3 鎌を持ったお婆さん

「トイレはいいですか?」


「うん。大丈夫」


「では、こちらで少々お待ちください」


 裏山の登山口とざんぐち

 そのすぐそばにあるコンビニに、ロボくんが入っていく。


 私が外で待っていると、ロボくんはすぐにお店から出てきた。

 二つのビニール袋を持っている。

 一つをランドセルの中に入れ、もう一つの中身をカサカサと探った。


「こちらをどうぞ、鈴木春世さん」


 ロボくんが、買ってきた水のペットボトルを差し出してくる。


「え、いいの?」


「もちろんです。せっかくの放課後なのに、ボクに付き合っていただくわけですから。水分補給用に」


「そっか。うん。ありがとう。じゃあ、いただきます」


「では、早速登っていきましょう。小さな山です。標高は、たしか30メートル。てっぺんまでは、10分もあれば到着します」


 そう言って、ロボくんがいきなりスタートする。

 コンビニの脇の道から始まる、山道を登りはじめた。


 そんな彼に、私はついていく。

 道はきちんと整備されていたし、それほど急な傾斜もなかった。


「鈴木春世さんは、この山のことをご存知ですか?」


「もちろん知ってるけど……実際に登るのは初めてだよ」


「そうですか。実はですね、ここ、昔よくUFOが目撃されていた山なんですよ」


「UFO?」


「はい。テレビ局や雑誌の人も、かつてはよく取材に来られていたそうです。ボクたちがまだ、生まれてなかった時代の話ですね」


「UFOって、こんな田舎の小さな山にも来るんだ……」


「まぁ、何枚かの写真といくつかの映像が撮られただけみたいですけど」


「それでもすごいなぁ。UFOかぁ。見てみたいなぁ」


「あ、すいません。鈴木春世さん、ちょっとこちらを持っていていただけますか?」


 ロボくんが、さっきのコンビニのビニール袋を差し出してくる。

 ペットボトルを取ったので、中には何も入っていない。


「これを、持っとけばいいの?」


「はい。食材を集めます。ボクがってきますので、鈴木春世さんはこちらを持っていてください」


「食材を……集める……」


「採った物をその中に入れます。採れたては新鮮ですよ。自然の恵みです」


 ロボくんが、まわりを見回す。

 ここは低い山だけど、木や草がたくさん生い茂っていた。

 わりと、めっちゃジャングル。


「でも、そんなの、勝手に採っちゃっていいの? 見つかったら、怒られるんじゃない?」


「大丈夫ですよ。この山は、ボクの友だちの山ですから」


「え? ロボくんの友だちって、この山の持ち主なの?」


「はい。じゃあ、行ってきます」


 そう言うと、ロボくんは山道をはずれ、森の奥に入っていく。

 一分もすると、いつもの無表情な顔のまま、カサカサと中から出てきた。

 両手いっぱいに、茶色い物を抱えている。


「きのこ……」


 ロボくんが採ってきた物を見て、私はつぶやく。


「えぇ。ここは昔、UFOで有名でしたが、今はおいしいきのこが採れることで有名なんです。鈴木春世さんも、お好きでしょう?」


「ま、まぁ、うん、好きだけど……きのこを採るんなら、私も手伝うよ」


「ダメです。危険です」


「危険? なんで?」


「きのこって、ちょっと難しいんですよ。触っただけで有害な物もあります。鈴木春世さんに何かあったら大変です。ボクがやりますよ」


 また何かを見つけたのか、ロボくんが山道から外れていく。

 山の中で、一人、取り残される私――。

 今度はさっきみたいに早く帰ってこない。


 森の葉っぱが、風でサワサワとこすれている。

 どこからか聞こえてくる、野鳥たちの不気味な声。

 山道の、前にも後ろにも、立っているのは私だけ。


 ふ、不安だ……。


 ロ、ロボくん?

 ど、どこまで行ってるの?

 は、早く帰って来てよ……。

 私を、一人にしないで……。


「あんた、そんなとこに一人で、一体何をやってるんだい?」


 いきなり、私は誰かに声をかけられた。

 声がしたのは、後ろの林の中。


 えぇ!?

 超ビックリして、私はその奥に目をこらす。

 草に隠れて、カサカサとこちらに登ってくる人影が見えた。


 農作業の服を着た、一人のお婆さん。


 お婆さんの手には、ギラリと鋭く光る、大きなかまが握られている。

 お顔が、あの、なんか、怒ってます?


 わ、私、ど、どうすればいいの?


「え、えっと……」


 何も答えられず、私はその場から動くことができない。

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