7 縁日

「ボクたちは今、50年前のまほろば町に来ています」


 ロボくんが、ものすごくフツーのことのように言った。

 その言葉に、私はまたしてもキョロキョロと周りを確認する。


 た、たしかに……ここはなんだかめちゃくちゃ古臭い感じがする。

 50年前といえば、50年前っぽい。

 まるでおじいちゃんやおばあちゃんのアルバムの中に迷いこんでるみたいな感じ。


 ジャングルジムの下を見る。

 いつの間にか、私たちくらいの子どもたちがいっぱい集まっていた。

 だけどみんな、なんだかミョーな格好だ。


 男の子は、ホットパンツみたいな短いズボン。

 女の子は、今にもパンツが見えそうな短いスカート。


 でも、なんだかみんな……めちゃくちゃ楽しそうだ。

 キラキラと目をかがやかせながら、空に広がっていく花火をジッと見上げている。


「ここは、昭和のまほろば町です。ほら、なんだかみなさん、とっても楽しそうでしょう?」


「うん……とっても楽しそう……花火も、キレイ……」


「昭和の花火って、なんだかとても美しいですね。もちろんボクたちの時代の方が豪華なんでしょうけど、昭和の方がなんだか派手な気がします」


 私はもう一度、近くに集まっている人たちの顔を見る。

 気がつくと、たくさんの大人たちも集まっていた。


 おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん、おばさん、若い男の人、女の人、子どもたち。

 みんな、なんだかワクワクした顔で、夜空を見上げている。


 でも、ここって……ひょっとして……マジで、昭和なの?

 今、私、本当に……昭和に来てるの?


「さて、あまり時間がありません。行きましょう、鈴木春世さん」


「行くって、どこに?」


「花火大会と言えば――楽しいことがたくさんあるじゃないですか」


 意味深いみしんに笑って、ロボくんが私の手を取る。

 ゆっくりと、ジャングルジムを下りた。


 手をつないだまま、私たちは公園を出る。

 暗い路地を通り、ふたたび道が開けると――私たちの目の前には、はなやかなあかりの群れが広がっていた。


 まほろば商店街の、縁日だ。


「うわぁ! やっぱりこの頃は、まだまだ活気かっきがありますね!」


「すごい! 人が多い! 灯りがまぶしい!」


「鈴木春世さんは何が食べたいですか?」


「食べたい? 食べたいって?」


「色々あるじゃないですか。わからないなら、ボクにおまかせいただけます?」


「う、うん! おまかせする!」


「じゃあ、こちらへ――」


 それから……ロボくんは、色んなところに私を連れていってくれた。


 リンゴ飴、イカ焼き、タコ焼き、ラムネ。

 ロボくんが、たくさんの食べ物を私に買ってくれる。

 それを食べながら、私たちは射的ゲームをしたり、輪投げをしたり、水風船を取ったりした。


 私たちのまわりにいる人たちは、みんな楽しそうだ。

 商店街のアチコチから楽しい音楽が流れてきて、色んな人が普段着や浴衣で通り過ぎていく。


 この時代の人たちは、私から見ると、全員ちょっとカッコがダサい。

 でも……私が知ってる縁日より、ずっとずっと楽しい感じがした。


「どうですか、鈴木春世さん? 来て良かったでしょう?」


「うん! 良かった!」


「でもさっきも言ったように、もうあまり時間がありません。そろそろ帰りましょう」


「そっか……うん……なんか、すごく残念……」


「ははははは。まぁ、また来ましょうよ」


 ロボくんが私の手を引いて、縁日から遠ざかっていく。

 とてもさみしい気持ちになりながら、私は商店街の灯りを振り返った。


 私たちの後ろから、楽しそうな声や音楽が聞こえてくる。

 それに重なるようにして、夜空の花火が、大きな音で美しく広がり続けていた。

 何度も、何度も。


 この世界は、私たちが住んでいる世界とは、少しだけ違う。

 だけどなんだか……とても居心地が良いところだった。

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