第21話
惑星フェストルアンは、恒星から程よい距離に位置しているため、一年を通して温暖で快適な気候を維持している。
元々わずかな住民しか居住しなかったが、この静かな辺境の惑星にクロノスをはじめとした資源が発見されたことで人口は一気に増加。騎士国や聖王国、聖十字教国など列強がこぞって資源獲得のために出兵した結果、住民を巻き込んだ大規模な戦闘が発生、多くの住民が犠牲になった。列強各国は資源を等分することで同意し、惑星の統治は騎士国が担うことになった。
クロノス鉱山開発も落ち着いて、現在は美しい海と青い空、白い砂浜など、豊かで穏やかな自然を目当てに多くの人々が訪れる惑星になっていた。
輸送船ライゼンダーは、雲一つない晴れ渡った空と透き通った海に挟まれながら進む。緑豊かな大地を見下ろしていると、きれいに切り開かれた街がポツンと現れた。一感のある白い街並みを見下ろしながら緩やかに高度を落とし、小高い丘の上に建てられた広大な石造りの宮殿に着陸した。
尖塔が立つ城砦というよりも貴族の邸宅や別荘といった雰囲気の優雅な宮殿は、三重の城壁と増設された砲塔で、堅牢な要塞に姿を変えていた。
すぐに執事の男性と数名のメイドたちが駆け寄り、ミハエルとあいさつを交わした。メイドたちが荷物を速やかに運び出していくと、男性の執事がホレイショたちを宮殿まで先導した。
宮殿まで伸びるまっすぐな道。手入れの行き届いた見事な庭園。感嘆の声を上げる間もなく、宮殿の中に進むと、騎士たちが整然と並び、その奥には騎士たちをまとめる男性が静かに佇んでいた。
主人である男性は、銀色に輝く髪をきっちりと整えていた。体格も大きく肩幅は広いが、年齢を感じさせない若々しい体だった。日々の鍛錬を欠かさないからこそ身に着いたのだろう。そして、翠の瞳は旧友に再会した喜びにあふれていた。
「よく来たな。ミハエル。歓迎しよう」
「ルイス。盛大な歓迎ありがとう。道中、海賊に絡まれてしまって遅れたよ」
「気にしていないさ。呼び出したのはこちらだ。5分ぐらいは大目に見よう」
握手を交わし、冗談交じりの挨拶を交わす。肩を叩き、ふたりは再会を喜び合った。
「おじさま。ソフィアも来ましたわ」
「もちろん忘れたわけじゃない。ソフィア。見違えるように美しくなった」
「その言い方、少しオジサン臭いです」
軽く抱き合った後、ソフィアに指摘されると宮殿内に響くような声で笑った。
「そうか。注意しよう。フリューゲルの調子はどうだ?」
「順調です。まだまだ私が使いこなせなくてはなりませんが、他のアストロン・フレームに後れを取ることはありません」
ルイスは満足気に頷いた。
「ソフィアの実戦経験は、次世代のメッサーシュミットの開発の基盤になる。集積され、時間をかければより良いものができるだろう。協力してくれて、本当に助かる」
「もちろんです。身に余る光栄です」
恭しく丁寧に振る舞うソフィアを見ていると、猫をかぶるとはこういうことかとホレイショは感じた。次にルイスはホレイショとジェニファーに視線を向けた。
「こちらのふたりを紹介してくれ」
「彼女たちは僕らの友人だよ。君の用事が終了した後に、惑星アナドールまで送る予定だ」
「ジェニー・シェフィールドと申します。バイエルン侯爵さまにお会いできて光栄です」
「ジョニー・デップです。侯爵閣下。以後、お見知りおきいただけると幸いです」
ルイスにジェニファーの顔を知られてしまっている可能性があった。
持参した荷物にあった化粧品とソフィアの情熱的かつ的確な手捌きにより、ジェニファーは別人のように変貌した。帝国の皇女さまから惑星間を飛び回る商人になった姿を見て、ホレイショは驚いた。あらかじめ、ソフィアにはちゃんと褒めるように言われていたが、そんな言葉を忘れてしまうほど自然と言葉が出てきた。
ジェニファーの化粧を手伝ったソフィアは、長時間の作業であったのにもかかわらず、非常に満足気な笑顔を浮かべていたのが印象的だった。
「初めまして。私はルイス・バイエルン。アルジェント騎士団の団長です。ミハエルの友人なら、私にとっても大事な友人です。時間はないかもしれませんが、ゆっくりとくつろいでください」
あらかじめミハエルから聞かされていたが、実物を目の前にするとホレイショは手が汗ばむことを覚えた。騎士国の有力な領主にして、アストロノートとしても高名なルイスは、帝国軍の中でも恐れと尊敬を集めている存在だった。
ルイスの視線がホレイショに向けられ、背筋に緊張が走った。
「ジョニー・デップ君。君の活躍を期待しているよ」
「ありがとうございます。ご期待に沿えるよう、努力します」
ホレイショは緊張を悟られないよう、出来るだけ自然に振舞った。ルイスも特に不審に思うことはなかったようで、ミハエルに視線を戻した。
「まずは君たちの長旅を労おう。その後で話をさせてほしい」
「わかった。ソフィアたちは先に休んでいるといい。私とルイスは顔見知りたちに挨拶してくるよ」
「宮殿にいる間はこの子に申し付けてください。アンネリーゼ。こっちに来て挨拶を」
ルイスに呼ばれて、ひとりの小柄な少女がキビキビとした足取りで進んできた。年齢はソフィアと同じぐらいで、桃色の髪を肩口まで伸ばし、騎士団の紋章が入った服を着用していた。
「はじめまして! アルジェント騎士団所属、第二級従士アンネリーゼ・カロッサです! リゼと呼んでください!」
アンネリーゼは明るくハキハキと自己紹介をすると、満面の笑顔を浮かべた。ホレイショとジェニファーでそれぞれ握手を交わすと、ソフィアに視線を向けた。
「リゼ。久しぶりね」
「ソフィア! また会えて嬉しいです!」
ソフィアとアンネリーゼは親しげに言葉を交わして、再会を喜ぶように軽く抱き合った。このふたりも旧知の間柄なのだろう。
「お荷物は先に部屋に運んでいます。そちらに向かいますか?」
アンネリーゼの提案にソフィアが答えた。
「それよりも、このふたりは惑星フェストルアンに初めて訪れたようなので、城下町や郊外の方を少し案内したいと思います。地形や町の形が分かった方が動きやすいですし、私も現状を把握しておきたいです。もちろん、父さまとおじさまの許可があれば、ですが」
ルイスとミハエルの顔を交互に見るソフィア。ミハエルとルイスは頷いた。
「私は構わないよ。ソフィアもアンネリーゼもこの惑星のことは熟知している。案内係を任せるには十分だ」
「アンネリーゼに騎士団のシャトルを任せよう。おふたりにこの惑星を案内してくれ」
「ありがとうございます。早く戻るようにします」
ソフィアは笑顔を浮かべた。
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