5 夜の公園

 塾が終わって公園に行くと、ロボくんはベンチに座っていた。

 照明灯の下、手の中の何かを「えぇっと……」みたいな感じで、右と左に分けている。


 近づいて彼の手元を見ると、彼が選別してるのはお金だった。

 十円玉、五十円玉、百円玉。

 全部、硬貨ばかりだ。


「ロボくん。あの、来たんだけど?」


「あぁ。鈴木春世さん。こんばんは」


「こんばんは。で、それ……何してるの?」


「はい。あの、お金を分けてました」


「お金を、分けてた……」


「はい。ボク、意外と几帳面と言いますか」


「几帳面……」


 ――あぁ、なるほど!

 そっか、そういうことか!


 ロボくんって、色んな硬貨が混ざってるのがキライな人なんだ!

 だからそれぞれをきちんと別々に分けてるんだね!


 十円玉はこっち、五十円玉はこっち、百円玉はこっち。


 うん。

 それって、ちょっと几帳面かも。


 って、思ってたら――ロボくんはいきなり、左側に並べていた硬貨を全部一つにまとめた。

 グチャグチャのまま、おサイフの中に入れる。

 残りの硬貨も全部混ぜて、それはポケットの中に入れた。


 えっと……あの……すいません……ロボくん?

 今、結局、何を分けてたんでしょうか?

 って言うか、今の、何が、どぉ、几帳面だったの?


「鈴木春世さんの親御おやごさんが迎えに来られるのは、だいたい何時くらいですか?」


「親御さんって……親のこと? えっと……さっき電話したから、あと十五分くらいかな?」


「わかりました。それだけあれば存分ぞんぶんに楽しめます」


 私は、ロボくんのまわりを見る。

 ロボくんは――何も持ってきていなかった。


「でもさ、ロボくん。あの……花火をするんだよね? 花火はどこにあるの? ひょっとして今から買いに行くとか?」


「いやいや。花火はしないって言ったじゃないですか、鈴木春世さん」


「でも花火がなかったら――どうやって花火を見るの?」


 私の言葉に、ロボくんは少し考える。

 すぐに、ハッとした表情を浮かべた。


「あぁ! なるほど!」


「何が――なるほど?」


「誤解ですよ、鈴木春世さん。そういうことじゃないんです」


「あの、ぜんぜん話が見えないんですけど……」


「まぁ、『百聞ひゃくぶん一見いっけんにしかず』と言いますしね」


「どういうこと?」


「どうぞ、こちらです」


 ロボくんが、ベンチから歩きはじめる。

 しかたなく、私はそれについて行った。

 夕方、ロボくんが描いていた、魔法陣の上に立つ。


「準備はいいですか? 鈴木春世さん」


「準備って? 何の準備?」


「花火大会に行く準備ですよ」


「花火大会って……だから、あの、一体どこの?」


「このまほろば町のに決まってるじゃないですか」


「うん、あの、だからね、ロボくん……まほろば町の花火大会は、今年も中止になったの。わかんないかな?」


「では、行きましょう」


 ロボくんのその言葉が合図だったかのように、いきなり私たちの足元の魔法陣が光りはじめた。


 え? え? え?

 何? 何? 何?


 私とロボくんは、下から舞い上がってくる光の金粉に、全身を包まれていく。


 ど、ど、どうなってるの、これ?

 ね、ねぇ、何が……何が起こってんの?


 いや、ホントに、マジでぇーーーーーーーっ!

 ロ、ロボくん!

 これは、何ーーーーーーーっ?

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