第15話
◇
私は人一倍、他人からの悪意というものを感じ取ってしまう体質だ。
今まで幾度となく受けてきたからこそ、敏感になっているのかもしれない。
そして、最近はより強く感じるようになった。
次第に強くなっていき、さすがに嫌気がさしてきたころにそれは現れた。
「星宮さん」
聞き慣れたその声を、私の全てが拒絶するかのように鳥肌が立った。
「今、1人?」
以前とは話し方も、名前の呼び方も、表情さえ違う。
しかし、その瞳に込められた負の感情は健全だった。
「一緒に食べようよ。‥‥久しぶりにさ」
一体、どんなつもりで話しかけてきたのかは分からない。
あれだけのことをした相手に、こうも軽々しく話しかけられるのはある意味彼女らしいとすら思える。
「あの、私は‥‥」
「何、もしかして嫌なの?小学校からの友達なのに?」
〝友達〟だなんて、冗談だとしても趣味が悪すぎる。
「せっかく
「そうそう、どうせ食べる相手もいないんでしょ?」
千穂を中心に、数人の女が私を囲うように並ぶ。
この有無を言わさない空気が、昔から大嫌いだった。
できることなら、今すぐ突き飛ばしてでも抜け出したい。
けれど、私にはそんな度胸はなかった。
身をもって知っているから。
ーー自分が、いついかなる時も虐げられる弱者であることを。
「星宮さんって、変わったよね。昔は地味でダサくてガリガリで暗かったのにさ」
「そうなの?全然想像できないけど」
「でも確かに暗そ〜、全然喋んないし」
「それに前はよく倒れてなかった?ギンギンが毎度介抱してたから、一時期デキてるって噂になってたじゃん」
「そうそう、したらまさかのまさかであの〝帝王〟に気に入られるっていうね」
「羨ましい〜、生徒間じゃ一番人気のギンギンに、あの帝王に、いっつも送り迎えしてくれる銀髪の超美形の人もいるしさ〜」
ーー面倒だ。
心の底からそう思う。
言葉の裏には〝なんであんた如きが〟と蔑む意図が見受けられ、居心地の悪さで食事が喉を通らない。
こんな時こそ時雨がいてくれたらと、思ってしまうくらいだ。
「千穂なんて、入学した時からずっとアプローチしてたのに、一度も相手にしてもらえなかったっていうのにね」
「そうそう、千穂マジかわいそう〜」
「実のところどう取り合ったの?」
「それ!私も気になる!」
「やっぱ体の相性ってヤツ?星宮さん脱いだら凄そうだしさ〜」
「ちょっとエリ、その言い方は酷くない〜?」
「ええ、いいじゃん。あの帝王に好かれて散々いい思いしてるんだから」
昔の嫌な記憶が脳裏を過り、吐き気さえしてきた。
息苦しさに胸を抑えていると、幸いにも着信音が鳴った。
『小夜さん、今着きました』
無名の声を聞き、少しだけ息がしやすくなった。
まさに絶妙なタイミングだ。
「私、もう行かないと」
「あれ、星宮さん午後のコマないのぉ?」
「今日は用事があって」
「ふーん。そんなんだ。てかさ、もしかしてあの超絶美形の人来てるの!?」
「え!見たい見たい!」
本当は朝から体調が悪くて、組の会合があるらしい時雨から休めと言われたのを押し切り、せめて昼までの許可を取ったのだ。
騒めく彼女達をやり過ごし、見えなくなったところで安堵のため息を吐いた。
ーーその時だった。
階段を降りる途中で、背後から人為的な力が加わったのは。
完全に不意をつかれてしまい、抵抗することも受け身を取ることもできない。
下へと急降下する体に心臓が激しく波打つ。
その最中、一瞬だけ見えた人影。
『死ねよ』
言葉を発することなく口元だけ動かし、歪んだ笑みを浮かべた。
ーー私は、死ぬのだろうか。
こんなところで、こんなことで、こんな場所で、こんなヤツの手によって。
『星宮〜、ちょっと付き合えよ』
かつて、私を苛める主犯格だった彼女。
小学校から高校まで続いたそれは、私の中の尊厳というやつを根こそぎ奪っていったんだ。
気を失う寸前、視界に入ってきた彼女の瞳は、憎悪に満ちていた。
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