大騒動!? 主の周辺事情
「レイジーやヘルメスは、一体何をやってるのかしら……流石に時間かかり過ぎじゃない?」
「作戦立案は、時間がかかって当然だと思うわ。おとなしく待っておきましょう」
一方こちらは、アテナとミネルヴァ達が待たされている待機室。かれこれ、あれから数時間が立とうとしている頃合いだった。
ミネルヴァは、まだまだ腰を据えて、じっくりと待つ意志を見せているが、アテナの方はハリセンを振り回したり、部屋の中を歩き回ったりと、とにかく動き回っている。
そんなアテナの様子を見たアレスが、自前の鉄アレイを持って、上腕二頭筋の筋トレをしながら話しかけてきた。
「ハッハッハッ! お前だって、仮にもれっきとした女の子だろう。何をそんなに慌てる必要があるんだ?」
「……そうね。待合室でいきなり、自前の鉄アレイを持って筋トレを始める男よりも、私はヒマな神様じゃないとだけ言っておくわ」
「お前には言われたくない」と言いたげな、ムスッとした表情を見せた後、アテナはチラと外を何気なく見てみた。
すると、外から部屋に入ってくる、眩い一条の陽光があった。
何事かと、アテナは自身の視界に飛び込んでくる光を、ハリセンの『あいぎす』と自分の手で遮りながら、窓を開け放ち、光を反射する物の物体に目を凝らした。
それと同時に、部屋の中にアマテラス達が入ってくる。
彼女に続くように、クラマやスサノオ、ロキやヘルメス、そして最後に、泣いているバエルを背負ったアモンが、そっと部屋に入ってきた。
参謀役の二人が、部屋に入ってきた瞬間、一時騒然となる。すると、バエルを背負ったままのアモンが、ゴホンと一つ咳払いをしてから口を開いた。
『え~、皆様。大変長くお待たせして申し訳ありませんでした。レイジー様に急用が入ってしまい、作戦立案の会議が中断してしまっております。そして――――』
「な、何よアレ!?」
アモンの言葉を遮る様に、アテナが大声を上げる。その声を聞いたミネルヴァが、アテナと同じ窓から外に目を凝らした。
「あ、あれって……巨人?」
「なに? 巨人だと? アテナもミネルヴァも、バカな事を言うんじゃ……!!」
半分バカにしたような口調で、筋トレを止めたアレスも、その窓から外へと目を凝らす。するとアレスも、二人同様に言葉を失った。
その様子を見ていた部屋の者達は、三人に怪訝な表情を向ける。次第に、その三人が見つめる先を見ようと、窓辺に一人、また一人……と集まり始めた。
その視線の先には、関節と思しき箇所から、白い蒸気を上げる鋼鉄の巨人が、物も言わずに佇んでいた。
『いやはや、本や噂で見聞きするばかりで、私も初めて目にしました。……しかし巨人にしては、金属光沢が見られますが……?』
「私は暴走を止める為に、巨人と戦った事があるが……あんな風貌の巨人は見た事がないな」
「ふぅん……僕以外にも意思疎通できる巨人がいるなんてね」
様々な憶測が、部屋の中で飛び交う中。窓枠によじ登ったスサノオが、その金属に身を包んだ巨人の足元に、ジッと目を凝らす。
その巨人の足元には、紫色の髪をした子供が立っていた。その後姿を見て、スサノオは途端に慌てだした。
その様子を見ても、一切笑顔を崩さないアマテラスは、呑気に高みの見物と言った雰囲気だった。
「まぁ、アレが……。改めて見ると、すごく勇壮な佇まいね~」
「ま、不味いぞ姉ちゃん! あそこにいるの……ツクヨミだ!! ついでにレイジーもいる!!」
「「なんですって!?」」
スサノオの言葉に、いち早く反応したのはアテナとミネルヴァであった。そして数秒間だけ間を置いた後、クラマも反応する。
「スサノオ様、至急私の背中に! 少し飛ばしますので、シッカリと掴まっておいてください!」
「お、応!!」
クラマに言われるがまま、スサノオは困惑しながらも、彼の背中に飛び乗った。それとほぼ同時に、アテナとミネルヴァが窓から外に飛び出した。
するとレイジーの前に、一人の少女が突如として現れる。それを見たスサノオは、背中に乗ったままクラマに話しかけた。
「おいクラマ! あの時話してた姉ちゃんがいる!」
「……という事は、巨人が彼女を食べていたのではなく、巨人は彼女の所有物……!?」
「その確認は後だ! ……なんか前の二人から、変な殺気を感じる」
「アテナ様とミネルヴァ様から……?」
疾走するアテナとミネルヴァを、後ろから追いかけるような形で、クラマがスサノオを乗せて飛んでいる。
