3 石とぬいぐるみ

 ぬいぐるみは、まほろば町のアチコチに置かれていた。

 そう。

 これは落ちてるんじゃない。


 のだ。


 私とロボくんは、謎に放置されたぬいぐるみたちを集めていく。


『このぬいぐるみ、おそらくスカイが置いていった物です』


 昨日、ロボくんはそう言った。

 だけど、だとしたら――どうしてスカイはこんなものを置いて回ったのだろう?

 しかもそれをロボくんに回収させるとか。


 町中まちじゅうに置かれたぬいぐるみは、一種類ではなかった。

 色んな動物がいる。


 サル、ひつじ、ヘビ、竜……。

 途中まで集めて、私はふと、それに気づく。


「ね、ねぇ、ロボくん」


「はい。何でしょう?」


「このぬいぐるみたちって、もしかして――十二じゅうに?」


「さすがですね、鈴木春世さん。おっしゃる通り、これは十二支です」


「十二支の、ぬいぐるみ……」


 私は、謎自転車の荷台を見る。

 竹カゴの中は、もうぬいぐるみでいっぱい。

 みんな、ギューギュー詰め状態。


「これ、あとどのくらい集めるの?」


「今のところ、22体ですから――あと1体ですね。昨夜スカイは、全部で23体あると言ってました」


「23体……だから何体か、種類がダブッてるのか」


「まぁ、23人もいれば、何人かの十二支は重なるものですよ」


「ちょ、ちょっと待って」


 私は、その場に立ち止まる。

 おそるおそる、彼に聞いた。


「今、23人って言った?」


「休憩にしましょう」


 その質問には答えず、ロボくんがすぐそばのコンビニに謎自転車を止める。

 お店に入っていく彼を、私は外で待った。

 お店から出てきたロボくんは、ジュースを2本持っている。


 そのうちの1本を、私に手渡してくれた。

 さすがロボくん。

 私が好きなジュースを知ってる。


「どうぞ。ボクのおごりです」


「いいの?」


「もちろんです。今日誘ったのは、ボクですから」


「ラッキー♪」


 いやいやいや、そうじゃない。

 今はそんな場合ではなかった。

 コンビニの駐車場の隅っこで、私たちはジュースを飲みはじめる。


「このぬいぐるみは――スカイの心づかいだと思うんです。つまり、鈴木春世さんに対する」


 ジュースをひと口飲むと、ロボくんが言った。

 私はそれに首をかしげる。


「スカイの心づかいって、どういうこと?」


「きっとスカイは、今日のピクニックに鈴木春世さんを招待したかったんですよ」


「招待……で、なんで、ぬいぐるみ?」


「いいですか、鈴木春世さん? 怖がらないで聞いてください」


「こ、怖い話? ま、まぁ、すでに聞く前からちょっと怖いですけど……」


「じゃあ、やめておきますか?」


「いえ、すいません。お願いします」


「このぬいぐるみには……ぶっちゃけ、死者の魂が入っています」


「や、やっぱり……それ系……」


 私は、謎自転車の荷台を見つめる。

 十二支の動物たちの、可愛らしいぬいぐるみ。

 新品みたいにピカピカしてるけど……これに、死者の魂が……。


「人が亡くなると、その者の魂は、自宅の物の中に入り込みます。一時的な家のようなものでしょうか? 入り込むのは、石が多いです」


「石に、魂が入り込むの?」


「はい。よく遠足なんかに行ったら、その土地の石を持ち帰ってはダメだとか言われませんでした? あれです。鉱物霊も多いですが、誰かの魂が入っていることも多いんですよ」


