第32話

 輸送船ライゼンダーは『戦艦セージ』に着艦した。艦内は見慣れない騎士国の輸送船に注目が集まっていた。マルティナとこの艦隊を率いる艦長と多数の乗船員たちが出迎えてくれた。

 艦長はホレイショと同じか少し歳上の若い女性だった。あざやかに輝く黒い髪をまとめ、少将の階級章をつけた軍服を着用している。青紫色の瞳と白い肌。鼻筋が通った顔立ちをしているが、落ち着いた雰囲気と鍛錬を重ねて引き締まった体が軍人らしい。

「心配をかけてしまいましたね。カミラ。マルティナ。乗組員の皆さまにもご心配をおかけしました」

 ジェニファーは乗船員たちに手を振ると、ホレイショが驚くほど大きな歓声が返ってきた。頭を上げたカミラは落ち着いた声で答えた。

「ようこそ戦艦セージにご来艦くださいました。話を伺った時は驚きましたが、エディンバラ殿下がご無事で何よりです」

「私ひとりではここまでくることができたかわかりません。後ろにいらっしゃる皆さまのお力のおかげです」

 ジェニファーは振り返ってホレイショたちに視線を向けた。自然と背筋が伸びる思いだ。

「先ほど連絡がありまして、会議を終えたエリナさまがこちらに戻って来られるようです。起動した黄金の鎖を見た住民たちが動揺し、市街地にあふれております。当艦隊にも出撃命令が降っており、お迎えに割ける人員がいません」

「エリナが戦艦セージに戻ってくるの?」

 ジェニファーが驚きの声を上げると、マルティナが頷いた。

「詳しい話はご本人からされるようです。エリナさまを迎えに行ってきて欲しいのですが、カーター少尉にお願いすることはできるでしょうか?」

「俺でよければ構いませんが、いいのですか?」

 ホレイショは艦長であるカミラに確認をとった。

「エディンバラ殿下の護衛の方なら問題はありません。私たちも人手が足りず困っていましたし、エリナさまご本人からも承諾はいただいています。会場と戦艦セージは離れていますが、お願いできますか?」

 ホレイショが承諾の返事をすると、ソフィアが手を上げた。

「それなら私も行きます。道中に何かあるかもしれませんし、お役に立てます」

 カミラとマルティナはジェニファーに視線を向けた。

「彼女は信頼できる私の友人です。先ほど紹介もして、ソフィアのことはエリナも知っていますし、ふたりの方が安心できます。私からもお願いしてもいいでしょうか?」

 カミラは頷いた。ホレイショとソフィアはアストロン・フレームに乗り込んだ。

 戦艦セージの格納庫はアテナとフリューゲルの存在にざわついた。アテナはでモリス艦隊でも見覚えがあるものは多いが、フリューゲルは見覚えのない騎士国製の試作機だ。作業員たちの視線を集めながら、アテナとフリューゲルは飛び立った。

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