第10話

 ホレイショはシャトルから作業用のアストロン・フレームに乗り換えた。レーダー上に小さな反応を見つけると、その座標に向かっていった。

『目的地の座標はその周辺だよ。何か見える?』

「接近する。少し待ってくれ」

 レーダーに表示された反応に向かって機体を操るホレイショ。そう時間が経つことなく、反応の正体にセンサーが反応し、拡大して表示された。

「大破した貨物船に見える。もっと近づくぞ」

『突然爆発してもおかしくない。気をつけろ』

『目標に通信を呼びかけても反応はないよ。無人だと思うけど注意して』

 作業用のアストロン・フレームは徐々に大破した貨物船に接近していく。肉眼でも船体を確認できる距離まで近づくと、離れた位置からぐるりと確認した。

 船体の中央に大きな穴が穿たれ、痛々しい傷跡を晒している。外部から強い衝撃を受けて船体そのものがのけ反るような弓形に歪んでしまっていた。

「艦船識別コードを確認した。聖十字教国の識別コードになっている。シャトルの方でも確認してくれ」

『了解。艦船識別コードを確認した。港の方にも転送して確認してもらう。しばらく待機だ』

 ホレイショは改めて輸送船の残骸に視線を向けた。

『ひどい傷だね』

「大きな小惑星と衝突したようだ。その後、この星域に辿り着いて小惑星か宇宙ごみとまた衝突して停止した。その衝撃で救難信号が発報したんだろう」

 ホレイショとノエルが話していると、港の方から応答が届いたようだ。

『この輸送船は聖十字教国所属の貨物船『ゼファー』だ。イラクティア海を航行中に飛来した小惑星と衝突したようだ。乗組員は全員脱出している。救難信号の誤報だ』

『イラクティア海からこんなところまで漂流してきたの。銀河って広いね』

 惑星アンバーからイラクティア海のある聖十字教国まで超光速航行(ワープ)でも数日かかる距離だ。

 予想通りの展開にホレイショは安心した。

「一応、船内も確認する。誰かいるかもしれない」

『設計図によると艦橋は船体の後部にある。あまり長引かせるな。危険なことには変わりない』

「わかっている。すぐ戻るようにする」

 ホレイショは慎重に大破した貨物船に接近していく。

 船体の後部にある環境と思われる構造物をカメラで拡大した。

 捉えられた映像には破片や構造物の一部と思われるものが無重力の中で浮遊していたが、当然ながら人影は見当たらない。

「艦橋は誰もいない。次は貨物室の方に行く」

『何もないとは思うけど、注意して』

 貨物船は小惑星が衝突して船体に大きな穴が空いていた。そこから内部を確認できるはずだが、破片や爆発などの危険もある。船体の側面にあった作業用の出入り口から貨物室に足を踏み入れることにした。

 作業用の出入り口には緊急時に使用されるレバーが設置されており、それを開放するとあっさりと扉は開かれた。ホレイショが乗る作業用のアストロン・フレームは貨物室に足を踏み入れた。

 コンテナやその積荷、船体の構造物と思われる部材、小惑星の一部などが散乱していた。しかしその大部分は小惑星が衝突した時の衝撃で船外に弾き出されたか、ここまで到達する際に巻き散らかしたようだ。さらに視線を移すと、大きく口を開けた穴から宇宙空間が覗き込んでいる。

「人影はない。特に急いで対処する必要もなさそうだ」

『了解。港の方には要救助者なしで報告する。後のことは港の連中に任せよう。残業は終了だ』

「そうだな。これ以上俺たちでできることはない。港に戻ろう」

 作業用のアストロン・フレームを操り、アダムとノエルがいるシャトルに戻ろうとした時、けたたましく警報が鳴り響いた。

『周辺の星域から高重力波を検知! 何かが来る! 掴まって!』

 ホレイショが乗る作業用のアストロン・フレームは大破した貨物船にとっさに掴まった。

 謎の高重力源により、ホレイショが乗る作業用のアストロン・フレームは漆黒の宇宙空間に投げ出されていった。

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