「マ、マジか……」


「石は、死者があの世とこの世を自由に行き来できないようにするためのフタでもあります。生者と死者の境目さかいめ。逆に、近づいて耳をすませば、死者の声が聞こえる物」


「それ、ホントの話?」


「ホントですよ。だからお墓は、石で作られることが多いんです」


「そ、そっか……墓石……」


「だからむやみに持ち帰ったり、石の場所を変えてはいけない。ヘタをしたら『よくも勝手に場所を変えやがったな』と、石に呪われることもあります」


「あ、あの、ロボくん……私たち、今まさに、勝手にぬいぐるみを持ち帰ってますけど?」


「あぁ。これは大丈夫です」


「な、なんで?」


「今のボクたちは、スカイの使者です。だから大丈夫なんです」


「スカイの? 使者? いつの間に私たち、スカイの使者になったの? それに大丈夫って……スカイが一番大丈夫じゃないキャラなんだけど?」


「スカイは、裏山の守り神であると同時に、この町で亡くなった者を空に送る仕事もしています」


「は?」


「あぁ見えて、スカイは立派な神様なんですよ。いつもこの町の死者を、きちんと空に送り出しているんです」


「空に……」


 私は、空を見上げる。

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……。

 相変わらず、天気はイマイチ。


「だから彼の名前は、『空』なんですよ。まぁ、時代に合わせて、今は『スカイ』と名乗ってますけどね」


「ねぇ、ロボくん。私、そんなすごい神様にいつも文句ばっか言ってるんだけど……もしかして、地獄に行くの?」


「ははははは。大丈夫ですよ。スカイは、鈴木春世さんのことが大好きですから。きっと天国に行かせてくれます」


「良かったぁ……って、いやいやいや。私、まだ小5なんですけど? 天国とか、めっちゃ先の話」


「まぁ、スカイに愛されているからこそ――彼は色々と鈴木春世さんに見せたいんでしょうね」


「見せたい? 何を?」


「まぁ、それはお楽しみです。せっかくスカイが鈴木春世さんのために、こんな演出をしてくれてるんです。ボクが種明かしするわけにはいきませんよ」


「演出……」


「さっき言ったように、本来魂は石に宿ります。だけど石だったら、ちょっと不気味でしょう? だから鈴木春世さんが手に取りやすいように、スカイは今回、石をぬいぐるみに変更したんです」


「ねぇ、ロボくん」


「はい。何でしょう?」


「スカイって、もしかして……めちゃくちゃロマンチスト? ひょっとして、女の子全員がぬいぐるみ好きだと思ってる?」


「え? 鈴木春世さんは、ぬいぐるみがお嫌いなのですか?」


「いえ、好きですけど」


「だったらいいじゃないですか」


 肩をすくめ、ロボくんがほほ笑む。

 そして彼は、それに気がついた。


「なんと! これは素敵な偶然です! 最後のぬいぐるみが見つかりましたよ!」


 ロボくんが、コンビニの駐車場の向こうに歩いていく。

 そこのフェンスの上にチョコンと座る、ネズミのぬいぐるみを手に取った。

 抱っこして、こちらに戻ってくる。


 やっぱロボくん、ぬいぐるみがよく似合うね……。

 なんか、めちゃくちゃ可愛いよ……。


「さて、これで全部集まりました!」


 謎自転車の竹カゴに、ロボくんがそのネズミを入れる。

 箱の中を、二人で数えた。

 2、3……10……20……22、23。


 たしかに、23体。

 って言うか、23人……。


「これだけのぬいぐるみを集めて、スカイは一体何をするつもりなの?」


「もちろん、ピクニックですよ」


「ピクニックって……死者の魂がこもった、このぬいぐるみたちと?」


「はい」


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……。


 なんか、今の話を聞いたら、この音まで気味悪くなってきたよ。

 雷、来てます。


 空は、さっきよりも薄暗く、今にも雨が落ちてきそう。

 謎自転車のハンドルを握り、ロボくんがスタンドを上げる。


「それでは、スカイの家に行きましょう。そろそろお弁当も出来上がってるはずです」


「わかった」


 コンビニの駐車場を出て、私たちはスカイの裏山へと歩きはじめる。

 スカイの家に行ったら、これまでのすべての謎が解き明かされるのだろうか?


 死者の魂が入った、ぬいぐるみ。

 雷がゴロゴロする中での、ピクニック。

 一体、何が起こるんだろう?


 私は、なんだかゾワゾワしてくる。


 だけどその時――私はコンビニの駐車場の隅っこに、見覚えのあるものを見た。

 フェンスのすき間をスルスルと通り抜ける、黒いおしりと尻尾が消えていく。

 今のおしり、私、見覚えがある。


 あれは、昨日見たあの黒猫だ。

 まるで書きかけのト音記号みたいなあの尻尾は、間違いなくあの子。


 もしかして、私とロボくんについてきた?

 私たち、ストーキングされてる?

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