2 付き合ってください

「どうしたの、ロボくん?」


「あぁ、いえ。あの、鈴木春世さん。少しの間、静かにしていただけますか?」


 人差し指を口に当て、ロボくんがその場にしゃがみこむ。

 背負っていたランドセルを下ろし、中から一本の望遠鏡を取り出した。


 ま、またしても謎グッズ……。

 今日の謎グッズは、たくさんの貝殻で装飾そうしょくされた、なんだか古い望遠鏡みたいなやつ……。


 そ、それ……オ、オシャレ……なの?

 望遠鏡をスルスルと伸ばしたロボくんが、まっすぐに山の上を観察する。

 まるで海賊が、目的の島を発見したみたいな感じ。


「ロ、ロボくん……何を見てるの? って言うか、なんでそんな物を学校に持ってきてるの?」


 ヒソヒソ声で、私は聞く。

 ロボくんは、望遠鏡から目を離さずに言った。


「鈴木春世さん」


「は、はい?」


「今、お腹すいていませんか?」


「え……」


 そう言われて、私はドキッとする。

 恥ずかしさのあまり、たぶん顔が真っ赤になってる気がする。


 ひょ、ひょっとして……さっき私のお腹が鳴ったの、ロボくん、聞いてた?

 マ、マジか……。

 すごく……すっごく恥ずかしい……。


「えっと、あの、ごめんなさい。どうしてかはわかんないけど、私、さっきからずっとお腹が空いています。ヘンな音出して、ごめんなさい」


「ヘンな音? それはつまり、お腹が鳴るほど空腹ということですか?」


「え? ちょ、ちょっと待って。ロボくん、さっき私のお腹が『ぐぅ~~~』って鳴ったの、聞いてたんじゃないの?」


「いえ。ボクは何も聞いていませんけど」


「自分から……自分から……言ってしまった……」


「でも、だったらちょうど良かったです」


 ロボくんが望遠鏡から目を離し、スルスルとそれを縮めた。


「鈴木春世さん――付き合ってください」


「つ、付き合って――」


 突然の告白に、私はたぶん、とんでもないレベルで顔を真っ赤にしていた。


 つ、付き合うって……そんな……。

 な、なんで?

 なんで、このタイミング?

 い、いきなりですか!


「い、いや、と、突然、そんなことを言われましても……」


 その場で、私はモジモジと体をくねらせる。


「私だって、その、心の準備というものが……わ、私が、そんな、ロボくんみたいなイケメンの、彼女に、なるとか……」


「あぁ、いや、そういった意味ではありません。今からボクといっしょに来てくださいませんか? という意味です」


「へ? あ、あぁ……そういうこと……そういうこと、ですか……」


「はい」


「うん。まぁ、それはいいけど。で、どこに行くの?」


「すぐそこですよ」


 そう言って、ロボくんが裏山を指さす。


「この山のてっぺんです」


「この山の、てっぺん? や、山登り? 今から?」


「はい。どうやらボクの友だちが目を覚ましそうなんです。だからきちんと起こしに行こうと思いまして」


「きちんと、起こしに……」


「じゃあ、行きましょう。おいしいものをごちそうしますよ」


 そう言って、ロボくんは、さっさと一人で歩きはじめる。

 そんな彼の後ろ姿を見つめながら、私はめちゃくちゃ戸惑っていた。


 こ、これは……美少女をリードするイケメン?

 あるいは……自分勝手なヘンな人?


 昭和の花火大会の次は……山のてっぺんですか……。

 ロボくん、あなたは9月になっても、なんだか不思議な人なのですね……。

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