第27話
モンペイユに展開する騎士団のアストロン・フレームはメッサーシュミットやフォッケウルフが中心だった。その中心にいるのはルイスの駆る『スツーカ』だ。
スツーカは主に戦艦や拠点などに攻撃を仕掛ける機体であり、他にはない高火力な兵装や分厚い装甲、強力なジェネレーターなどが特徴だ。
大柄の機体を巧みに操りながら、スツーカは戦っていた。
『敵のアストロン・フレームが市街地に侵入します!』
触手を蠢かせ障害物を悉く排除し、その巨体は上陸した港から市街地に侵入していった。
「止められなかったか!」
『まだこれからです! 全機、あのタコに攻撃を集中させて!』
ソフィアの号令に合わせて、騎士団の攻撃は大型のアストロン・フレームへ向けられる。
しかし何度攻撃しても光学兵装は無効化され、実弾は体表にあたる特殊な装甲にはじかれるか、触手に設置された吸盤を模した砲口から放たれた光学兵装に迎撃されてしまう。
『無駄だよ。アルジェント騎士団の諸君。この『スペクター』にそのような幼稚な攻撃は効かない』
若い男の声が聞こえてきた。それは音声のみの通信で、男の顔や表情をうかがい知ることはできない。
ルイスが若い男に応じた。
「貴公がこのアストロン・フレームを操っているものだな。目的を聞かせてもらいたい」
『目的か。そんなものはない。破壊することだ。つまらない社会。腐りはてた権力。それに群がる蛆虫ども。この世は目障りなごみの集合体でしかない』
男の口からあふれたのは怨嗟の言葉だった。日常の軽い不満を口にするように、この世のすべてに対する怨嗟を吐き出した。
『目障りなものは取り除かなければならない。目的はそんなものだ。満足していただけたかな、バイエルン侯爵』
スペクターは触手を振り回し、建物を破壊する。白い砂塵が舞い、周辺は瓦礫の山と化した。
「話し合いは無用ということか。ならば力ずくで止めるしかないな」
『できるものならなぁ! 俺は止まらないぜ! このスペクターで全てを破壊するまでな!』
スペクターは振り回していた触手を周囲に向けた。無数に設置された吸盤から、無造作に光学兵装が放たれた。針山のように広がり、射線上にいる障害物はすべて破壊された。
男の不快な高笑いが聞こえてくる。
『まだこれからだぁ! 楽しい祭りは!』
スペクターは蠢くと前進を始めた。ルイスとアルジェント騎士団は、それを阻止するべく奮闘を開始した。
一方、宮殿を防衛するホレイショは、押し寄せるアストロン・フレームを迎撃していた。上陸こそ許したものの、高所で狭い道が多いという地理的条件と要塞化した宮殿の防衛装備が功を奏し、その侵攻は抑えられていた。
上空から攻めてくる敵に対しては、アテナと数機のメッサーシュミットが撃ち落とすことに成功しており、宮殿の武装もあり制空権を維持していた。
だが、城下町で大型のアストロン・フレームが暴れまわっていると知ると、ホレイショもどうしてもそちらに意識がとられてしまう。
『あちらはルイスたちとソフィアに任せて、君たちは宮殿の防衛に専念してくれ!』
宮殿には逃げ込んだ多数の民間人とジェニファーやアンネリーゼなどの騎士団員もいる。接近を許すわけにはいかなかった。ホレイショは目の前の敵に集中したが、ミネルヴァから警告が発せられた。
『海上から高速で接近する反応があります』
「新手か!」
アテナに敵の攻撃が向けられる。それは正確かつ強力な攻撃で、今まで相手にしてきたアストロノートとは比べ物にならないほど熟練された技だった。
アテナはショットで応戦する。そして、城下町の上空で接近した敵と邂逅した。
濃緑色に塗装された敵とアテナは、お互い銃口を向けた。
量産型のアストロン・フレームを幾重にも改造し、その原型となったものはわからない。しかし限界まで改造され、性能が高められていることがわかる。唯一、頭部は自由連邦のアストロン・フレーム『ウォ―フォーク』のものを使用していた。
顔が表示されない音声通信が入った。ホレイショよりも年上を思わせる渋い声だった。
『この周辺の星域では見ない機体だ。同業者か?』
「残念だが、たまたま居合わせただけの民間人だ」
『嘘をつけ。それなら初めの攻撃で撃墜されているはずだ。バイエルン侯爵に雇われた傭兵か?』
「だから違う。名前はジョニー・デップ」
ホレイショは適当に回答をはぐらかす。ホレイショの偽名を聞いて、通信相手の男は鼻先で笑った。
『ジョニー・デップだと? ふざけた名前だ。こちらはクリント・イーストウッドと名乗らせてもらおう』
「好きにしろ。誰であろうと、ここから先には通さない」
『俺にも仕事がある。悪いな!』
改造機は攻撃を仕掛けてきた。
装備されていた光学兵装は、ホレイショも今まで見たことがないもので一撃が非常に強力だった。それを正確無比な射撃で操る。傭兵の実力の高さが緊張感となって、ホレイショの額を伝う汗になった。
しかし、ホレイショは反撃に移った。すぐさまショットで改造機の動きをけん制しつつ、接近戦に持ち込む。パラスを展開して改造機に攻撃を仕掛けた。改造機もアテナを迎撃するべく、光学兵装を抜き放った。
「傭兵にしてはいい腕だ!」
『そちらこそ、手馴れている!』
アテナと改造機は花火を散らす。鍔競り合う激しい戦闘の末、戦場は城下町から離れた沖合まで移動していた。
「このまま押し切らせてもらう!」
『そうはいかないぞ。ジョニー・デップ。切り札は最後まで取っておく方針だが、貴様が相手では早めに使うほうがよさそうだ』
ホレイショが危機感を覚えた時、改造機には信じられない変化が起きていた。
始めは、陽の光でうまくカメラがとらえられていないだけかと思った。徐々に変化が大きくなり、改造機が海面や青空と溶け合い完全に姿が確認できなくなるまで時間はかからなかった。
「透明か!?」
『こいつは『ゴースト』と名付けられた。この姿を見れば、名前の由来は話す必要はないな』
傭兵の愉快気な声は聞こえてくる。通信が届く範囲にいるのは間違いないが、その姿はホレイショの目にもレーダーにも映ることはなかった。
『残念だが、この姿は長くは維持できない。落ちてもらう。ジョニー・デップ』
その言葉で、ホレイショの全身にあわが立った。アテナを飛びのかせると、その場を強烈で正確無比な砲撃が貫いたのは、言うまでもなかった。
アテナは駆け出す。姿の見えない亡霊は追いかけた。
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