第4話 夢子と夢太郎

1 誰にも見つからないように

 秋――なんだか物悲しい季節。


 それと同時に、食欲の秋、読書の秋、芸術の秋。

 ま、私の場合、『食欲の秋』ってゆーのが、一番絶好調なんですけど!


 秋って、ホント、食べ物がおいしくなるよねぇ……。

 ついつい食べ過ぎちゃう。


 私、最近ヤバいなぁ……。

 ちょっと太っちゃったかも……。


 女の子って、マジでタイヘン。

 いつだって、美しさを追求しなきゃいけないから!


 そんなある日の放課後――私は、ロボくんに声をかけられた。

 終わりの会のあと、深刻な表情で彼が言う。


「あの、すいません、鈴木春世さん」


「ん? 何?」


「このあと、10分後くらいに――体育館の裏に来ていただけませんか?」


「体育館の裏?」


「はい。できれば、その……コッソリとした感じで」


「えっと、それは……誰かに見つかっちゃダメってことなのかな?」


「はい、ダメです。ちょっと、その、他の誰にも知られたくないことですので……」


「あ、あぁ……うん、わかった」


「よろしくお願いいたします」


 そんなわけで――たった今、私は体育館の裏に向かっています。

 なんとなくコソコソと、誰にも見つからないようにして。


 でも、ロボくんが放課後に私を呼び出すって、一体何の用事なのかな?

 しかも体育館の裏。

 普段、あまり人が来ない場所……。


 って……も、もしかして……これは、アレ?

 アレなのかな?

 『ボ、ボクと付き合ってください!』的な?


 えぇ……マジかぁ……。

 いや、でも、だって、そんな……。

 もしそんなこと言われたら、私、どうすればいいんだろ?


 ロボくんは、良い人だ。

 しかもイケメン。

 いつだって、私にやさしくしてくれる。


 だからやっぱり……私はオッケーしちゃう……と思う……。


 でも『付き合う』って、何なんだろう?

 私には、イマイチよくわかんない。

 『付き合う』って、一体何をどうするの?


 いっしょに遊びに出かけたりとか?

 毎日、いっしょに登下校?

 でもそんなの、今だって私、ロボくんとしてるし。


「おぉ、春世! どうした、お前? どこに行く?」


 後ろから、突然誰かが大きな声を出す。

 「こいつ、なぜ、このタイミングで……」と、私は顔をゆがめた。

 振り返る。


 スカイ。

 裏山の守り神――ふうな人。


「どこに行ったっていいでしょ? スカイは、ほら、早く家に帰って、ごはんでも炊いてなさい。一食でも抜いたら、あなた、死んじゃうんだから」


「なんで一食抜きで死ぬんだよ? オレが死ぬのは、二食抜いた時だ」


「それでも二食で死ぬんかい!」


「で、マジでどこに行く?」


「スカイには、カンケーない。もういいから。子どもは早く家に帰りなさい」


「なっ! オ、オレは守り神だぞ? 早く家に帰らなきゃいけないガキは、お前の方だ! オレはな、こっちに用事があるんだよ!」


「え? 用事? こっちに?」


「あぁ」


「こっちに食べ物、落ちてたっけ……」


「食いモンから離れろ。さっきロボに言われたんだよ。体育館の裏に来いって」


「え……」


 スカイの言葉を聞いて、私は心の底からガッカリする。


 何? ロボくん?

 それって、私とスカイを同時に呼んだってこと?

 だったら絶対、告白じゃないじゃん!


 あーあ。

 何なの、私?

 って言うか、何なの、ロボくん?

 私、めちゃくちゃドキドキしてたのに!


 あ、いや、でも、ちょっと待って……。


 これって、もしかしたらヤバいやつ?

 ロボくんが、私とスカイを同時に呼び出した。

 しかも『他の誰にも知られたくないこと』。


 この流れ……もしかして、私、またアレなことに巻き込まれるんじゃあ……。


 そんな私のイヤな予感は――見事に的中した。

 体育館の裏に到着した私とスカイは、そこに立っているロボくんを見て、ボーゼンと足を止める。


「ロ、ロボ……」


「ロ、ロボくん……」


 スカイと私は、あっ気にとられ、ため息のように彼の名を呼ぶ。

 体育館の裏に立った彼は、いつもと変わらない無表情で、私たちに手をあげた。


「やぁ、お二人とも。わざわざ来ていただいて、すいません」


 ロボくん、めっちゃフツー。

 日常。

 だけど私とスカイは、まだうまく声を出すことができない。


 だって……私たちの目の前にいる、ロボくんの格好……。

 あの、すいません……。

 ロボくん、それ、一体どういう状態なんでしょうか?


 彼の頭の上には――なぜか黄色いヘルメットが乗っかっていた。

 ヘルメットに記されているのは、『安全第一』という文字。


 左手に、長いクワのような農具。

 右手に、料理などで使うオタマ。

 ロボくんがかけたピンク色のエプロン――そのポッケから、小さなスコップと小さなホウキが、ひょこっと顔をのぞかせている。


 さっすがロボくん!

 イケメン!

 ガテン系もよく似合う!


 いや――そうじゃない。


 あの、ロボくん……。

 それは、その、どっからツッコんだらいいんでしょうか?


 長いクワってことは、今から農業?

 オタマってことは、今からお料理?

 って言うか、それ、学校の体育館の裏でする格好?


 ロボくん……やっぱりあなたは、めちゃくちゃ不思議な人だよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る