4 謎草

「あぁ、佐藤さん。こんにちは。お久しぶりです」


 その時、ようやくロボくんが森の奥から姿を現した。

 彼の顔を見ると、お婆さんがあっという間にニコニコになる。


「あら、ロボくんじゃないの。久しぶり。元気にしてた?」


「はい。元気でしたよ。佐藤さんも、相変わらずお元気そうで」


「じゃあ、この女の子は――ロボくんのお友だち?」


「はい。同じクラスの鈴木春世さんです」


 ロボくんに紹介され、私はお婆さんに「ど、ども……」とお辞儀をする。

 お婆さんはさっきとは打って変わって、「そうかい。ロボくんのお友だちかい」と丁寧なお辞儀を返してくれた。

 ニコニコとしたまま、お婆さんが続ける。

 

「じゃあ、アレかい? ロボくんがここに来てるってことは……もしかしたら、そろそろあの子が目を覚ますのかい?」


「はい。さっき気配を感じました。これから起こしに行くところです」


「そうかい、そうかい。そりゃあ、嬉しいねぇ。じゃあ、あの子に会ったら、よろしく言っといておくれ」


「わかりました。伝えておきます」


 ロボくんがたくさんのきのこを持っていても、お婆さんは何も言わなかった。

 私が持っているビニール袋に、ロボくんが追加のきのこを詰めていく。


「それじゃ、遅くなるといけないので、ボクたちはこれで」


「あぁ、ロボくん。ちょっと待ちなさい」


 ロボくんを呼び止め、お婆さんが持っていた竹かごの中から、なにやら植物の束を取り出す。

 それを私が持っているビニール袋の中に入れた。


「そ、それは……いいんですか、佐藤さん?」


「いいよ、いいよ。三人でいっしょにお食べ。きっと元気が出る」


「ありがとうございます」


「気をつけて行きなさい。ついこの間、大雨が降ったばかりだから、地盤がゆるいところもあるかもしれない」


「わかりました。それでは、また。失礼いたします」


 お婆さんにふたたびお辞儀をして、私たちは歩きはじめる。

 歩きながら、私はロボくんに聞いた。


「あのお婆さん、誰なの? あの人も、ロボくんの知り合い?」


「はい。この山で野菜を育ててるご婦人ですよ。このあたりの畑は、全部彼女のものです」


「あのお婆さん、『ロボくん』って呼んでた……」


「あぁ。まぁ、ボクはどこに行っても、そんなあだ名で呼ばれてますから」


「そうなんだ……」


 私は、ちょっと驚いていた。

 ロボくんって……学校の外でも『ロボくん』なんだ……。


「で、今、貰ったこの植物――って言うか、野菜? これ、何? 何ていう名前? なんだか不思議なルックスだけど」


「あぁ。これはですね、謎草なぞくさといいます」


「謎……草……」


「すごくおいしいんですよ。でも良かったですね、鈴木春世さん。謎草を食べられるなんて、とてもラッキーです」


「そ、そうなんだ……や、やったぁ!」


 ラッキーと言われても、私には謎草の価値がぜんぜんわかんない……。

 でもたぶん、ロボくんがめちゃくちゃうれしそうだから、これはきっとビックリするくらいおいしいのだろう。


 私たちは、さらに山道を登っていく。

 てっぺんまで、あと少しだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る