第2話 初戦闘
草原を歩くことしばし。
俺の目の前に一体のスライムが現れた。
『スライム LV1』
うん。初心者向けだ。
まだこの広大なチュートリアルエリアの更に最初の街にすら到着していないのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
「さて、この世界でどのぐらい戦えるか。試してみるか」
俺は拳を構える。
『格闘家』のジョブを持っているがゆえに、基本的に殴る蹴るが俺の武器となるのだ。
現実では格闘技をいくつか習っていた。
今でも体格が遥かに勝る大人相手でも、問題なく戦える。
「ぴぎゃー!」
スライムが飛びかかってきた。
俺の胴体目掛けて飛んできたソレを半身になって躱し、すれ違いざまに手刀を叩き込む。
『格闘家』のパッシブスキルである『四肢硬化』の影響で、スライムはぶっ飛ばされて地面に叩きつけられる。
「お、ダメージは、三割五分ぐらいか」
三発当てれば倒せる寸法だ。
しかしお次はクリティカルを狙ってみよう。
wikiで調べたのだが、スライムにはコアがある。青い粘液の中で浮かんでいるゴルフボールサイズの水晶玉だ。それにダメージを加えると、クリティカル扱いになるらしい。
「なら『アレ』をやってみるか」
俺は性懲りもなく飛び掛かってきたスライム相手に、戦技『貫手』を放った。
貫通効果のあるこの技は、SPを消費して放たれ、自分の攻撃力の半分以下の防御力の装甲・外皮を貫き、内臓にダメージを与え、高確率でクリティカルを叩きだす技なのだ。
人間に使い、心臓などに当たると、そのまま一撃で死に至らしめることもできるらしい。無論相応のレベルと攻撃力は必要だが。
そしてどうやらソレはスライムの急所たるコアにも適用されるようだ。
「ピギャー!?」
スライムの粘液が蒸発していく。
俺の手のひらの残されたのは、割れた水晶玉だった。
初期スキルの一つである『簡易鑑定』を使ってみよう。
■
『割れたコア』
急所攻撃を喰らって、破損したコア。割れていなければ、錬金術師に高値で売れる。
当然、割れているので価値はない。
■
「知ってたけども」
スライムへの急所攻撃はあまり推奨されないことは知っていた。
それでもこうしたのは、ある検証をするためだ。
俺はそのまま割れた水晶玉を口の中に放り込む。
咀嚼はしない。そのまま嚥下したソレは腹の底で熱に変わる。
非常に酸っぱかった。
そして炭酸のようにシュワシュワしていた。
そして俺の体に何かが駆け巡る感触があって——。
『レベルが上がりました。1→2』
レベルが上がった。
そして。
『スキルを獲得しました。『物理耐性』』
スキルを獲得できた。
見てみよう。
■
『物理耐性』
物理攻撃を5%カットする。
■
「うん。パラダイムは正常に働いているな」
ソレを確認してから俺は更に二体のスライムを狩った。
一体はコアを狙わずにHPを削り切り、もう一体はそのまま踊り食いした。
「スキルはこれか」
■
『突進』
助走をつけて体当たりする。AGIに応じて威力に補正。
■
他にもスライムを何体か狩って分かったことがあった。
まず一つ目。一度に獲得できるスキルは一つまでであること。
二つ目。獲得できるスキルは、相手の所持スキルからランダムであること。
三つ目。食べる量が多ければ獲得経験値も増えること。
四つ目。スライムを生で食べると、土とお酢の味がすること。
五つ目。スライムは酸性を帯びており、生で食べるとダメージを負うこと。
「こんなもんか」
恐らくこの初期も初期のエリアのスライムは、突進と物理耐性しか持っていないのだろう。おかげでスキルは突進と物理耐性のみを獲得でき、レベルだけが5に上がった。
「そろそろ街に到着か」
スライムを踊り食いした際に、少々ダメージを喰らってしまった。
初期の所持品には回復薬はなく、俺に自力での回復手段はないため、街まで戻らなければ、回復はできない。
なので急いで街に向かおう、としたところで。
緑色の光が飛んできた。
「辻ヒール!」
その掛け声が無ければ、即座に避けて反撃していただろう。
