第2話 羽のはえた種が降る

1 お腹が鳴ってしまった

 夏休みが終わり、9月になった。


 2学期が始まり、席替えのクジを引いても、やっぱり私のとなりはロボくんになった。

 すごい偶然。

 でもこれでまた、ロボくんと色々お話しすることができる。


 超ゴキゲンな気持ちのまま、一日が終わった。

 いつものように、私は一人で下校する。

 同じクラスで、同じ方向に帰る人がいないからだ。


 ふと前を見る。

 え?

 少し先を歩いてるのは、もしかして――ロボくん?

 またしても、すごい偶然!


「ロボくん!」


 私が声をかけると、ロボくんがいつもの無表情で振り返る。


「あぁ、鈴木春世さん。奇遇きぐうですね。お一人ですか?」


「うん。じつは私、いつも一人で帰ってるんだ。同じ方向に帰る子がいなくて」


「そうなんですね。だったらこれからはいっしょに帰りましょう。ボクもこっちですので。女性が一人で下校するのは、何かと危険な時代です」


「え? いいの?」


「はい? なんでです? もちろんいいに決まってるじゃないですか」


「ありがとう、ロボくん!」


 ヤ、ヤバい……。

 ロボくんの方から「いっしょに帰りましょう」って言ってくれた……。


 こんなイケメンと毎日いっしょに帰れるなんて、私、超ラッキー!

 って、まぁ、ロボくんはちょっとヘンな人なんですけどね……。


 でもロボくんちって、私と同じ方向なんだ。

 どうして今まで、一度も会わなかったんだろう?


 2人でいっしょに帰り道を歩く。

 うわぁ、これじゃまるで彼女と彼氏じゃん!

 イケメンの彼氏……私、ずっと夢だった……。

 って、まぁ、ロボくんはちょっとヘンな人なんですけど(2回目)。


「ねぇ、ロボくん。夏休みは、どんな風に過ごしてたの?」


「いつもと同じですよ。とくに変わったことはしていません。鈴木春世さんはどうでしたか?」


「私? 私はね、色々やったよ。海水浴にも行ったし、旅行にも行った。心残りは、遊園地に連れて行ってもらえなかったことくらいかな……」


「遊園地ですか。あれはたしかに、楽しそうですね」


「え? ロボくん、遊園地に興味があるんだ?」


「そりゃあ、ありますよ。ボク、楽しいことが大好きですから」


「へぇ、意外。そういうの、あんまり興味がない人だと思ってた」


 ぐぅ~~~。


 その時――いきなりヘンな音が鳴った。

 とっさに、私は自分のお腹を押さえる。


 今、ひょっとして、聞かれた?

 私のお腹が鳴ったの。


 おそるおそるロボくんを見る。

 彼は相変わらずの無表情で、テクテクと私のとなりを歩いていた。

 良かった。

 たぶん、聞かれてない。


 あぁ、お腹が空いた……。

 給食はきちんと食べたっていうのに、私、もうお腹が空いてる……。

 ったく、私ってば、めちゃくちゃ健康だよ……。


 でもロボくんのようなイケメンのとなりでお腹を鳴らすとか、ダメすぎるな。

 私の、女の子としてのプライドが許さない。

 いや、もう、鳴らしちゃってるんですけど……。


「どうしました、鈴木春世さん?」


「ううん。なんでもない。なんでもないよ」


「そうですか。だったら良いのですが――ん?」


 突然、ロボくんがその場にピタリと立ち止まった。

 つられて、私も歩くのをやめる。


 真剣な顔で、ロボくんが道の横にある山を見上げていた。

 ウチの学校では、単純に、「裏山うらやま」と呼ばれている場所だ。

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