10 めちゃくちゃ悪目立ち

 翌朝、学校につくと、ロボくんはすでに自分の席に座っていた。

 机の隅っこに置かれた、例の小さなパラボラアンテナの向きを真剣に直している。

 私はカバンを自分の席に置き、ロボくんに話しかけた。


「おはよう、ロボくん」


「あぁ、おはようございます、鈴木春世さん」


「ねぇ、前から聞きたかったんだけど――そのアンテナって、何なの?」


「これですか? これはですね、不思議アンテナです」


「不思議……アンテナ……」


「このアンテナを設置しておきますと、不思議なことがどの方角で起こっているのか、わかるんですよ。便利な世の中になったものです」


 まるでフツーのことのように、ロボくんが言う。

 なんだかよくわかんないけど、私もなんとなくロボくんのこういうのに慣れてきた。

 深く考えても仕方がないので、サラッとやり過ごすことにする。


「そっかぁ。ところで――昨日のきのこパスタ、本当においしかったよね。ロボくんって、料理までできちゃうんだ。私なんかぜんぜんできないから、ただただ尊敬」


「料理ができなくても、まったく問題ありませんよ。作れる人が作ればいいじゃないですか」


「まぁ、そうなのかもしんないけど……」


「ん? あれ?」


「え? どうしたの?」


「不思議アンテナが反応してます」


「反応してる……ってことは、どこかで何か不思議なことが起こってるってこと?」


「どこかと言いますか……非常に近いですね。何かとてつもなく不思議なものが、こちらに近づいています」


「とてつもなく不思議なものが……近づいている……」


 その時、チャイムが鳴った。

 私とロボくんは話をやめて、きちんと自分の席に座りなおす。


 クラスメイト全員が着席すると、やがて先生が教室に入ってきた。

 そこで私とロボくんは、「え……」と息を止める。


 先生の横に立っている男子……。

 あ、あれは……。


「今日はみなさんに新しいお友だちを紹介します。今日からこのまほろば小学校の生徒になります、裏山うらやま そらくんです。みなさん、仲良くしてあげてくださいね」


 何も知らない先生が、めちゃくちゃ明るい調子でみんなに言う。

 先生のとなりに立っている男子を見て、クラスの女子たちがヒソヒソと話をはじめた。


「ねぇ、けっこうイケメンじゃない?」


「カッコイイ……」


「背も高いし、スタイルも抜群、髪の毛だってサラッサラ。スポーツとか、めっちゃできそう」


 女子たちの私語にニコニコしながら、先生が続ける。


「それじゃあ、裏山くん。自己紹介をお願いします」


「はい」


 一歩前に出てきた彼は、教室中を見回し、何かを探していた。

 「ヤバい」と思った私は、すぐに下を向く。

 だけど、もはや手遅れだった。

 一瞬にして、あいつに見つかってしまう。


「おぉ! ロボ! 春世! お前ら、今日から同じクラスだ! よろしくな! 楽しく行こうぜ!」


 あいつの言葉に、クラスメイト全員が私に注目する。


「は、春世? 呼び捨て?」


「彼氏? あの人、鈴木さんの彼氏なの?」


「え? マジ? 彼氏が転校してきた? うっそ、奇跡! 運命の赤い糸ってやつ?」


 私は、他人のふりをして、ただただ下を向いていた。

 だけど転校生・スカイは、私の席までフツーに歩いてくる。


「しかし春世。お前、今日も可愛いな。オレ、ゆうべ色々考えたんだけどさ、なんかお前のこと、好きになったんじゃないかと思うんだ」


「そ、そ、そ、そ、そ、そういうことを、こ、こんなところで、言わないの! スカイ! ここ、教室だよ!」


 真っ赤になって私が言うと、ロボくんがとなりでクスクスと笑っていた。


 わ、笑いごとじゃないよ、ロボくん!

 スカイって、バカなの?

 って言うか、絶対バカだよね?

 フツー、そういうこと、みんなの前で言う?


 最悪だよ!

 私、めちゃくちゃ悪目立ちしてるじゃない!

 どうすんの、これ!

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