第30話
翌日の朝、ホレイショたちは旅支度を整えていた。モンペイユの町が復興するまで見届けたい気持ちがあったが時間は限られている。先を急ぐ必要があった。
ルイスとアンネリーゼ、そして騎士団員や地元の住民たちなど、大勢の人たちが忙しい合間を縫ってホレイショたちを見送りに来ていた。
「シェフィールドさま、ジョニー・デップ君。君たちのおかげで大勢の命が救われた。代表して、私から礼を言わせてくれ」
ホレイショとルイスは握手を交わした。
「特に君の行動は勇敢だった。山を吹き飛ばす威力の大砲を相手に、正面から立ち向かった勇敢さ。私も騎士団の面々も見習わなければならないな」
「もとは自分の身勝手な行動が原因です。その罪滅ぼしができたのであれば幸いです」
「謙遜するな。もっと誇っていい行動だ。これからも君の名前を聞くことを期待しているよ」
ジェニファーは優雅な笑顔を浮かべていた。
「シェフィールドさまにはこの惑星の魅力をもっとお伝えたかったのですが、お急ぎの方を無理やり足止めすることはできません。次の機会にはじっくりと過ごしてください」
「バイエルン侯爵さまの丁寧な対応に心から感謝します。一身上の都合とはいえ、復興を見届けることができないのは心残りですが、この惑星の魅力はすでに感じております。またの機会を心待ちにしております」
ルイスはジェニファーの手を取って一礼した。
「ソフィア。君のおかげで騎士団は集中して戦うことができた。褒美として欲しいものはあるか?」
「ありがとうございます、おじさま。私は開発中の新型のスツーカに乗ってみたいです」
ソフィアの答えにルイスは少し面食らったようだが、笑顔で答えた。
「構わないが、スツーカはメッサーシュミットのように簡単に扱えないぞ?」
「もちろん承知しています。ですが、改めておじさまの戦い方を見て、私も剣を扱えるようになりたいと思いました。それにはスツーカが必要です。おじさまが開発に協力している新型が生産されれば、そのうちの1機をください」
「私の一存ではどうしようもないが、陛下に掛け合ってみよう。きっと了承してくださるだろう。楽しみにしていてくれ」
ルイスの答えにソフィアは飛び上がって喜んだ。
「ありがとうございます」
「すまないね、ルイス。無茶ばかり聞いてもらって」
「気にするな。新型のスツーカも実戦での試験が必要になる。ソフィアに手伝ってもらえるなら、むしろありがたいぐらいだ」
そして、ルイスはあるものを取り出し、ミハエルに手渡した。
「入国許可証だ。これで惑星アナドールへ行けるぞ」
「恩に着るよ。こんな短い期間でよく申請が通ったね」
「君たちの働きぶりを見る限り問題はない。私のお墨付きがあれば、大臣たちも短時間で決断するさ」
ルイスはにやりと笑った。それに応えたミハエルも同じ笑顔を浮かべた。悪行を働いた少年のような、悪い笑顔だった。
「これで忘れ物はないな。行ってくるよ」
「気をつけろ。無茶はするなよ」
ふたりは最後に固い握手を交わした。
そして出発の時が迫ると、大勢の人たちから次々と感謝の言葉が飛び出してきた。
「みんな、ありがとう!」
「ミハエルさま! ソフィア! 達者で!」
「シェフィールドさまとお付きの方もありがとう! 感謝します!」
そしてアンネリーゼとマリエルがホレイショとジェニファーの前に来た。
「おふたりとも、本当にお世話になりました! このお礼は必ず返しますので、ぜひまた惑星フェストルアンまで来てください! いつでも歓迎しますよ!」
「私たちはダメだったかもしれない! 本当に感謝しているよ!」
「ありがとう。リゼ。マリエル。その時はまた案内してくださいね」
「楽しみにしている」
ホレイショとジェニファーはアンネリーゼとマリエルと握手を交わし、輸送船ライゼンダーに乗り込んだ。操縦席からは押し寄せた人々が手を振る姿が見えた。
「おじさま! みんな! 元気で!」
「侯爵さま! みなさま! いろいろお世話になりました!」
ソフィアとジェニファーは窓の外にいるルイスに手を振った。ホレイショもそれに倣って控え目に手を振った。
ルイスも優しい笑顔で手を振り返した。アンネリーゼとマリエルは大勢に負けないよう大きく声を張っている。その姿はライゼンターが飛び立ち、宮殿が遥か彼方の点になっても、ホレイショの心に残っていた
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