第3話

 エリナと公務について話し合っていると、カミラが訪問してきた。カミラ・モリスはジェニファーやエリナよりも2つ年上だ。黒い髪を丁寧にまとめ、軍人らしく規則正しい性格をしていた。ジェニファーは彼女にも意見を求めたがエリナと同じ返答で、使い道がない技術だと話した。

公務についての話し合いを終えるとジェニファーは宮殿の執務室に戻った。しばらく自分の仕事をしているとある人物が面会を希望していると、侍女のリリアンから報告があった。

エリナやカミラと同じように、リリアン・リントヴルムは長い付き合いのある友人のひとりだ。赤い髪の毛が印象的で、誰が相手でも物怖じしない性格をしていた。ジェニファーの仕事を手伝うようになってからは、さまざまなことで気を遣ってくれる頼れる存在だった。

「諜報機関のイアン・コーンウェル大佐から、お父上から依頼された仕事について殿下にご報告したいことがあるそうです」

「わかりました。お通しして」

 イアン・コーンウェル大佐は物静かで穏やかな白髪の紳士だった。自己紹介を交わすとジェニファーは椅子をすすめたが、彼は丁重に断った。どうやら彼の流儀らしい。

「殿下のお父上からご依頼いただいた任務について、私の方から改めてご説明させていただければと思いまして。手短に済ませますので、しばらくご清聴くだされば幸いです」

 コーンウェル大佐によると、惑星破壊兵器の噂は数週間程度前から広がり始めたという。まずは帝国議会から広がり始め、それが徐々に宮殿や帝国軍本部にまで広がっていったようだ。

 全議員を対象に聞き取り調査、および検証した結果、怪しげな兵器製造に手を染めたものはなく、彼らの後援団体や親族を見渡しても結果は同様に潔白だったようだ。

しかしひとりだけ気になる人物がいたという。デレク・ローレンスという議員は議員歴も浅く、比較的若い年齢ということもあり、連日の夜遊びや軽率な行動をとりがちのようだ。そして、この噂の発端はローレンス議員と数名の若手議員たちが会食の際に口走ったホラ吹きが原因ではないかとコーンウェル大佐は話した。。

「帝国軍の秘密兵器があらゆる敵を薙ぎ倒す。そう話して若い女の子の気を惹こうとしたわけです。それが噂になり、いつしか帝国が惑星破壊兵器を開発したという話に変貌したわけです。私はローレンス議員にこの噂について尋ねました。女の子に話したことは認めましたが、兵器の開発や製造には一切関わったことはないと話していました。重点的に彼の周辺を調べましたところ、少し気になる点が発見されました」

「気になる点とは一体なんでしょうか?」

「数日前、ローレンス議員の選挙区域に勤務するある技術者から通報がありました。彼の取引先がある機械部品の一部を製造していたのですが、これが帝国内において無許可で製造されたものでした」

 ジェニファーは資料に目を通した。その中に大きな機械の一部が撮影されていた。ジェニファーにはあまり知識がなかったが、コーンウェル大佐が補足で説明してくれた。

「掘削機の先端に使用するカッターと呼ばれ、地面を切り崩す部品です。そして、この通報者が失踪したと報告がありました」

 資料をめくると、真面目で実直そうな40代後半ぐらいの男性の写真が添えられていた。

「通報者は『サイモン・エヴァンス』。アストンウッドの工場に勤める労働者で、勤続十年を超えるベテランでしたが無断欠勤が続き、会社の方でエヴァンスの家族に連絡を取ったところ誰も行き先を知らないそうです。そのため、昨日失踪届が提出されました」

「謎の失踪事件と惑星破壊兵器が関連しているとお考えですか?」

 コーンウェル大佐はしっかりと頷いた。

「サイモン・エヴァンスは通報する際、『恐ろしいものを作っている。惑星を破壊する兵器だ』と話していたそうです。彼の行方については捜査機関が動き始めています。製造された部品の発注先は我々が捜査を始めました。また、詳細が判明すればご報告いたします」

「わかりました。ローレンス議員についてはどう対処されるつもりですか?」

「私の部下がさらに詳しく議員を調査しています。彼の利害関係者や支援者の中には、武器もしくは兵器の製造に関わるものはいません。積極的に私たちの調査に協力しています。しかし、議員本人の知らないところで誰かが動いているかもしれません」

 そう報告すると、コーンウェル大佐は静かに一礼をしてジェニファーの執務室から姿を消していった。

 ジェニファー以上に多忙な父に会うことができたのは、昨日よりも遅い時刻になってからだ。ジェニファーはコーンウェル大佐の報告を説明すると、父は腕を組んで唸り声を上げた。

「私の想像していない事態になってしまった。まさか惑星破壊兵器に関する通報があったとは思わなかった」

「はい。ローレンス議員は夜な夜な遊び歩いては、女性たちの気を惹くためにこのようなことを話した。選挙区域内で無許可の部品の製造をしていたことは知らないと証言しています。コーンウェル大佐による捜査は続いています」

「君が気になった点は何かあるかな?」

「ひとつあります。惑星破壊兵器が実在するかわからないのに、通報してきたサイモン・エヴァンスはなぜ部品だけ見てそれだとわかったのでしょう?」

 コーンウェル大佐の報告を聞いてから、ジェニファーが疑問に思っていたことだ。いかに経験を積んだベテランの作業員であっても、見たことがない部品を断定することは難しいのではないか。

 ジェニファーの疑問に彼女に父親は笑って答えた。

「難しい話じゃないさ。他人の気を惹きたい時に少し大袈裟な表現をしただけだ。それこそ、元老院や帝国軍本部での噂と同じことだ」

 そういうと、ジェニファーの父親は椅子から立ち上が離、ジェニファーの肩を優しく叩いた。

「引き続き捜査を継続してくれ。コーンウェル大佐は優秀で信用できる人材だが、失踪した作業員のことも気になる。任せたよ」

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