9 羽のはえた種
次の瞬間――私は、とても美しいものを見た。
スカイが両手を広げると、空から何か銀色をした小さな物体が下りてくる。
それはひまわりの種のようなカタチで、天使みたいな二枚の羽がついていた。
パタパタと、可愛らしく羽ばたいている。
一体、どのくらいの数がいるだろう?
羽がはえたその種は、まるで雨みたいに、無数に空から降ってきた。
舞い下りてきた種が、農作業をしている佐藤さんの畑の上で止まる。
キラキラと、まるでミラーボールみたいに輝きながら。
怖いくらいに……キレイだった……。
「あれがスカイの能力なんです。スカイはあぁやって、毎年秋になると山の幸せを祈ります。山の守り神であるスカイに祝福されると、ここで育てられた食べ物は、全部おいしくなるんですよ」
「す、すごい……」
その光景にあ然としている私に、スカイが声をかけてくる。
「何だ、春世? お前、これを見るのは初めてなのか?」
「は、初めてだよ……こんなの、見たことない……」
「お前はきっと、今まで見る気がなかったんだな。オレはべつに、これを隠してるわけじゃない。見ようとすれば、フツーに見えるものだ」
「見ようとすれば……フツーに見える……」
私は、羽のはえた種の群れの向こうに広がる、まほろば町を見てみる。
まほろば町も、いつもより――ううん、さっきロボくんといっしょに見た時より、もっともっと輝いて見えた。
本当のまほろば町は、こんな風にピッカピカに光ってるのかな?
農作業をしている佐藤さんが、羽のはえた種に気づき、こちらを見上げてくる。
ニコニコとほほ笑みながら、大きく手を振ってきた。
「佐藤さんは、昔からこの羽のはえた種が見えてるんです。だからこの世界の本当の姿を知っている。スカイには、いつも感謝してるんでしょう。だからあんなにたくさんの謎草を、ボクたちにくれたのです」
こちらに手を振っている佐藤さんに、私は手を振り返す。
ロボくんも、私と同じように佐藤さんに手を振り返した。
やがてスカイが手を下ろすと、羽のはえた種がゆっくりと消えていく。
さっきまでキラキラしていた世界が、いつもと同じ色に戻った。
夕陽の中、佐藤さんの畑がオレンジ色に染まっている。
「さて。それじゃあ、鈴木春世さん。帰りましょうか」
「う、うん」
すごいものを、見てしまった。
感動のあまり、私はさっきの羽のはえた種をもう一度見たいと思った。
でも羽のはえた種は消えていて、夕陽ももうすぐ完全に終わってしまう。
家に帰る時間だ。
「それじゃあ、スカイ。また今度会いに来ますよ」
「なぁ、ロボ。次はまた別のパスタを作ってくれるか? 明日にでも、佐藤の婆さんに白菜をもらってくる」
「佐藤さんのところで作った白菜ですか。それはまた素晴らしい白菜パスタができそうですね。了解しました」
二人の約束が終わり、私とロボくんは歩きはじめる。
すると後ろから、スカイがまた私に声をかけてきた。
「なぁ、春世!」
私は振り返る。
「何?」
「お前もまた――遊びに来いよ!」
「うん。じゃあね、スカイ。羽のはえた種を見せてくれてありがとう! また」
軽く手をあげ、私はロボくんといっしょに山を下りていく。
山道を歩きながら、私はロボくんに言った。
「ねぇ。スカイは、ずっとあそこで一人で暮らしてるの?」
「はい。そうですよ。スカイはあまり人間と関わらないように生きています」
「こんなところに一人で……さみしくないのかな?」
「どうでしょう? そういう話を彼としたことがありません。スカイは守り神ですから、人間の世界に住もうと思えばいくらでも住めると思うんですけどね……」
「まぁ、でも、あのキャラじゃあ、どこに行っても問題を起こしまくりだよね、きっと」
「ははははは。そうかもしれませんね」
私は、家の前までロボくんに送ってもらい、「また明日」と、いつもの生活に戻った。
ビックリすることに、私はあんなにおいしいきのこパスタを食べたにもかかわらず、フツーに夜ごはんをしっかり食べてしまった。
ひょっとして、これ、私――食べ過ぎ?
うーん。
でもきっと大丈夫。
いくらたくさん食べたって、運動すれば太らないはず!
はず、はず、はず、はず、はず……。
でも今日の山登りは、意外といい運動になった。
これからもちょくちょくスカイの家に遊びに行けば、ひょっとしたら私、色んなとこの筋肉が引き締まって、ナイスバデーになれるかもしれない。
そんなことを考えながら、私はいつもの生活を続け、ベッドに入る。
今日ロボくんが作ってくれたきのこパスタ。
あれ、おいしかったな……。
また機会があったら、食べてみたいな……。
でもロボくんって、何でもできるんだね……。
私も今度、きのこパスタを自分で作ってみよっかな……。
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