第4話 初PvP
「へっへっへ。有り金と鉱石を全て置いていきな。そうすりゃあ、痛い眼には会わねえぜ」
この『ネオン・パラダイム』の世界ではプレイヤー同士の戦闘は推奨されている節がある。
プレイヤーがプレイヤーを殺す分には、何の罪に咎められることもない(個人的な恨みを買う可能性はあるが)。
しかしこのチュートリアルエリアでは、プレイヤー同士は不思議なチカラ——世界観的には先導神の加護によって——攻撃が効かないようになっているのだ。
つまり相手は、そんなことも知らないのに悪党ロールプレイに勤しむバカか、もしくはそれを乗り越える手段を持っているか。
そして現状チュートリアルエリアの戦闘領域にいるような、俺たちがつけるジョブはさほどバリエーションが無いので、おのずとその手段はパラダイムに絞られる。
「どんな【パラダイム】を持っているんだ?」
「教えてやるぜ、コイツだよ!」
現れたのはピンク色のスライムだった。
それだけなら色違い程度の印象しか感じないが、ただデカい。
五メートルはありそうだ。
成るほど【自律型】のパラダイムか。
「お前みたいな物理偏重プレイヤー相手じゃ、この物理無効を持ったスライムは倒せねえぜ! そして弱点である俺自身にはプレイヤー保護で攻撃が通らねぇ! はははは! このチュートリアルエリア限定の無敵拘束コンボだ! 行け、スラ吉! とっつかまえろ!」
覆いかぶさるように俺の体を包み込むスラ吉とやら。
体が粘液に包み込まれる。
「はははは! 感謝するんだな! オープンワールドの方だったら、お前は全身を溶かされていたぜ!」
(これで食べれるな)
窒息の苦しみを無視して相手を吸い込んでいく。
味は相変わらず酸っぱい。酸っぱいのは苦手だ。体にいいから結構お酢は飲むことが多いのだが、毎回顔をしわくちゃにしながら飲み干している。
そうしてしばらくすると。
『スキル『物理無効:使用不可』を獲得しました』
残念。使えないようだ。
それじゃあ抜け出すか。
本当だったら、このまま窒息の苦しみを与えて、素材や金銭を落とす『
(『魔力放出:炎』)
MPを消費して炎を発生させるこのスキルは威力は大したことはない。
だが立派な炎だ。それを弱点とするモンスターにはよく効く。
そしてもう一つ。
彼自身も言っていたことだが、プレイヤー保護は文字通りプレイヤーだけを保護してくれる。
つまり【パラダイム】の産物であるこのスライムには、効果が及ばないのだ。
だからこそ、物理無効のスライムを物理偏重——に見えた——俺にぶつけるといった使い方しかできないのだろう。
「ぎゃああああ! 俺のスラ吉がぁぁぁ!!」
はははは、よく燃える。
物理無効な分、属性耐性は低いのだろうか?
「さて。随分な仕打ちをしてくれたな?」
「ひ、ひぃ! 勘弁してくれ~~!!」
そのままダッシュで逃げていった。
まあ別に追うことはないだろう。ああいう迷惑プレイヤーは、プレイヤー間の治安維持を名目とした最大級のギルド『保安機構』に通報すれば、見つけ次第狩ってくれる。
チュートリアルエリアは彼らの治外法権のようだが、オープンワールドの方に出ればそれも限りではない。
むしろ初心者を狩っているということで、結構厳しめの攻撃をされるだろう。
「はあ、本当はPvPしてみたかったんだけどな」
不完全燃焼だ。
さっさと戻るとしよう。
□
「できるぞ、そのぴーぶいぴーって奴」
「本当ですか!?」
「おう。要はプレイヤー同士で戦うって奴だろう? それならうってつけのモンスターがこのエリアにいるぞ」
「それは知らなかった……」
このチュートリアルエリアのこと全てについてwikiで調べたのではない。
特にボスモンスターに関しては出会った時の楽しみということで、最後まで見ないようにしていたのだ。
「なるほど。そのモンスターとはどうやって戦えるんですか?」
「どうも何も、スライムの沼地のボスがそいつだ。次の街に向かおうって連中は否が応でも、そいつと戦おうってことになるさ」
「人になれるスライムですか」
「そのとおり!」
成るほど。面白れぇスキルが手に入りそうだぜ。
「おっとようやくできたみたいだな。こいつが青色鉱石をコーティングした、『青鉄の四肢鎧』だ」
「おぉ、凄いですね」
「魔力耐性と物理耐性が向上している。ついでにSTRに補正もつくようになったぞ。ま、色々と向上させている分一つ一つの効果は薄いけどな。それでもこのチュートリアルエリアだったら十分、最後まで通用する性能だぞ」
成るほど。確かに着け心地もステータスの向上具合もかなりのものだ。
俺のレベルとお財布事情で購入できる最高クラスの代物ではないだろうか。
「ありがとうございます」
「良いってことよ。俺たちグラン商会をオープンワールドの方でもよろしくな!」
「はい」
そう言って一礼をして店を後にする。
「さてさて、今日は
何せこのゲームをやっている時点で寝ているようなものらしいからな。
ソレに両親も俺の趣味に関してはだいぶ寛容で、徹夜ぐらいでは四の五の言わない。
無論、学業や体調に支障をきたすようであればストップがかかるが、そのぐらいは弁えている。
そして今日は春休みの一日目。
課題も何も存在していない。予定もないので遊びたい放題だ。
「まさにゲームのためにあるような時間……」
ゲームは人生で数えるほどしかやったことがないが、そのどれもが熱中できるものだった。
だからこそ、第二の道としてゲームの世界で頂点を獲ることを選んだといえる。
さて、それでは続けるとしようか。
目標は今日中に、スライムの沼地の突破だ。
□
「色々とスキルが獲得できたな」
各属性耐性と魔力放出、毒・眠り・麻痺・酸の状態異常の耐性と、それらを及ぼす毒液の放出(使用不可)。容積増加(使用不可)、合体(使用不可)あとはMPを消費しての再生。
このエリアで獲得できるスキルは大体獲得できただろうか。
「残るモンスターは……、うん?」
俺の周囲を数体の狼が取り囲んでいた。
「このエリアに狼なんて出るのか? まあいいや。ちゃっちゃと倒すとしよう」
そう拳を構えた途端の事だった。
茂みから何十体の狼たちが飛び出したのは。
「何だ!?」
それが俺にとっていかほどの脅威であるか、俺はまだ知る由もなかった。
——――
あらすじとタグを追加するのを忘れていました。申し訳ありません。
それでもポイントを入れ、ハートを押し、閲覧してくれた方に心よりお礼を申し上げます。
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