第41話

「依然としてこの国は危機的な状況ですが、変化したこともあります。貿易商のアシール・オルベイが自供しました。この計画はモントリオール殿下の立案のもと、銀河中の複数の国家で同時多発的に行われる予定だったようです」

 帝国軍本部は地上部隊によって厳重に封鎖されているため、その代わりとしてイースト・エンフィールド基地の一角にある会議室を利用して、帝国の閣僚や軍の将校などを集めた会議を開催していた。

 ジェニファーとエリナは休む間もなく、この会議に出席していた。ホレイショ、ソフィア、ミハエルは会議の邪魔にならない場所に座っていた。

 カミラは落ち着いた様子で判明した事実を述べている。

「デミル、マッカーナンをはじめとした同じ不満を持つものを組織の一員として迎え入れ、各国で分散して活動していた。そして着々と準備を進め、本日に至ったようです」

『各国で水面下の活動をしていたのか。しかしこれほど巨大な組織なら、どこかの国が存在に気がついてもおかしくないはずだ。なぜ分からなかった?』

 通信画面に映し出されていたのは、茶色い髪と特徴的な口髭の恰幅のいい男性は60歳中盤程だ。ギルバート卿と共に皇帝の側近として辣腕を振るっているエリオット・ウェインブリー内務大臣は頭を抱えるように話した。

『仕方ありませんぞ、ウェインブリー殿。相手は高度に組織だった行動を取っていた。各国の攻撃に使用する兵器を各地で分散して製造していたのですからな。まさに多頭の竜と言ったところではありませんか』

 ギルバード卿はそう言い放った。彼は惑星アナドールに留まり、現在も各国の代表者たちと情報を共有していた。

『何が多頭の竜だ。相手を褒めてもどうにもならんぞ。こっちは議員たちが騒ぎ立てているのを抑えないといけないのに、呑気な男だな』

『すまないな、ウェインブリー殿。こちらはこちらで手一杯なのだ。自由連邦や正公国など主要国でも同様の危機にさらされていることが確認された。惑星アナドールでの経験をもとに各国には兵器の解除方法を共有したが、素直に感謝の言葉も述べられない連中もいる。こちらにでも苦労はしております。おあいこということで納得しくだされ』

 ウェインブリー大臣は鼻で返事をすると、この場にいる別の人物へ話を振った。

『グレイ卿。陛下とお妃さまのご様子は如何だろうか?』

『両陛下は大変驚かれております。ご嫡男クローディアスさまの反乱。現在は執務を取りやめ、安静になさっておいでです』

 アーチボルト・グレイ卿は宮殿にいる皇帝やその弟に長年支えている侍従だ。灰色の髪を綺麗に整えた老紳士だ。

『ご心中を察することすら憚れるような一大事です。弟君もたいそう心配されており、一刻も早く対処するように仰せつかりました』

 ギルバード卿は頷いた。

『ウェインブリー殿、軍の統制はどうなっていますかな?』

『議会を通じて帝国の各地に不愉快な兵器が存在すれば、各艦隊には貴公の話した通りに対処するように通達している。第3艦隊のモリス大将、第8艦隊エマーソン大将、第12艦隊スカーレット大将には各艦隊の監視を任せた。もしも持ち場を離れる艦隊があれれば報告するように命じている』

『これで首都惑星に近づく艦隊はいなくなる。モントリオール殿下に与するものがいなくなれば、我々もこの事態に対応しやすくなりましょう』

「では、肝心のクローディアスはどこにいるのでしょうか?」

 ジェニファーの言葉にはカミラが答えた。

「モントリオール殿下は惑星レオンを脱出したのち、殿下の拠点のひとつである衛星クレイトンの基地に逃げ込んだものと思われます。モントリオール艦隊の動きは活発化しており、ご乗艦される『戦艦グラジオラス』も出撃準備を済ませているようです」

 衛星クレイトンは首都惑星レオンの第3衛星だ。防衛拠点として前哨基地が置かれ、大規模な艦隊が停泊できる設備が整えられている。

『ご投降される意思はないようだ。私としては殿下と戦火を交えるのは心苦しいが、やむを得ない』

 ギルバード卿の言葉にウェインブリー大臣とグレイ卿は頷いた。

『ウェンブリー殿は議会と国民を。グレイ卿は陛下と皇族たちを。私は引き続き各国との調整を行います。ジェニファーさまとエリナさまは、クローディアスさまの凶行を止めていただきたい。よろしいでしょうか?』

「惑星レオンは私たちの故郷です。これ以上、クローディアスの好きにはさせません」

「惑星アナドールと同じ兵器が使用されているなら私たちに有利に働くはずだ」

 ジェニファーとエリナは快諾した。しかし、ふたりともクローディアスの艦隊の実力を把握している。それが言葉で言うほど簡単ではないとは理解できるはずだ。

『ありがとうございます。私たちも最大限、手助けをさせていただきます。どうか、惑星レオンのこと、私たちの国のことをよろしくお願いします』

 通信が切断される前にギルバード卿はそう話すと、深々と頭を下げた。

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