9 不思議すぎる

「ねぇ、ロボくん」


 翌朝、学校に着くと、私はすぐに、ロボくんに話しかけた。

 するとロボくんが、私の目の前にペンと消しゴムを差し出してくる。

 それを見て、私は目を見開いた。


「――ど、どうしてわかったの?」


「虫の知らせですよ。おはようございます、鈴木春世さん」


「お、おはよう……」


 私は、とまどいながら自分の席につく。


 そう。

 そうなのだ。

 私は今日、わざとペンケースを家に忘れてきた。


 ロボくんの力が本当なら、そういうのをすぐに見破るんじゃないかと思ったからだ。

 そして彼は――じつにあっさりと、それを見破った。


「ねぇ、ロボくん。ちょっと質問があるんだけど……」


「はい。どうぞ」


「ロボくんは……どうしてあの時、ベンチでお金を分けてたの?」


「あぁ。簡単な話ですよ。未来の物を過去に持ち込むのは良くないことでしょう? だからあの時、あの時代に使われていた硬貨と今の時代の硬貨を分けていたんです」


「じゃあ、ゆうべ行ったのは……ホントに昭和?」


「はい。昭和です」


「ロボくん。どうしてあなたは、あんなことができるの?」


「あんなことって、どんなことですか?」


「魔法陣をタイムマシンにしたこと! 時間旅行の話!」


「あぁ。あれはべつに、ボクが特別なわけじゃありませんよ。誰だって、その気になれば時間旅行ができます」


「マ、マジで? 私にもできる?」


「はい。できますよ」


「ど、どうやって?」


「目を閉じてみてください」


 ロボくんに言われた通り、私は目を閉じてみる。

 するとすぐそばから、ロボくんの声が聞こえてきた。


「昨日の花火大会のことを思い出してみてください」


「うん……」


「どうですか? 何が見えます? まわりの様子は?」


「みんな……とても楽しそう……大人も、子どもも、全員ニコニコしてる……」


「すごいですね、鈴木春世さん。はい。もう目を開けてもいいです」


 私は目を開けた。

 いつもと同じ無表情のロボくんがとなりの席に座っている。


「で――今の、何?」


「時間旅行ですよ」


「は?」


「今、鈴木春世さんは時間旅行に行っていました。どうでしたか? 楽しかったですか?」


「ど、どういうこと?」


「楽しい時間っていうのは、ずっと消えないんですよ」


「ずっと、消えない……」


「永遠に、そこにあるんです。昨日ボクたちは、このまほろば町の記憶に残っている時間に、魔法陣を使って遊びに行っただけなんです」


「意味が……わかんないんだけど……」


「意味なんてわからなくていいじゃないですか。ゆうべは楽しかった。それがすべてですよ、鈴木春世さん」


 ロボくんがそう言うと、先生が教室に入ってきた。

 朝の会が始まる。

 しぶしぶと前を向き、私はとなりのロボくんをチラ見した。


 ロボくんは……とても不思議な人だ。

 なんだかよくわかんないけど……とても不思議。

 言ってることは、べつにむずかしくはないんだけど……なんか不思議。


 もう一度、私は目を閉じてみる。

 そうすると、すぐにゆうべの花火大会の映像が頭の中に浮かんできた。


 私はたしかに、ゆうべ、昭和に行った。

 どうやって行ったのかは、よくわかんないけど、本当に行ったんだ。


 目を開けた私は、ふたたびとなりのロボくんを見る。


 ロボくんは、今日も例の謎グッズ――小型のパラボラアンテナを机の隅に置いていた。

 それをながめながら、「うむ」って感じで、納得したようにうなづく。


 だから……何なの、ロボくん、それ?

 何が「うむ」なの?

 一体あなたは、何に納得してるの?


 ロボくん……あなたはとても興味深いよ……。

 とてもとても……興味深いよ……。

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