6 どうしてそういうこと言うの?

「やめた方がいい。あそこはもう、マジで危険だ。いつ空間の歪みが閉じられても不思議じゃない」


 私が山崎さんをマボロッシーを会わせたいと言うと、スカイがそう肩をすくめた。


 私たちは、スカイの家の囲炉裏で向かい合っている。

 ロボくんは台所で、スカイの山菜ごはんを作っていた。


「それでも。私は山崎さんとマボロッシーを会わせてあげたいんだよ」


「あのなぁ……春世、お前はよくわかってないんだ。空間が閉じるのは、ほんの一瞬なんだぞ? いきなりピシャッと閉じられる。何の前置きもない」


「……」


「そもそも、ついさっきだって、もしかしたらもうギリギリだったかもしれない。今年に入って山崎がマボロッシーに会えなくなったのは、おそらく空間が閉じそうになっているからだ。あそこの歪みはもう長くない。危険すぎる」


「スカイがなんとかしてよ。あなた、守り神なんでしょう? なんかそういう魔法みたいなのがあるんじゃないの?」


「どうにもならないんだよ。時空が違う。オレの力でなんとかなるのは現代だけだ」


「じゃあ、ロボくんに魔法陣を描いてもらう。一瞬だけでもいいから、山崎さんとマボロッシーを会わせてあげたい」


「だ・か・ら、それが危険だっつってんだよ!」


「な・ん・で・よ?」


「もしお前と山崎があそこでマボロッシーに会っている間に、時空の歪みが閉じられたらどうする? お前と山崎は2人であんな大昔の海に放り出されるんだぞ? とてもじゃないけど、陸まで泳げない。おそらく数分で死ぬ。めちゃくちゃ深いぞ、あそこの海は」


「……」


「時空の歪みが閉じられれば、オレもロボもお前を助けに行けない。そんな状況になったら、お前、一体どうするつもりだよ?」


「で、でも……」


「って言うか、そもそもお前、そんなに山崎と仲が良かったのか? 大親友だったのかよ?」


「そりゃあ、まぁ……たまにちょっと話すくらいだったけど……」


「そんなヤツの思い出作りに、命をかける必要はない」


 スカイが、キッパリと言った。

 そんな彼の言葉に、私はめちゃくちゃムッとくる。


「よく考えろ、春世。山崎は来週、どっかに引っ越していくんだろう? お前はまだ子どもだからわからないだろうけど……転校したらもうお前は二度と山崎に会わなくなる」


 私はスカイをにらみつける。

 スカイはかまわずに続けた。


「転校っていうのは、そういうものだ。もうあきらめろ。今後二度と会わないようなヤツの思い出作りに自分の命をかけるとか……お前、ホント、どうかしてるよ」


「どうしてそういうこと言うの?」


「どうしてって……そりゃあ、お前が心配だからに決まってるだろ?」


「もういい。スカイって人間がよくわかった」


「オレは人間じゃねぇ。この裏山の守り神って、お前も知ってるだろ」


「だったらあなたっていう守り神の気持ちがよくわかった。もうここには遊びに来ない」


「え?」


「さよなら」


「ちょ、ちょっと待てよ、春世!」


「待たない」


 私は立ち上がり、ふてくされた顔でスカイの家を出た。

 スカイは私を追ってこようとしたが、家の外までは出てこなかった。


 ったく……何なの、スカイ?

 どうしてそんなことが言えるの?

 そりゃあ、たしかに、私と山崎さんは、それほど大親友だったってわけじゃないよ。


 でも私は、さっき――マボロッシーの目を見てしまったんだ。


『あぁ、似てるけど、あの子じゃないな……』


 っていう、そんな感じの目!

 たぶんだけど、マボロッシーだって、山崎さんに会いたいんじゃないかと思う。


 あの2人には、私たちにはわからない何かがあるんだ。

 たぶん2人だけの、友情みたいなものが。


 それを感じて、それができるかもしれない可能性があるっていうのに、あきらめるなんて――そんなこと、私にはできないよ!


 そうだ!

 魔法陣の描き方を勉強しよう!

 そうすれば私だって、スカイやロボくんの力を借りずに、あの空間の歪みに行けるかもしれない!


 ロボくんだって、たぶんスカイと同じ意見なはず。


『危険ですから、やめときましょう、鈴木春世さん』


 って言うに、決まってる!

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