第12話
深い眠りについていた。
かつて、これほどまでに熟睡したことがあるかと思うほどに深いものだった。
人の気配を感じて目を覚ましたが、その深すぎる眠りがゆえに、脳が働かず状況を瞬時に把握することが出来ない。
「動くな」
己の行動を制止する声。
その声により、相手が誰であるかはすぐに察した。
「そのままでいい」
「若、これはーー」
「お前が人のいる空間で、ましてや俺の部屋で寝ているとは珍しいな」
看病をしている間に寝てしまったらしい小夜さんが、自分の隣で寝息を立てている。
決してやましいことがあるわけでもなければ、若がそんな勘違いをするはずがないと分かってはいても、状況が状況だけに謝罪するべきだ。
そんな思考を読んだらしい若は、自分が言葉を発するよりも早く口を開いた。
「責めているわけではない、寧ろ、感心している」
「‥‥」
「お前のその体質には、そうなり得るだけの事情があった。だからこそ、改善策を見つけるのは非常に困難だと思っていた。ーーそれが、こんなにあっさり見つかるとはな」
布団を被りもせずに眠っていた小夜さんを抱えると、布団を掛けて寝かせた。
そのままベッドに腰掛けて未だ夢の中を彷徨っている小夜さんの髪を梳くようにして撫でる。
その姿を見て目を細めた頃には、緊張感など抜け去っていた。
若は昔から女関係が派手だった。
一夜を共にした女は数知れず、しかし誰一人として2度目があったことはない。
何度か女性といるところを見たことがあるが、常に無関心でそっぽを向いていて懲りずに話しかける女の存在を無視していたくらいだ。
女性関係だけではなく、若は何に対しても他人事で冷めている。
長い時を共に過ごしながらも、一度として笑った顔を見たことがない。
「今後は小夜に付け」
「分かりました」
「すぐにとは言わないが、その体質を多少なりとも直せ。たかが女に触れられたくらいで吐かれては、今後の仕事に差し支える」
「はい」
ーーだが、どうだろう。
こうして小夜さんに向けるその眼差しは、酷く穏やかで自分の知らない顔をしていた。
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