スサノオ達は、ツクヨミの一大事と考えていたが、アレがカエデの所有物なのかどうかの確認を、真っ先にするべきと目的を変更した。
……一方で、スサノオ達の前にいる二人は、レイジーの前に少女が出てきた瞬間、周囲のオーラが変わったような気がしてならないが。
あと目標まで20mを切った地点でも、二人は減速する兆しを見せない。恐らくは……と思ったスサノオが声を張り上げて、レイジーに危険を知らせた。
「レイジー、避けろッ! 下手すりゃ死ぬぞ!」
「あん? 今なんて言t……」
「「こぉんの……タラシ野郎が~~ッ!!」」
息を合わせて、二人が同時に跳躍。華麗に空中で一回転したかと思えば、某特撮にもあるライ○ーキックにも似た光景であった。
まずアテナの足が、レイジーの右の蟀谷辺りを捉える。そこへ更に追い打ちをかける形で、ミネルヴァの足が脇腹の右側を捉えた。
レイジーは死角からの攻撃であったのと、完全に油断していた事もあって、モロに二人の蹴りを受けてしまった。
「フゴォォッ!?」
同方向から、二つの力が体に加わったレイジーの体は、歪に折れ曲がったような状態で地に倒れ伏す。これだけしても、まだ物足りないのか、打ち倒した彼の体の上に、二人が足を乗せたまま着地した。
すると、二人が勢いを殺しきれなかった為に、レイジーがまるで、床にモップ掛けをされるように、地面を滑走し始める。
その様子を、目の前で目の当たりにしたカエデとツクヨミは、彼の身に何が起こったのかサッパリ分かっていない。
分かっている事は、いきなりレイジーの姿が視界の下側に消え、代わりに二人の少女が、自分の視界に飛び込んできたかと思えば、猛スピードで飛び込んできた方向とは、反対側の視界へと消えていった程度である。
2mも地面を滑走して、レイジーはやっと止まった。彼の姿は、最早ボロ雑巾同様の姿となっている。
「さぁ、これは一体どういう事なのか……キッチリと説明してもらうじゃないの!!」
アテナに胸ぐらをつかまれて、無理矢理立ち上がらされたレイジーの姿は、服こそボロボロだが、肉体は無傷のままだ。
あれだけの危害を加えられても、体に目立った外傷は無いのは不思議なことだが、余りにも強い衝撃を受けたレイジーは、当たり前だが気絶してしまっていた。
気絶していると悟ったアテナは、脇で控えていたミネルヴァからハリセン『あいぎす』を受け取ると、レイジーを真上に放り投げる。
そして頭から落ちてきたレイジーの脇腹に、再びハリセンが激痛と共に深々と突き刺さった。
「フブァッ!?」
アテナとミネルヴァの、二人に分けられている状態とはいえ、彼女もれっきとした神である。二分割されていても、元々の怪力が途轍もない事は、火を見るよりも明らかだ。
まるで、ゴムボールをノックするような感覚で、レイジーがアテナの向いている方向へと吹き飛んだ。
地面を数回バウンドした後、地面を横たわったまま、また数mほど滑走して停止する。先程のキックに加え、更に服がボロボロになっていた。
これだけの仕打ちを受けても、彼の体は何ともないのだから、アテナ達からすれば、『いくら叩いても決して壊れないサンドバック』のような感覚なのだろうか。
目の前で繰り広げられた壮絶な光景に、流石のスサノオも目を疑った。なにせ、自分達よりも遥かに強い主が、完膚なきまでに二人の女性から、虐殺も真っ青な暴力を受けているのだから。
「な、何をやったんだ……アイツ等?」
「外界の神は、とにかく気性が荒いとは、前々から噂を聞いたうえで、アテナ様達と関わってまいりましたが……。『歩くだけで災いを振りまく神』と名高い、スサノオ様以上の暴れっぷりですね」
「おい、それどういう意味だ?」
スサノオとクラマの二人には、特にアテナが荒ぶる神にでも見えているのだろう。
殺気のオーラを、四方八方へと撒き散らしながら、地面に横たわっているレイジーへとアテナが迫る。
その時、カエデが今にも泣きそうなツクヨミを抱きかかえて、スサノオとクラマの元へと一目散に駆けてきた。
ツクヨミは、二人の顔を見た途端、二人に向かって両手を伸ばし、ポロポロと大粒の涙を零し始める。
「スサノオォ、クラマァ……」
「情けねぇな! 俺より上の癖して、そんな事で泣くな……と言いたいが、こればっかりは仕方ねぇか」
「ツクヨミ様、大丈夫でしたか!? ……カエデ、恩にきる」
「お礼なんていいって。そんな事よりも……あの人達どうするの? 私の姿を見た途端、怒りの矛先がアイツに向いちゃってるけど……」
