2 謎グッズ登場

 ある日の朝――。

 学校に着いて、自分の席に座ると、ロボくんが私に話しかけてきた。


「おはようございます。鈴木春世さん」


「あぁ。おはよう、ロボくん」


「今日も良いお天気ですね」


「うん。そうだね」


「あの、よかったらなんですけど……」


 ロボくんが自分のランドセルの中に手を突っ込む。


「こちらをどうぞ」


「え? 何?」


 ロボくんがそこから取り出たのは、ペンと消しゴムだった。

 私は、それをジッと見つめる。


「ペンと……消しゴム……」


「はい。ペンと消しゴムです」


「いや、そうじゃなくて――どうしてこれを、私に?」


「はい。何と言いますか……虫の知らせというものでしょうか」


「虫の、知らせ……」


「えぇ。なんとなくなのですが、今日の鈴木春世さんには、こちらをお渡しした方が良いような気がして」


「は、はぁ……」


「どうぞ。今日の放課後にでもお返しいただければ、それで結構です」


 ロボくんはそれっきり、私から視線を外し、またランドセルの中をゴソゴソと探りはじめる。

 次に彼が取り出したのは、なんだかヘンなおもちゃだった。


 小さくて白いお皿。

 その上に、ピラミッドの骨組みみたいなのがくっついている。


 な、何ですか、それは?

 小型の……パラボラアンテナ?


「よし」


 机の上にそれを置くと、なぜかロボくんは、めちゃくちゃ納得していた。


 ね、ねぇ、ロボくん……。

 あの、それ、何が、「よし」なの?


 それで一体――何をするつもり?

 なんか、その、謎の電波でもキャッチするのかな?


 ロボくんの謎グッズ登場に私がとまどっていると、チャイムが鳴った。

 先生が教室に入ってくる。

 朝の会があっさりと終わり、一時間目の授業がはじまっていく。

 私は急いで、ランドセルから教科書を取り出した。


 その時――私はそれに、ハッと気づく。


 ヤ、ヤバ……私、ペンケースを忘れてる……。

 今朝、あわてて宿題をやったから、テーブルの上に置き忘れてきたんだ……。


 でも……。

 私はチラリと、となりのロボくんを見た。


 ロボくんは、どうして私がペンケースを忘れてきたことを知っていたんだろう?

 虫の知らせ、って、さっき彼は言った。

 でも、それって――何?


 勘?

 そんなことって、ある?


 ロボくんは、いつものようにボーッと、先生の授業を聞いている。

 彼の机の隅っこには、さっきの謎のパラボラアンテナ。


 いっけん「この人、ぜんぜん授業を聞いてないなー」って表情。

 だけどロボくんは、なぜだかものすごく成績が良い。


 一時間目の授業が終わると、私はあんまりよくわからなかったところをロボくんに聞いた。


「ねぇ、ロボくん。ここなんだけど……教えてもらってもいいかな?」


「はい。わかりました。どこですか?」


「うん、あのね、ここ……」


「あぁ。ここですか。ここはですね――」


 無表情のまま、ロボくんは丁寧に教えてくれる。

 ぶっちゃけ、ものすごくわかりやすい。

 ひょっとしたら、先生より教え方がうまいんじゃないかと思う。


「なるほど! なんか、すっごくよくわかったよ! ありがとう、ロボくん!」


「いえいえ。他にもわからないところがあったら、遠慮なくいつでも聞いてください。鈴木春世さん」


 そんな感じで、ロボくんはいつも親切だ。

 まぁ、ロボくんが親切なのは、私にだけじゃないけどね……。


 ロボくんは頭が良くて、誰にでもやさしい。

 でも女子にとって、彼の魅力はそれだけじゃない。


 ロボくんは――じつは、めちゃくちゃイケメンだ。

 アイドルでも不思議じゃないくらいの顔とスタイル。


 ロボくんは、ウチのクラス、ううん、他のクラスもふくめて、たくさんのファンを持っている。

 つまり、ものすごいモテ男。


 だけど、ヘン。

 ものすごく、ヘン。


 でも私は、そんなロボくんのことが、最近すごく気になっている。

 すごくすっごく、気になっている。


 ミステリアスなロボくん。

 ねぇ、一体あなたは……どんな人なの?


 彼の謎すぎるパラボラアンテナは、結局その日の放課後まで、ずっとそこで何かを受信していた。

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