第22話
ホレイショとジェニファーは宮殿の外で庭園を眺めながらシャトルの到着を待っていた。やがて騎士団の紋章が入ったシャトルが到着すると、ソフィアとアンネリーゼが前方の操縦席に座っていた。
「ソフィア。どこからご案内しましょうか」
「とりあえず郊外の方に出ましょう。そっちから説明したほうがわかりやすいわ」
4人を乗せたシャトルは宮殿を飛び立った。アンネリーゼは惑星フェストルアンについて話し始めた。
「現在、この惑星は休養や余暇を満喫したい人々が押し寄せる惑星になりましたが、昔は田舎で住民も少ない静かな惑星だったようです」
「この惑星にクロノスや金属資源が確認されたというのは知っているでしょう。それをめぐって聖王国、聖十字教国、騎士国で三つ巴の泥沼の紛争になったの。結局、資源は3カ国に分割されて終結したわけだけど、その時の痕跡を巡ってみたいと思うの。退屈だからって居眠りしないでね」
ソフィアはホレイショを見て話していた。
「まかせろ。バレないように寝るのは得意だ」
「ソフィアはそういうことを話したいわけではないと思いますよ」
シャトルは緑が広がる郊外に出てきた。どこまでも平たい大地に緑の農地が広がる風景はまさしく田舎といって問題はないだろう。
シャトルは高度を保ちながら、大きな河川に沿って飛行を続けた。
「三つ巴の紛争は凄まじい傷跡をこの惑星フェストルアンに刻み込みました。あっちこっちで戦闘をしたものですから、農地は瓦礫まみれ、山脈は吹き飛ばされ、河川は暴れ回ったと聞きます。戦後から今日まで騎士国が統治してここまで復興させましたが、それはもう大変だったと資料を読むだけで伝わってきます」
アンネリーゼの説明には実際に自分が戦後の復興に携わったような疲労感が滲み出ていた。各種の資料を読み漁っているうちに、自分もその場にいるように感じてしまうようになってしまったのだろうか。
「その話は私も父から聞きました。瓦礫や廃材を取り除き、再び農業を営むのに時間がかかる上、元通りになるかどうかもわからない。本当に、苦労と逆境を長い月日をかけて乗り越えたのです」
ジェニファーは歴史にも詳しいのかと感心すると、ホレイショは窓の外に広がる大地に視線を移した。ホレイショが想像できないほど過酷な作業だったと思うと先人たちに頭が上がらなくなる。
「そのおかげというと変だけど、この惑星フェストルアンには復興の時使ったアストロン・フレームが独自の進化を遂げたの。残された資源と騎士国の技術が混ざり合って他にはない大型機が誕生したのよ。山を削って砲弾の跡を埋めて、河川を元の場所に戻す作業にも必要だったし、農業ができるようになってからも大規模な農園に対応できる大型機が必要になったの」
「なるほど。確かにこの規模の農園があるなら、大型機は必要だよな」
ホレイショの言葉にソフィアは頷いた。
「首都のトゥールーズまでこの『ヴァルクレスト運河』は伸びているわ。これを遡れば首都は目の前。それを防衛するのがおじさまの今回の仕事よ」
「よければ、今回の仕事について少し話してくださいませんか?」
ジェニファーの質問にアンネリーゼが答えた。
「詳しくは侯爵さまからご説明があると思いますので、私の方から簡単に説明させてもらいます。この惑星フェストルアンにある脅威が潜んでいるのです」
「元々この惑星に居住していた住民たちの末裔を名乗る連中が、おじさまの統治に文句をつけて惑星中で暴れているの」
ソフィアとアンネリーゼは呆れたような声を出した。
「これがなかなか厄介な連中でして、神出鬼没に姿を現しては、町を荒らしまわります。いくつもの町が被害を被り、惑星フェストルアンの政府は侯爵さまに救援依頼を出しました。侯爵さまは惑星アナドールでの任務を一時的に外れて、こちらの救援依頼に応じられたのです」
「惑星フェストルアン政府は、なんでそんな訳のわからない連中に苦戦している?」
その質問にはソフィアが答えた。
「さっきも話した紛争の影響で、この惑星には隠れるための空間や秘密基地にもってこいの廃墟が多いのよ。妙に賢いことをするから、余計厄介なのよ」
アンネリーゼが続けた。
「そしてこの連中は、とうとう首都トゥールーズに攻撃を仕掛けると宣言しました。ですが、騎士団の本隊は惑星アナドールから動けません。そのため、ミハエルさまとソフィアは呼ばれたんです」
「それなら確かに戦力は欲しいですね」
ジェニファーは頷いた。
「あんたも頑張りなさいよ。連中の狼藉を許すわけにはいかない。被害は甚大で、死傷者も出ているの」
「もちろん。やれるだけのことはやる」
ソフィアの言葉にホレイショは頷いた。
「いい心意気ね。リゼ。どうせならトゥールーズまで足を伸ばしましょう」
「そうですね。お客さまを退屈させるわけには行きません。少し飛ばしますよ!」
さすが騎士国のシャトルというべきか、飛行速度を上げても堅牢で安定感のある乗り心地には変わりはなかった。窓の外に広がる景色がより早く過ぎ去っていく。
宇宙船やアストロン・フレームに比べられるような速度ではなかったが、ホレイショはソフィアに耳打ちした。
「無茶するなよ。殿下がいるんだぞ」
「大丈夫よ。騎士国には
「私たちに任せてください! 捕まるようなことはしませんよ!」
そうじゃないと思うホレイショだったが、シャトルはさらに速度を上げて大気を切り裂いた。
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