声の出所を見ると、そこにはあからさまに神官職です、という格好をした少女がいた。
「大丈夫ですか? さっきスライムに窒息死させられそうになっていましたけど」
「大丈夫です。ヒールありがとうございます。お礼にこれを」
壊れていないスライムのコアをいくつか差し出す。
「いえいえ、単なる辻ヒールですからお礼はいりませんよ」
「でもこのスライムのコア、MP回復薬の材料になるみたいですよ」
「え」
「今後も辻ヒールをするなら、何かと入用じゃないですか?」
「ぐぬぬぬ、確かに」
「もらってください。俺には使い道もないものですし、かなりだぶついていますし」
「それじゃあ、ありがたくいただきます」
思わぬお礼にきまり悪そうにしている少女。いい子なのだろう。
「お返しとは言ってはアレですけど、フレンド登録しませんか? せっかく同じタイミングで始めたんですし」
「良いですね。それじゃあまず自己紹介を。俺の名前はオーマです」
「私はアカリです。えーと、フレンド登録は……」
二人してステータスウィンドウと格闘して、ようやくフレンド登録画面を呼び出す。
「オーマさんですね。あの、敬語はいらないですよ?」
「そう? それじゃあそっちも敬語は使わなくていいよ。よろしくな」
「うん。これからもよろしくね。そうだ! ちょうど前衛が欲しいな、って思ってたんだ。最初の街まで一緒に行かない?」
「オッケー。サポートは頼んだぜ」
「まっかせなさーい!」
初対面のプレイヤーに背中を預けるのは少々不安だが、彼女と俺のレベル差ならば楽に対応できるだろう。
その上このチュートリアルエリアではPKはシステム上できないようになっているみたいだし。
そうして二人で歩いて、戦闘をこなしていたのだが……。
「ぜんっぜん、サポート要らないじゃん!」
「ははは。まあ、このぐらいのモンスターならね」
そう。前衛である俺が、ノーダメージで敵を撃破していくせいで、アカリの立つ瀬がないのだ。ついでに仕事もない。
彼女の賞賛? に俺の心は心地よくくすぐられる。
「いや、頼もしいことこの上ないし、ありがたいんだけどね」
「わざと攻撃を喰らおうか?」
「それはナシで。だって地味に痛覚働いているでしょ? 『ネオパラ』の世界って」
この世界における痛覚は、ある程度制限されている。
しかし完全に皆無ではない。
ダメージにもよるが、軽い痺れ程度なら感じるようになっている。
「確かに。それじゃあエンチャントとかはないのか?」
「ぐぬぬぬ、まだ習得していないのです……」
「そっか。じゃあ【パラダイム】は?」
「私の【パラダイム】、治癒魔術を強化する奴なんだよね。それも人を癒した分だけ。だから現時点だとあんまり役に立たないんだ」
「なるほど」
だから辻ヒールをしていたのか。
しかしプレイスタイルだけじゃなくて、当人のメンタリティを表す【パラダイム】まで治癒系とは、とことん人を治すことに特化したビルドだな。
いい人なんだろうなぁ。
「そう言えば、オーマ君のパラダイムって何なの?」
ざっと彼女に俺のパラダイムを説明する。
「へえ。結構強そうだね」
「まあね。いちいち素材を食べないといけないのは、ディスアドだけど、俺は特に生産職とか興味ないしね」
戦闘スタイルも徒手空拳だし、装備が入用になることもないだろう。
いや、籠手とか具足とかは必要になることがあるか。
「それにしても戦うの上手いよね。元々他のゲームをやってたの?」
「それに関してはリアルでスポーツに打ち込んでいた、とだけ言わせてもらうよ」
格闘技は色々習っている。
動きが常識的な範疇であるここいらのモンスター相手ならば、十分通用するだろう。
……高レベルとなると、戦闘速度が音速を突破するらしいので、そのころにはあんまり意味はなくなっているだろうけれども。
そんな会話をしている内に、俺たちは街へとついた。
「ここが」
「始まりの街」
「「ファーストか~」」
まんまな名前だな、と二人して思った。
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