第9話
戦艦リリーが首都惑星レオンから飛び立った後、軍務や戦闘などとは全く関係のない男たちが今日も労働に勤しんでいた。
「最近、幽霊船の噂話が流行っているみたいだ」
隣に座るアダム・アクロイドは退屈に耐えかねてそう話した。
ホレイショ・カーターは答えた。年齢は19歳。大柄で筋肉質だったが、いちばんの特徴はくすんだ白い髪と灰色の瞳だった。
「幽霊船? オバケが船を動かしているのか?」
「違うって。なんでも、金銀財宝を乗せた軍艦が
隣のアダムも年齢は同じく19才。黒髪で長身。痩せている男だ。
長距離の貨物の輸送をホレイショとアダムはもうひとりの同僚ノエル・ウェズリーと共に行っていた。
惑星ダンパーは帝国領に所属する惑星で、大きな宇宙港を備えた物流の拠点だ。すでに客先に荷物を引き渡し、空荷になった輸送船で惑星ダンパーまで戻る道中だ。
仕事から解放されて束の間の自由を味わっているが、狭い輸送船の中ではできることは限られている。そこで、噂話や取るも足らない会話をして退屈な時間を紛らわせるしかない。
アダムは言葉を発していないと気が済まない性格をしている。似たようなやり取りはすでに数え切れないほどしている。
「俺たちで協力して軍艦を見つけよう。金銀財宝も山分けしないか?」
「うまい話だと思うが、どこにいるかわからない船をどうやって見つける?」
操艦や航海術に関しては、職歴が長いアダムの方が一日の長がある。もしかすれば、行方不明の船を見つける方法を知っている可能性も否定できなかった。
「幽霊船の話は、大体人類が宇宙に進出した後の話だ。古い惑星周辺を手当たり次第に探せば見つかるはずだ。地道に行こうぜ」
どうやらアダムにも幽霊船の行方に見当はつかないようだ。
そんなことを話していると、同僚のノエルが休憩から戻ってきた。ふたりに比べれば小柄で少し年齢も若い17才で、明るい茶色い髪はクリクリとしている。まだ寝ぼけているようだが、目的地の惑星ダンパーの宇宙港は目前だ。
「ノエル。軍艦の行き先は知らないのか?」
「軍艦? なんのこと?」
アダムの質問にノエルは聞き返した。
「金銀財宝を積んだ軍艦が
ホレイショの補足でようやく合点が言ったようだ。ノエルは首を振って答えた。
「幽霊船は軍艦じゃなくて移民船だよ。昔、開拓している惑星に数十万人の移民を運ぶ船が消息を絶ったんだ。当時はまだ超光速航行(ワープ)技術も発達していなかったから調査も思うように進まず、結局未解決になったんだ。多分、行き先は自由連邦じゃないかな?」
ノエルも結局はわからないようだ。アダムも幽霊船の財宝を本気にしていたわけではないので、そうかと答えて別の話題に変えようとしていた。
ちょうど3人が乗る輸送船が宇宙港の周辺星域に進入したので港から通信が入った。
『こちら惑星ダンパー宇宙港。輸送船『レッドアロー』応答願います』
「こちら輸送船レッドアロー。我々の着港を許可して欲しい。識別コードを送信する」
アダムが慣れた様子でコンソールを叩くと、港の管制官は確認作業に入った。
『識別コードを確認した。入港を許可する。第2埠頭の第8区画に接岸してくれ』
「了解した。第2埠頭第8区画に進入する」
指定されたのはいつも使用している埠頭だ。輸送船レッドアローが所定の位置に接近すると、そこから先は自動で誘導される。
宇宙空間と空気が満たされた第8区画を隔てるシャッターが開かれると、輸送船レッドアローは静かに着港した。ホレイショは最終確認を済ませて輸送船レッドアローから降り立った。
「これで仕事は終了だ。さっさと飯でも食べて帰ろうぜ」
「またあの店に行く気かい? よく飽きないね」
アダムとノエルが話しながら歩いていると、ある人物が3人を出迎えるように姿を現した。
名前はダニー・キャンベル。50代後半の大きな体の男性で、ホレイショたちの仕事の上司でもある。この宇宙港では顔が広く、色々な雑務をホレイショたちに回してくる人物だ。
「君たち。済まないがもう少し帰るのを遅らせてほしい。仕事が舞い込んだ」
「仕事ですか」
ノエルが聞き返すと、キャンベルは答えた。
「宇宙港周囲の星域に艦影と救難信号が確認された。本当は宇宙港警備隊の仕事なのだが、どうしても手を離せない仕事があるらしく、こちらで確認してきてくれないかと言われたんだ。ちょうど君たちが帰港して来たし、すぐに終わる仕事だ。確認して来てくれないか」
確かにこのあとの予定はなかった。ホレイショたちはわかりましたと返答をすると、輸送船から小型シャトルに乗り換えて指示された目的の星域に向かった。
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