第7話

 再びコーンウェル大佐が姿を現したのは、出発を翌日に控えた日の夕方になってからだ。

 翌日に惑星アナドールに出発するため、書類や荷物の最終確認をしていたところ侍女のリリアンに呼び止められた。

「ご出発の直前になってしまったことをお詫び申し上げます」

 コーンウェル大佐は数日前と変わらず紳士のように立ち振る舞っていた。頭を下げると、ジェニファーは気にしていないと伝えた。

「ご報告があります。失踪していた技術者サイモン・エヴァンスの遺体が発見されました。場所はエヴァンズの自宅から離れた山奥で、通りかかった市民からの通報でした。遺体の一部が白骨化しており、死後から時間が経過していたことがわかります。おそらく失踪直後に殺害され、山の中に遺棄されたと思われます。写真をご覧になりますか」

「いえ。やめておきます。死因はわかりましたか?」

 コーンウェル大佐の資料にはサイモン・エヴァンスの遺体が撮影された写真があるようだ。ジェニファーは謹んで辞退した。

「頭部を鈍器で殴られた痕跡があるようです。他に目立った外傷はなく、医者の見立てではこれが死因ではないだろうかとのことです。遺棄された現場には遺留品や凶器はなく、実際の殺害現場はここではないようです。すでに捜査機関は会社や同僚の自宅を調べているようですが、痕跡や不審な点はなく、殺害現場と犯人の特定には時間がかかるようです」

「続報を待ちましょう。製造された部品については進捗がありましたか?」

「部品の発注先がわかりました。少々複雑に入り組んでいたので判明が遅れましたが、国外のある人物が関わっているようです」

 コーンウェル大佐は資料を差し出した。

「こちらには遺体の写真は入っていないので安心してください。人物の名前は、アンドレア・バーダ。実業家として銀河に知られている男ですが、武器の密造や違法な取引に関わっているとして各国の政府機関に警戒されています」

 ジェニファーは添付された男の写真に目を向けた。30代後半の男性で、身なりに気を配り成功した経営者とした風貌だった。資料にはアンドレア・バーダが取引したと思われる数々の武装集団や反政府組織の名前が列挙され、その中にジェニファーにも覚えがある名前は少なくなかった。

「この男。若いのになかなか用心深くて証拠を残しません。各国の捜査機関も手を焼いています。この男が関わったとみられる企業が部品の発注元でした。現在、この企業は惑星アナドールに本拠地を置いているようです」

 アンドレア・バーダの経営する企業のひとつが、ジェニファーがこれから公務に訪れる惑星アナドールに本拠地を置いているようだ。

「バーダの目的がわかりません。わざわざ手間をかけて帝国で部品を製造する必要があったのでしょうか」

 コーンウェル大佐は首を振った。

「まだ詳細はわかりません。武器商人であるアンドレアが、新しい事業として兵器の密造に乗り出したのかもしれません。交通の要衝である惑星アナドールは、様々な惑星に通じる中継地点でもあります。この惑星で製造すれば辺境の惑星まで素早く移送できます。遠方の惑星で偽って部品を製造し、本拠地で組み立て顧客たちに輸出する。自分は儲かり、捕まることもない。いいことを思いついたものです」

 ジェニファーはある資料があることを思い出した。それを取り出すと、コーンウェル大佐に渡した。

「これはヴィスコンティ公爵に頼んで探してもらった惑星破壊兵器に関する資料です。私も目を通しましたが、色々と姿形を変えて惑星破壊兵器というのは存在するようです。参考になるようでしたら差し上げます」

 コーンウェル大佐は資料を食い入るように見つめた。そして視線を上げると、深く頷いた。

「そうしてくださると我々も助かります。何せ手がかりすらない状況での捜査です。参考になる資料があるとは、さすが公爵さまです」

 コーンウェル大佐はジェニファーに深く一礼した。

「続報が分かり次第またご報告にあがります。惑星アナドールでのご公務には影響はないかと思われますが、どうかお気をつけていってらっしゃいませ」

 扉を開ける前に再び一礼すると、コーンウェル大佐は執務室を静かに後にした。

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