我関せずと言った表情で、カエデは後ろにいるアテナ達を指さした。その先には、満身創痍になっているレイジーに向かって、ギャーギャーとアテナが怒鳴り散らしている。
クラマはアマテラスの従者であった為、アテナもミネルヴァも、彼の事は知っている。
この巨人については、カエデかツクヨミに聞いても何か分かるのだろうが、今はアテナとミネルヴァの暴走を止める事が、何よりも先であった。
クラマは少しだけ咳払いをした後、スサノオを下ろしてツクヨミと一緒に居させる。そしてなるべく彼女達を刺激しに様に静かに近寄り、少し控え目な声で二人に進言した。
「アテナ様にミネルヴァ様。お言葉ではありますが、レイジー殿を放さない限り、こうなっている理由を聞けないのでは?」
「あん!? ……ま、まぁそれもそうね」
「た、確かにクラマさんの言う事に、一理ありますね……」
クラマに諫められた二人は、彼のいう事に従って、レイジーを開放した。唐突に放されたレイジーは、自分の首元を抑え、肩で息をしながらクラマをチラリと見る。
「お、おうクラマ……助かったぜ」
「そんな事よりも、レイジー殿とカエデに申し上げたい。あの巨人を、ツクヨミ様の御力で、ここまで運んできたのは分かりました。ですがこの巨人は一体……?」
「あぁコレ? コイツは私の愛機デウスクエス。……尤も、コレに乗ったのは、あの時が初めてだったんだけど」
「んでアテナとミネルヴァ。お前達にはまだ紹介出来てなかった奴だ。コイツは『風木 蓮華』。俺がお前達に出会う前、アレの二号機にあたる、アラストゥムってのに乗ってた頃の相棒だ。……結局俺はソレを操縦出来てないんだが」
「あ、じゃあアレですね。ご主人を助けたって、アモンさんが言ってた時の……」
「あぁ、それと。例のニセモノ騒動についてだが。……コイツが造った機械だったらしい。それを別の奴に勝手に使われて、俺達が体験した今回の騒動に発展したんだとさ」
「って事は、この人もアンタも、向こう側の人間じゃないの!!」
アテナは、暫く考えた後に、ハリセンを構えてレイジーを脅し始める。
いきなり喧嘩腰になったアテナに、何とか事情を説明して落ち着けた後、ゴホンと一つ咳をしてからレイジーが再び喋り出した。
「……つまり、俺達と敵対していた組織は、俺がかつて所属していた軍隊だったと言う訳だ。しかし、その軍隊は謎の生物によって、カエデ一人を残して全滅してしまったらしい。よってコイツは、もう敵対する組織に所属していない。その組織自体が、跡形も無く消えてしまった訳だからな」
「……要するに、戦う相手が変わってしまったと?」
「つまりはそういう事だな。いきなりの事で、アモンや参謀に起用した奴等にも聞いてみたが、誰一人として、その生物に思い当たる節を持った奴はいなかった。そこで調査もかねて、あの騒動になった機械を、カエデに修理してもらう事になった訳だ」
ミネルヴァは、レイジーの説明を聞いて、納得したような表情を浮かべる。……肝心の加害者であるアテナは、終始納得しかねた表情であったが。
そんなアテナの表情を見たカエデが、アテナの顔を覗き込むと、他の者達には聞こえない程の声量でボソリと呟いた。
「……もしかして、妬いてる?」
「ま、まさか! 何で私があんな奴に……」
その表情を見て、これは図星だと見抜いたカエデは、アテナの肩に手を置き、意味深な頷き方をした。
「うんうん……最初は誰だってそう思うのよ。でもね……アイツと関わってる内に、気がついたらアイツに対する考え方が変わってたりするのよ。そんな出来事がなかったかしら?」
「……!!」
その顔は、明らかに心当たりがあるような表情をしている。彼女の額から、汗が少しだけ滲んでいた。
これは核心を突いたと、確かな手応えを感じたカエデは、少しだけニヤリと笑った後、アテナの肩を叩いてから口を開いた。
「まぁ、私には関係のない事よ。アイツは私の相棒だった男。それ以上でもそれ以下でもないわ」
そう言ったカエデは、レイジーに手で合図し、例の騒動の原因となった機械の修理へと向かう。
そんなカエデの後ろ姿を、少しだけ恨めしそうに見るアテナ、それを慰めるミネルヴァと、そんな二人を見るクラマとスサノオがその場に残された……。
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