6 新・不思議アンテナ

 次の日から、私たちの夢太郎くん探しが始まった。


 放課後、私たちは夢子さんを掘り起こしたプールの横に集まる。

 夢子さんの穴は、いつの間にかきちんと埋められていた。

 やったのは、おそらくこの二人。


 たぶん先生や生徒たちに、このことを知られないためだろう。

 例の黄色い『安全第一』ヘルメットとエプロン姿のロボくんが、私とスカイに言った。


「ボクの予想では……夢太郎が埋められている場所は、ここからもっとも遠い場所だと思います」


「ここからもっとも遠い場所……そう思う根拠は?」


 スカイの質問に、ロボくんがうなづく。


「昨日も言ったように、夢子と夢太郎が同じ場所にいると、イチャイチャして仕事になりません。だから二人がなかなか会えない、遠いポジションに埋めたのではないか? そういう予想です」


「なるほど。つまりアレか? 5メートル先とか、10メートル先ではないってことだな」


「はい。そして夢子が埋められていたここから、もっとも遠い場所となると――」


 ロボくんが、自分の後ろの体育館を指さす。


「この体育館の向こう――第1の候補地点は、運動場を横切った学校の裏門ということになります。つまりジャングルジムの横の空きスペースです」


「ふむ。で、その他の候補は?」


「2番目の候補地点は、プールの対角線上――つまり壁打ちの場所」


 ロボくんの指先が、斜めに向けられる。

 あっちは校舎の向こう側。

 サッカーや野球をしてる子が、壁にボールをぶつけて自主練する場所だ。


「じゃあ、3番目の候補地点は――あそこか?」


 スカイがプール横から見える、一番遠い地点を指さす。

 そこはプールのとなりの塀に沿った、ここからもっとも遠い地点だ。


「そうですね。夢太郎が埋められている場所は、この3か所のうちのどれかというのがボクの見立てです」


「しかし――そのすべてを掘り起こすというわけにはいかないだろう? 時間がかかりすぎる。その間に、夢太郎が夢子がいないことに気づき、そこら中に災いをまき散らしたら、どうする?」


「それについては、問題ありません。こちらを見てください。新兵器です」


 ロボくんが、そばに置いていたランドセルの中を探る。

 自信満々で、謎グッズを取り出した。


 こ、これは!


 それを見て、私は「えぇ?」と目を見開く。

 ロボくんの手の上に置かれているそれは――いつもの、あの不思議アンテナだった。


 あ、あの、ロボくん……。

 それ、新兵器なの?

 いつもと同じやつじゃなくて?


 ううん、ちょっと待って。

 色が……ちょっと違う?

 いつものやつは本物のパラボラアンテナっぽい白色だけど、今彼の手の中にあるのは――ちょっと薄い茶色だった。


「夢太郎の霊力をキャッチしやすいように、色を塗り変えてきました。おそらくこれで、夢太郎の現在位置を完全に特定できるはずです」


「い、いや、ロボくん……そんな、不思議アンテナの色を変えたくらいで……」


 とまどいながら、私は言う。

 だが私のとなりのスカイは、大きくそれにうなづいた。


「なるほど! そいつは心強いな!」


 えぇ?

 スカイ、納得した?

 マジで?


 ちょ、ちょっと!

 これ! この不思議アンテナ!

 いつものやつと何がどう違うの?

 い、色を塗り変えただけなんですけど?


「ってことは、アレだな。わりと簡単に、夢太郎の位置が特定できるってわけだ。フッ、楽勝だぜ」


「それでは、行きましょう!」


 なんだかよくわかんないけど、めちゃくちゃヨユーな二人が、スタスタと歩きはじめる。

 頭をかかえながら、私は彼らのあとに続くしかなかった。


 な、何なの、この2人……。

 この人たちが納得してる、その意味がわかんないよ……。


 色を塗り変えただけで、一体何の性能が上がるの?

 ったく、不思議アンテナどころか、この2人の頭の中身の方が、私にとってはめちゃくちゃ不思議だよ……。


「ねぇ、ロボくん」


「はい。何でしょう、鈴木春世さん?」


「夢太郎くんってさ、この学校の男子担当なんだよね?」


「はい。そうですよ」


「ってことは――もし夢太郎くんの災いがバラ撒かれた場合、それを受けるのは、この学校の男子ってこと?」


「あぁ、そういったお話ですか。大丈夫ですよ、鈴木春世さん。そのあたりは、ご安心ください」


「え? 安心できるの?」


「はい。夢太郎が自分が背負った災いをまき散らした場合――それを受けるのは男子だけではありません。男女平等。もちろん女子にも降りかかります」


「ゑ……」


「それにその災いを一番最初に受けるのは、ボクたち三人です。他の生徒たちには、ほとんど影響はありませんよ」


「あの、ロボくん……」


「はい?」


「それの、何が、どこが、安心なの……」


 私は、さらに頭をかかえる。

 夢太郎くんって、たしか、前の戦争のあとから、ずっとそこに埋められてるんだよね?

 ってことは――あれから、もぉ――80年くらい?

 80年分の、溜めに溜めぬいた災いが、私たち3人に降りかかってくるってこと?


 マジで?

 死ぬの、私たち?

 カンベンしてよ……。


 泣きそうな私は、それでも第1の候補地点に到着する。

 学校の裏門近く。


 裏門の扉には、すでに南京錠がかけられていた。

 こちらから下校する者は少ない。

 だから先生は、いつもここを早めに閉じていた。


 裏門の向こうは、広い駐車場。

 このあたりの住人たちが月極で借りているスペース。

 門の金網の向こうに、ポツポツと、車が止まっているのが見えた。

 裏門から出る生徒は、この駐車場の間の砂利道を通って帰宅していく。


 ジャングルジムの横に立ったロボくんが、新・不思議アンテナをかざした。


「どうだ、ロボ?」


「うーん。どうでしょう……」


「反応しないな」


「しないですね」


 スカイとロボくんの残念な表情。

 って言うか、あの、2人とも……それ、どこでどう判断してるの?

 私、見ても、さっぱりわかんないんですけど?

 不思議アンテナ、いつもとまったく変わらないんですけど?


「それでは、第2の候補地点に行ってみましょう」


 2人が、第2候補の壁打ちの場所に歩きはじめる。


 ねぇ、2人とも。

 私、やっぱ、そろそろ帰っちゃダメかな?


 ったく、こんなことなら、昨日ロボくんに呼び出されて、体育館の裏になんか行くんじゃなかったよ。

 イケメン男子にコクられるどころか、戦後80年分の災いを受けるとか、一体どんな罰ゲーム?


 もぉ、夢太郎くん、早く出てきて!

 見つかって!

 ビーチフラッグみたいに、「ボクが埋まってるのは、ココです」的な、旗でも立てといてよ!

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