4 魔法陣
「ロボくん。それ、何を描いてるの?」
後ろから、私は彼にそう声をかけてみる。
いつもの無表情で、ロボくんがこちらを振り返った。
「あぁ、鈴木春世さん。はい、あの、魔法陣を描いていました」
「魔法陣……」
それって、もしかして、あれ?
円の中に色んな文字とか図とか数式を書いて、魔法を発動させるやつ?
さらに近寄り、私はロボくんの足元を見る。
でも言われてみれば……この二重丸と模様……たしかにそんな感じ……。
「そ、そうなんだ。へぇ。でも、えっと、あのー、何? 何か魔法でも使うの?」
って、何言ってんだ、私?
まるでフツーのことみたいに言っちゃってますけど。
「えぇ、そうなんですよ。ちょっと今朝、思いついたことがありまして」
今朝……。
あぁ、ロボくんが、机の上に置いた、あの謎グッズ?
小型の、その、パラボラアンテナみたいなやつ?
あれが何か、関係あるのかな?
「思いついたことって――どんなこと?」
「べつに大したことではありませんよ。ちょっと、まぁ、個人的な楽しみです」
「個人的な楽しみ? 何、何? 教えて」
私が聞くと、ロボくんが「うーん」とアゴ先を手でつまみ、少し考える。
そんな彼を見て、私は少し自分のホッペが赤くなるのを感じた。
ロボくんって……やっぱマジでヤバい……。
何かを考える姿も、イケメンすぎです……。
私、今、ちょっと乙女……。
そりゃあ、まぁ、ロボくんは、すっごくヘンな人なんだけど……。
「そういえば……鈴木春世さんは、ボクのおとなりの席でしたよね? だったら、これも何かの
「そういえば、って……私たち、5年生になってから、ずっととなりの席なんだけど……」
「鈴木春世さんは――花火、お好きですか?」
「花火? うん、好きだけど?」
「じつはボクも大好きなんですよ」
「そっか。同じだね」
「で、今夜なのですが――実はボク、ここで花火を見るんです」
「ここで? 花火を? え、でも、この公園、花火禁止だよ?」
「もちろん、ここではやりません。見に行くだけです」
「ここで花火はやらない……見に行くだけ……」
「はい。ですので、もしよろしければ……鈴木春世さんもいっしょにご覧になりませんか?」
え……っと……。
ロボくんの突然の言葉に、私は胸がドキドキしてくる。
も、もしかして、これって……私、ロボくんに誘われてる?
この、少しヘンだけど、超イケメンな男の子に?
え? え? え?
ひょ、ひょっとして、これ、デ、デートの申し込みですか?
マ、マジで?
でも――。
「あの……あのさ、ロボくん。ひょっとして知らないのかな? まほろば町の花火大会はね、今年も中止が決まったんだよ?」
「はい。もちろん知ってます。でもこの時期、やっぱり大きな花火を
「個人的に、見に行く……」
「はい。今夜はきっと盛大な花火大会になります」
「えっと……それは、その、何時くらいから始まるの?」
「そうですね……夜の7時半くらいからでしょうか」
「7時半……」
ちょうど、塾が終わる頃だ。
「花火大会は……たぶん、1分くらいで終わると思いますけど」
「い、1分? み、
「でも1分もあれば、
「1分って、一瞬じゃん!」
「楽しい時間は、いつだって一瞬です」
「7時半かぁ……でもちょうどそのくらいに、私も塾が終わるんだよね……」
「そうですか。では可能であれば、ぜひいらしてください。夜の7時半に、ボクはここで待っています。いっしょに大きな花火を見ましょう。きっとキレイですよ」
「う、うん……わかった……」
「それでは。ボクは準備がありますので」
そう言うと、ロボくんはクルッと私に背中を向けた。
さっきまでと同じように、細長い棒で、地面に魔法陣の続きを描きはじめる。
ロボくんがあまりにも真剣なので、私はその場から立ち去った。
大きな花火、か……。
でも、そんなのが、ホントにここで見れるのかなぁ?
この、花火禁止な公園の中で……。
私は公園を出て、そのまま近くにある塾の建物に入っていく。
塾が始まってからも、私はあまり勉強に集中できなかった。
ねぇ、ロボくん。
花火をしない花火大会っていうのも不思議だけど、1分で終わる花火大会って、一体どんなの?
ひょっとして、一発打ち上がって――それで終わり?
そんなの、花火大会って言う?
ロボくんって、やっぱりホント、意味がわからないよ……。
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