役割
第10話
温かい。
体がポカポカして、どうしてだか無性に心地が良い。
「‥‥時雨?」
蠱惑的な美貌を無防備に晒す男の顔を見ながら、状況が理解できずに困惑する。
私が身動きしたことで覚醒を促されたのか、低く唸りながら体ごと引き寄せられた。
‥‥どうして私は、時雨に抱き締められるような形で寝ているのだろうか?
昨日、家に帰ってきてからの記憶がない。
長いこと夢を見ていたような気もするが、内容が全く思い出せない。
身なりは整っているから抱かれたわけでもないだろう。
なら、こうして密着しているのは何故か。
時雨が行為の時以外で触れてくることはない。
一緒の部屋にいても一定の距離はあるし、同じベットで寝ていたとしても同様だった。
だからこそ、今の状況が異常に思えてならないのだ。
「‥‥起きたか」
寝起きのせいで覇気のない掠れた声は、時雨には悪いがらしくなくて違和感が凄い。
まだ眠いのか、半分ほどしか開かれていない瞳を擦りながら瞬きを繰り返す。
その様子を見ているのと、なんだか胸のあたりがむずむずとしてくる。
「眠いの?」
「‥‥ああ、お前のせいでな」
「え?」
身に覚えがなくてポカンとした私を呆れたように一瞥すると「起きたら覚えとけよ」と言い残して眠りについてしまった。
釈然としないままその様を見た後、する事もなく時雨の隣で横になると穏やかな寝息につられるようにして熟睡した私は、本調子に戻った時雨に無理やり起こされるなり、思う存分に抱かれる羽目になったのだった。
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