7 きのこパスタ
「ねぇ、ロボくん。となりで見てていい?」
スカイの家の台所。
料理をしたことがない私は、ロボくんのとなりに立った。
「いいですけど、なんだか少し恥ずかしいですね」
「私、自分でお料理したことがないんだ。だから見て、勉強したい」
「わかりました」
大きな鍋を棚から取り出し、ロボくんがまず水を入れる。
続いて、その中にパラパラとお塩を入れた。
「どうして塩を入れるの?」
「パスタにうっすらと塩味をつけます。こうすることで、ソースとの一体感が出るんですよ」
「そうなんだ」
その鍋を火にかける。
次にロボくんは、さっき山で採ってきたきのこをまな板の上に置いた。
「きのこは『
ロボくんが、スッと包丁を下ろす。
きのこの下の部分は、わりと簡単に切れた。
「次は謎草です。これは本当においしい野菜なんですよ。4センチから5センチの幅で切りましょう」
「うわー、楽しみすぎるよ、謎草……」
謎草は、何だかあまり見たことのない緑色の野菜だった。
すっごくヘンなカタチ。
クネクネしてて、なんとなく宇宙植物って感じ。
でも包丁で簡単に切れる。
謎草を切り終えると、さっきの鍋のお湯がちょうどグツグツと沸きはじめた。
「あとは、ベーコンです。これは、ちゃっちゃと素早く切りますね」
そう言った次の瞬間、ロボくんはすでにベーコンを切り終えていた。
なんか……カッコイイ……ロボくん……。
プロみたい……。
沸いたお湯の中に、ロボくんがパスタの束を入れる。
パスタが、お湯の中でユラユラと踊りはじめた。
「あとはパスタを、袋に表示されている時間通りに茹でてください。まぁ、硬さは好みですので、短めでも結構です」
「うん」
「それでは、次にパスタソースを作りましょう」
コンビニで買ってきた調味料を並べ、ロボくんが次々に別のお皿に入れていく。
配分が、とっても複雑。
メモが無いと覚えられない。
すべてを入れ終わると、ロボくんが私の前にそのお皿を差し出した。
美しいソースが、お皿の中で揺れている。
「どうぞ。匂いを嗅いでみてください」
お皿に鼻を近づけ、私はパスタソースの匂いを嗅いでみた。
「……ねぇ、これ、すごくない? なんだかお店のパスタみたいな匂い……」
「ありがとうございます。でも鈴木春世さん、今日のパスタは、たぶんお店のパスタよりおいしいですよ。なにしろ謎草が入ってますからね」
「謎草への期待が、チョーふくらんでます……」
「それでは、ここからは素早くいきましょう。見ててください」
そこからのロボくんは、めちゃくちゃプロっぽい手つきだった。
フライパンをあたため、その上にバターを落とす。
まず、ベーコンを炒めた。
カリカリに焼けたベーコンの匂いが、スカイの山小屋の中に漂っていく。
続いて、きのこ。
これにもしっかり火を通す。
次にロボくんはパスタの鍋を火から下ろし、ザルを使って麺の水気を切った。
チャッチャッチャッという小気味の良い音が、台所中に響きわたる。
ザルの中の麺を、さっきのきのことベーコンのフライパンに投入したあと、ロボくんはフライパンをクルックルッと回転させる。
すべての具材をフライパンの中で混ぜているのだ。
ヤ、ヤバ……。
やっぱロボくん、めちゃくちゃカッコイイ……。
イケメンで料理が上手いとか……なんか、もぉ、すごくない?
フライパンですべてを炒めると、ロボくんは次にさっき作ったパスタソースを流し入れた。
素早く、具材と麺をからめる。
最後に――謎草。
謎草を入れると、ありえないくらい不思議な匂いが、私の鼻先をくすぐっていく。
な、何?
謎草って、何なの?
すごく……食欲をそそられる……良い匂い!
「完成です」
ロボくんがフライパンを持ち上げ、となりに並べたドンブリの中に、パスタを盛りつけていった。
パスタでドンブリってちょっとヘンな感じがするけど、どうやらスカイの山小屋にはドンブリしかないみたい。
あっという間に、三人分のきのこパスタが完成した。
「それじゃあ、鈴木春世さん。これ、スカイの分です。持っていってあげてください」
「わかった」
スカイが座る囲炉裏まで、私はドンブリを持っていく。
彼は、めちゃくちゃゴキゲンだ。
待ちきれないように、ニヤニヤと両手を
「来た、来た、来た、来たぁ! これだよ、これ! ロボ、お前毎日ここに、これを作りに来てくれ!」
「毎日は無理ですよ。さぁ、とりあえず、いただきましょう!」
「いただきます!」
三人が合唱し、それぞれのドンブリを持った。
手の中にあるパスタを、私はジッと見つめる。
すごく……おいしそう……。
食器はドンブリだけど、中身のパスタは、本当にお店みたい……。
いや、でもこの匂い、やっぱりちょっと変わってる?
謎草の、匂い……。
私は箸を取り、ロボくんが作ってくれたパスタをひと口食べてみる。
そして――言葉を失った。
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