第47話

 アテナとアレスの壮絶な対決から数日後、首都惑星レオンの首都コルチェストンは少しずつ復興に向けて動き始めていた。

 宮殿には被害が及ぶことはなく、怪我人が出ることもなかった。

 中心市街地から離れた場所にある『カンスター聖堂』は静寂な雰囲気に包まれていた。ここは退役軍人や任務中に亡くなった軍人たちが静かに眠りについている神聖な場所だ。

 時刻は早朝で、人々が眠りから覚める頃。曇りがちなコルチェストンの天気だったが、この日も例に漏れず、雲に覆われた空だった。

 軍服に身を包んだホレイショはある慰霊碑の前にいた。慰霊碑には『第7艦隊戦没者』と刻まれ、数多くの名前が刻み込まれていた。その中にはホレイショもよく知った名前がいくつも刻まれている。

 ひとりで静かに黙祷を捧げると、帽子を被り直して口を開いた。

「前に来た時から一年ぐらいか。とりあえず酒を持ってきた。キレイな花よりもこっちの方が好みだろう。満足してくれ」

 料理の味なんてわからないくせに、酒にはうるさい仲間たちだった。

 記憶を辿って好みの銘柄を思い出すと、手土産として買ってきた。本来の用事はこれで終わりのはずだが、もう少し話したくて、ホレイショはポツリと話し始めた。

「帝国軍を辞めからは適当な仕事についていた。仕事中に危うく遭難しかけたが、戦艦リリーに助けられた。この後もその件について予定がある。どうせ軍服を着るなら、墓参りも済ませておけば楽になるだろう」

 銀河を襲った未曾有な危機を回避したこと、そしてその道中の様々な敵や困難に衝突して乗り越えたことなど、ホレイショは時間を忘れて話した。

「いまだに皇族のふたりと、あのロイファー騎士団の団長とその娘と旅をしたことは信じられない。モントリオール殿下は身分を剥奪されるそうだ。皇族というのはどう扱うのも大変だ。庶民として生まれてよかった」

 これからクローディアスは裁判があるようだが、組織の内部について情報を提供すれば罪は軽くなるかもしれないとジェニファーは話していた。しかし皇族の身分は剥奪され、永久に自由な生活は送れないだろうと付け加えていた。

 銀河中の惑星破壊兵器も、ギルバード卿が共有した情報と各国の奮戦によって機能停止した。そして、設置された時限爆弾を回収、無効化する計画が少しずつ始まっていた。

 ホレイショは時計を見た。時間が思ったよりも早く過ぎていたようで、もうここを後にしなくてはいけない時刻だった。

「今日はここまでだ。この後、陛下や大勢の貴族たちから食事会に呼ばれている。まるで勇者さまみたいに扱われているが、殿下やエリナさまに迷惑をかけるわけにはいかない」

 沈黙は言葉を返さない。慰霊碑は静かに佇んでいるだけだ。

「じゃあな。また来るよ」

 ホレイショは一言だけ呟くと、帽子をかぶり直して踵を返す。

 いつのまにか雲は晴れ、暖かい光が射していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オデュッセウスの篝火 中村夏生 @tyoou789

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