5 スカイ
「素晴らしい景色ですね」
山のてっぺんに到着すると、ロボくんが言った。
美しく手入れされた広大な畑。
そのあぜ道に立ち、私たちは下に広がるまほろば町を見つめている。
この角度から、自分が住んでいる町を見るの初めてだ。
いつもとは違う風に吹かれながら、私は目を細める。
なんだか、とても気持ちがいい。
「ボク、ここから見るまほろば町の風景がものすごく好きなんですよ」
「私、初めてだよ。こんな風にバーッて、全体で見るの。意外と広いんだね、まほろば町」
「さて、行きましょう。スカイが二度寝してしまってはいけません。まぁ、謎草があることを知れば、スカイも飛び起きるでしょうけど」
「スカイ? スカイって?」
「あぁ、言ってませんでしたか? 今から会いに行くボクの友だちの名前ですよ。スカイっていうんです」
「スカイさん……」
スカイ……空?
どんな漢字?
ひょっとして……外国の人?
でも、まぁ、ロボくんのことだ。
日本のこんな田舎の山に住んでる、ちょっと変わった外国人の友だちがいたとしてもぜんぜん不思議じゃない。
「あそこです。あそこがスカイの家です」
ロボくんが指差した方向を見ると、一軒の山小屋のような物があった。
あれが……ロボくんの友だち……スカイさんの家……。
「そのスカイっていう人は……どんな人なの?」
「スカイは、まぁ、そうですね……この山の守り神みたいなものでしょうか?」
「ま、まも、守り神?」
ロボくん、またしても、すごくフツーのことのように、サラッと言った……。
この山の守り神……。
それって、その……一体、どんな人なんでしょうか……。
「スカイは、ちょっと恥ずかしがり屋なところがあるんですよ。だからボクが連れてくるまで、鈴木春世さんは外で待っていていただけますか?」
「それはべつにかまわないけど……でも、やっぱりいいのかな? 私なんかが、いきなり初対面の人の家に来ちゃったりして」
「大丈夫です。彼はそういうの、まったく気にしないタイプですから」
「そ、そうなの?」
「はい。スカイはきっと、目が覚めたら『何か食べる物を作ってくれ』って言うと思うんです。だからそれを、鈴木春世さんにも食べていただきたくて」
「う、うん……まぁ、いただきます。いただきますけど……」
そんな話をしながら、私たちはようやく、そのスカイって人の家の前に到着する。
それはフツーの、本当に山小屋みたいな建物だった。
オシャレ感がまったくなくて、農業用の大きなメカとか入れとくような感じ?
こんなところに、人が住んでるんだ……。
まぁ、なんとか住めそうではあるけれど……。
買い物とか、一体どうしてるのかな?
やっぱり下まで歩いていくんだろうか?
でもそれって、なんだかめちゃくちゃ大変そう……。
「では、行ってきます」
私がそんなことを考えていると、ロボくんがインターフォンも押さずに木のドアを開け、スタスタと中に入っていった。
ロ、ロボくん?
いくら友だちだからって、それは失礼じゃない?
私は一瞬、そう思った。
だけどよく見てみれば、スカイさんの山小屋には、インターフォンどころか、呼び鈴さえついていない。
山小屋の外に立ったまま、私は山のてっぺんの風に吹かれた。
なんか、めちゃくちゃ緊張してくる……。
こう見えて、私も意外と人見知り。
初めて会う人と、うまく話せないタイプ。
ど、どうしよう……。
でもスカイさんは、ロボくんの友だち……ちゃんとしなきゃだ……。
うー、めっちゃ緊張する……。
その時――。
「見ねぇ顔だな、お前? 一体何しに来た、このドブス」
「いやぁーーーーーーーっ!」
いきなり真後ろからそう言われたので、私は超ビックリした。
なんとなく危険を感じる声だったので、振り返りながら、持っていたビニール袋を思いっきり振り回す。
ズッシリと重いきのこの袋が顔面に直撃し、その人がドサリとその場に倒れ込んだ。
え……。
わ、私、もしかして……。
だ、誰かは、わからないけど……い、生きてる?
い、いや……し、死んでない……死んでない……よね?
「何ですか、スカイ? 起きてたんですか? そんなところで二度寝してると、風邪をひきますよ」
山小屋から出てきたロボくんが、私の足元に転がった人に言った。
その人は、きのこのビニール袋の直撃を受け、その場でピクピクと小刻みに震えている。
こ、この人が……スカイ……。
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