第4話
翌日、ジェニファーは朝からある会議に出席していた。
惑星アナドールで開催される会議に出席するため、帝国内で最終的な打ち合わせが開催された。出席者は宰相であるギルバード卿や大臣など帝国の中枢を担っている人材や様々な分野の専門家が多く、ジェニファーやエリナもその中のひとりとされていた。
会議中、ジェニファーの隣に座るエリナが小さな声で話してきた。
「昨日話していた惑星破壊兵器に関することだが、実家の倉庫をひっくり返したよ。面白いものが多数見つかったから資料として転送する。あとで目を通してくれ」
「わかった。助かるわ」
打ち合わせの内容はジェニファーとエリナにとっては改めて確認する程度だったが、参加国の数は膨大で過去に類を見ないほどの規模だった。
その議題はエネルギーと食糧。銀河中に広がった人類をどうやって養い、育み、発展させていくかという名目だった。
「今回は大人数になったね。政治家や大臣の他に教授や専門家たちも出席する今までにない規模だ」
「正公国がこうした場に出てくることがありません。ついでに滞っていた様々な問題を一気に解決させようとする意図も見えますね」
会議に参加する国々は大国と呼ばれる国々に加えて、帝国や同盟国のひとつである自由連邦と長年緊張関係が続いている正公国とその衛星諸国。まさに銀河中の国家が一堂に会するといっても不足はない。
「これほどの規模の会議は滅多にない。好機をものにするつもりの国が多数出てくるに違いない。会議の日程は決められている。成果を出すために迷っていられるほど時間はないだろう」
会議の参加者を護衛するのは帝国軍第2艦隊が引き受ける。参加者を3つの艦隊に分けて移送するのが今回の第2艦隊の任務になる。
第2艦隊は、主に貴族出身者やその血縁者によって構成されている。皇帝やその親族である皇族が惑星間を移動する際に、護衛任務に当たるのも第2艦隊の仕事であり、今回の会議の参加者を護衛する役目も負っていた。参加者が多い今回の任務では、3つの艦隊に分けて参加者を護送することになった。
宰相のギルバード卿はラトクリフ艦隊。
エリナがカミラの率いるモリス艦隊。
そして、ジェニファーがオルトラン艦隊という担当になっている。
ラトクリフ艦隊を率いるルーカス・ラトクリフ少将は確実に仕事をこなす叩き上げの軍人だ。
カミラ・モリス少将はジェニファーとエリナの幼馴染だ。長く続く軍人家系の出身で、父親やふたりいる兄弟も同じく帝国軍に所属している。
ジェイムス・オルトラン少将はジェニファーが幼い頃から護衛や移送の任務でお世話になっており、全幅の信頼を置いている人物だった。
まずは、移送する人数も多く大規模な艦隊になるラトクリフ艦隊が先行し、その後に続いてモリス艦隊、オルトラン艦隊と続く。到着するのは会議の開催日よりも早く、余裕のある日程が組まれていた。
最後に細かな質疑応答がされて会議は終了した。
エリナは会議が終了すると、大きく伸びをして体を動かした。
「そういえば、オルトラン艦隊に新型機を送っておいた。使用する機会はないと思うが、了承しておいてくれ」
「新型のアストロン・フレームですか。あまり私の得意とするところではありません」
「君が不得手にしていることはわかっているさ。でも、世の中では何が起きるかわからない。万が一の時のため、研鑽を積んでおくのもひとつの対処方法だ」
エリナのいうアストロン・フレームとは人型の機動兵器だ。元は宇宙空間での作業用重機ではあるが、人類の生活圏が宇宙空間で増大していくにつれて重機の役割も変化し、人型の機動兵器として新たに存在を確立することになった。そして、操縦士を慣例的に『アストロノート』と呼ぶ。
オルトラン艦隊では通常のアストロン・フレームの戦力に加え、ヴィスコンティ家が開発したアストロン・フレームが必ず同行していた。目的はジェニファーの護衛ではあるが、単に試験運用を他の艦隊でも行う際に任されることも多い。
ジェニファーもヴィスコンティ製のアストロン・フレームに乗ったことはあるが、操縦には熟練したアストロノートでも苦戦することが多く、すぐに諦めてしまった。そのため、専属のアストロノートをエリナから派遣してもらっている。
「そうですね。毎回練習をしなくてはと思ってはいるのですが、なかなか思うようにいかず。他の仕事もありますから、後回しになってしまっています」
「君がそういうと思って、今回の新型機には最新の技術が搭載されている。よかったら試してみてくれ。面白いぞ」
そういうとエリナは不適な笑顔を浮かべた。なんとなく、ジェニファーは嫌な予感がした。
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