第6話
無名は深手を負ったもの、幸いにも命に別状はなく、後遺症も残らないようだった。
治療が終わるとすぐに目を覚ましたけれど、血の気が引き、病的なまでに蒼白い顔や、ここに運ばれるまでに流した血の量を思うと、罪悪感で胸が押しつぶされそうだった。
無名がこういうことに慣れているため、急所を避けられたのは偶然でしかない。
もし、取り返しのつかないことになっていたらーー。
そう考えるだけで恐ろしくなる。
「‥‥ごめんなさい」
病院のベットに横になる無名の手を握りしめ、地面に膝をついて深く頭を下げた。
「どうか、気に病まないでください」
「いいえ。謝って済む話ではないけれど、あなたを傷付けてしまったことを謝罪させてほしいの」
「‥‥小夜さん」
「本当に、ごめんなさいっーー」
無名は時雨の護衛や補佐をしているほどの実力者だ。
私がしゃしゃり出なければ、事はもっと穏便に済んだのだろう。
あの場で私がしたことは悪手でしかなかったのだ。
泣く資格なんて無いのに、涙が伝う。
痛々しい無名の姿に、胸が張り裂けそうだ。
「‥‥嬉しかったんです」
しかし、無名からかけられた言葉は想像していたものとはかけ離れていた。
「私のことで感情的になって、怒ってくれたことが」
困惑する私に、優しく微笑む無名。
‥‥この人は、こんな顔で笑う人だっただろうか。
「情けない話、あの女を前に萎縮して動けなかったんです。小夜さんの言葉で、ようやく我に返りました。だから、謝るのは私の方です」
「‥‥無名は何も悪くないじゃない」
「守るのは私の役目です。それなのに、あなたに守られた挙句、こうして怪我までさせてしまった」
「‥‥私は、無名を守れてなんかいない」
「では、お相子ということにしましょう」
私の手をとり微笑む無名。
どう考えても非があるのは私の方なのに、こうして気に病まないようにしてくれる無名は、本当は優しい人なんだと心の底から感じた。
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