第24話
マリエルと別れて宮殿に戻ると、ミハエルとルイスが呼んでいると執事の男性から伝わり、3人は宮殿の上にあるルイスの執務室を訪ねた。
執務室には大きなソファーとテーブルがあり、そこにホレイショたちは座った。
「城下町に行ってきたのだろう?」
「はい。おじさま。楽しかったですが、いろいろと話を聞かせてもらいました」
「そうか。では改めて、この惑星に起きていることを説明させてほしい」
ルイスはテーブルの上に資料を投影した。それはある町が破壊された様子を克明に記録したものだ。
「ことの始まりは数か月前に遡る。ある港町が、突如何者かに襲撃を受けた。現在は復興が進んでいるが、その被害は甚大なもので、幸いなことに民間人に死傷者は出なかった」
破壊され、瓦礫の山と化した町は見ていて痛々しい。死傷者が出なかったのは奇跡のようにしか思えない。
「数日後、この事件を引き起こした連中から犯行声明文が届いた。連中は自分たちを『終末の使徒』と名乗り、自分たちの行いは神の意志によるものだと公言した」
犯行声明文が投影された。そこには自分たちの行いは神の意志によるもので神聖な行為であったと述べ、さらにこの行動を継続すると書かれていた。
「こんな身勝手を許すわけにはいかない。惑星フェストルアンの政府は捜索を始めた。しかし、成果を出すことができず被害は別の町にも広がっていった」
惑星フェストルアンの地図が表示された。海岸線が長く、複雑に入り組んだ港町が多いのが特徴だ。ルイスに代わってミハエルが先を話した。
「アヴィニャンやムルティガ、ローニュの町も被害を受けた。その被害は徐々に拡大し、死傷者も出るようになってしまった。観光業にも小さくない打撃を与え、この惑星の住民と政府は追い詰められていった。この惑星から別の惑星に逃げ出したものも少なくない」
ジェニファーは悲しみの表情を浮かべた。
「そしてつい先日、この惑星の首都トゥールーズに攻撃を仕掛ける旨の手紙が政府あてに届いた。それと同様の手紙が私のもとにも届いた」
「おじさまにも手紙が?」
「そうだ。それが君たちをこの惑星に呼んだ理由になる。私の戦力は限られているし、これ以上の狼藉を許すわけにはいかない。首都トゥールーズへの攻撃を阻止することが、今回の目的だ」
「終末の使徒は、首都トゥールーズへ攻撃する時間と侵攻方法について知らせてきた。惑星フェストルアンの捜査当局の目をかいくぐって今まで活動してきたことで、自信をつけたようだ」
ミハエルの手により手紙で知らされた侵攻方法が投影された。どうやら城下町の大きな港を起点に侵攻を始めるつもりのようだ。
「城下町モンペイユは大きな運河が流れている。それをたどれば、半日もかからずに首都に到達する。我々としては、侵攻が始まる前に終末の使徒を抑えたかったが、失敗してしまった」
ルイスはため息を吐いた。
「終末の使徒は、どのような戦力を持っているのでしょう?」
ソフィアの質問にはミハエルが答えた。
「全体像は把握していない。正公国のアストロン・フレームが多数確認されている。でも、戦力についてより警戒したいものがある」
ルイスは頷いた。
「アヴィニャンの町では、住民が巨大な機影を目撃したという話があった。しかし、その姿は一瞬ですぐに消えてしまったようだ」
「姿を消す機体は、複数の町の住民たちから聞くことができた。特殊な大型のアストロン・フレームが使用されている。油断はせず、戦闘には細心の注意を払うように」
ホレイショとソフィアは頷いた。ジェニファーがルイスに尋ねた。
「住民の方たちの避難は済んでいますか?」
ルイスは首を振った。
「敵の攻撃を受ける危険があるので事前に避難してほしいと通達しました。避難場所はこの宮殿か麓の教会がありますが、やはり生まれ育った家や土地に愛着がある人が多く、避難民は今でも増え続けています」
「住民や政府も快く協力してくれています。攻撃開始の早朝6時までには完了する見込みです」
「それなら良かったです。少し安心できました」
ジェニファーは先ほど知り合ったマリエルのような住民のことを考えていたようだ。安心したように息をついた。
ルイスは周辺一帯の地図を投影すると、作戦内容を話し始めた。
「城下町モンペイユに我々騎士団を中心にした部隊を配置する。上陸地点は複数考えられるので戦力は分散されてしまうが、必要に応じて即時対応してもらう。この宮殿から周辺一帯を見渡せるため、ミハエルはここから全体の指揮を執ってもらう。ソフィアは私と共にモンペイユに展開する部隊に配置。ジョニー・デップ君はこの宮殿に残って予備戦力として後方支援を任せる。何か質問はあるかな?」
ホレイショは気になることを質問した。
「ではひとつだけ聞かせてください。大型機に対する対策はあるのでしょうか?」
「突貫工事ではあるが、避難場所に指定された教会にバリア発生装置を設置した。この宮殿も武装を強化し、同じくバリア発生装置を設置している。少しの攻撃ではものともしないはずだが、なにぶん急拵えの設備であるため不安はある。アルジェント騎士団から戦力も融通してもらっているし手抜かりはない。あとは、我々の対応次第だな」
ホレイショはルイスの瞳の奥に宿る静かな自信と確かな実力を感じた。
「わかりました。出過ぎた質問をしました」
「気にしないでくれ。当然の疑問だし、私もすっきりできたよ」
ミハエルはその場を締めくくる一言を発した。
「では明日の作戦開始時間まで、ささやかではあるが晩餐会を開く予定だ。長い戦いに備えて、英気を養ってくれ」
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