8 イカ焼き

 気がつくと、私とロボくんは、いつもの公園に戻っていた。

 私は最初、全部が夢だったんじゃないかと思う。

 だけど……私は、ロボくんが手に持っている食べ物を見つめた。


 串にささった、二本のイカ焼き……。


 やっぱり……全部、本当だったの?


「ロ、ロボくん……あの、確認なんだけど……今のは、本当に起こった出来事なの?」


「はい。そうですよ。もちろん、本当に起こった出来事です」


「ってことは……私たちは今、過去に戻ってたってこと? この魔法陣、タイムマシン、みたいな?」


「まぁ、そんな感じです。でも楽しかったですね、鈴木春世さん。今度はもう少しゆっくり遊びに行きましょう」


「は、はぁ……」


 ロボくんは、本当にフツーのことみたいに言う。


 で、でも……こ、これって、やっぱりすごいことだよ!

 私たち、今、過去に行ってた!

 ずっと昔の、昭和の時代に戻ってた!


「じゃあ、ボクはこれで帰ります。お疲れさまでした、鈴木春世さん」


 ロボくんが、なぜか私に向かって、丁寧なお辞儀をする。

 それにつられて、私もなぜだか大人みたいにきちんとお辞儀を返した。


「は、はい。あの、どうも。お疲れさまでした」


「あ、そうだ。鈴木春世さん」


「は、はい」


「こちらを――」


 ロボくんが、持っていたイカ焼きの一本を、私に差し出してくる。

 私は、それを受け取った。


「今日のお土産みやげです」


「あ、はい。あの、どうもありがとうございます」


「それはあの時代の食べ物ですけど、ついさっき作られた物です。食べてもお腹をこわすようなことはありません。ボク、好きなんですよ。お祭りのイカ焼き」


「う、うん……わ、私も……私も好き」


「それでは、また」


「ね、ねぇ、ロボくん!」


 帰ろうとするロボくんを、私は引き止めた。


「はい? 何でしょう?」


「あ、あのね、ロボくん」


「はい」


「明日からも、その……私、ロボくんに話しかけていいかな?」


「えっと……それはもちろん良いですけど……どうしました?」


「い、いや、ロボくんって、もしかしたらすごい人なのかなって思って。私なんかが話しかけて、大丈夫なのかなって。だって時間旅行とかできるし……」


「はははははは。いやいや、そんなそんな。ボクはまったくすごくありませんよ。フツーの人間です」


「いや、フツーでは、ないんじゃないかな……」


「それでは。また明日、学校でお会いしましょう。失礼いたします」


 そう言ってロボくんは、イカ焼きを片手に公園から出ていった。

 彼を見送っていた私は、そこでハッと気づく。


 ヤ、ヤバい!

 すっかり忘れてた!

 お父さんが迎えに来てくれるんだった!


 あれから一体どのくらい時間が経ったんだろう?

 あまりにも不思議すぎて、楽しすぎて、完全に忘れてたよ!

 おそるおそる、私は腕時計を見てみる。


「え……」


 時間が――まったく進んでいなかった。


『楽しい時間は、いつだって一瞬です』


 私の心の中で、夕方、約束した時のロボくんが言った。

 ホントだ……ロボくんが言った通りだ……。

 さっき私たちが魔法陣に入ってから、まだ1分くらいしか時間が経ってない……。


 で、でも……。


 な、何なの、ロボくんって?

 なんでこんなことができるの?

 もしかして――魔法使い?

 マ、マジで?


 それから私は――昭和のイカ焼きを食べながら、お父さんが迎えに来るのを待った。

 でも頭の中で考えるのは、ロボくんのことばかり。


 ねぇ、ロボくん。

 あなた、不思議すぎるよ……。

 とてもとても不思議すぎるよ……。

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