ロータスはそう言うと、植物群の隙をついて、背中にある本体のブースターと、サクリファイズのブラスターを全開にして、いきなり高度を上昇させる。


 ギルティオンも負けじと急上昇を行い、植物群の追撃をかわしつつ、アイジャーの高度と並ぶ。


「機体反応、高度上昇中。高度25万…30万…35万…40万m突破! 植物群、これ以上は追ってきません!」


「ここから急降下する。ロータス、耐えられるか?」


『伊達に有人機動兵器の操縦者はしていない。これぐらい訳ないさ』


 樹は「それを聞いて安心した」とだけ言うと、半円を描くような軌道で、海上に向かってブースターを使って、急降下を行う。


 海に着水する手前で、二機は体勢を立て直す。鋼鉄の隼と巨人は、白波を立てながら、陸地に潜む化物と再び対峙した。


 海の上から強襲をかけてくることに気づいた植物群は、こちらに襲いかかろうとするものの、海の上には出てこれないような様子を見せる。


「いまだ! 穿孔ミサイルを海中に複数射出! 海底を爆破し大波を発生させろ!」


 これが好機とばかりに、ギルティオンが穿孔ミサイルを海中に射出し、ソレを爆破させる。ミサイルは、ギルティオンやアイジャーよりも、はるかに巨大な水柱をあげて爆発。そして樹の読み通り、大きな波を立てることに成功した。


『ヴァーミリオンだって負けちゃいない。サクリファイズ全機起動! 対象物は海面!』


 アイジャーはサクリファイズを全機展開し、扇状の物体を作り出す。そしてそれを、最高出力で横薙ぎに振るうと、海面が大きくうねりを見せ、ギルティオンが起こした大波にも引けを取らないほどの波が生まれた。


 その波を防ぐ手立てまでは、流石に植物群も持ち合わせていないようだ。逃げようとしたが、結局間に合わず波を頭から被ってしまう結果に終わってしまった。


「地中にまで海水は浸透しています。あの量を被ってしまえば、流石に深層部まで到達していない可能性はまずないかと思われます」


 一人のオペレーターの憶測とその証拠に、ぐったりと地に横たわっている海水を被った植物群の姿が映し出されていた。

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