【四章投稿開始】ワールド・プレデター ~食えば食うほど強くなる異能で、VRMMO世界最強を目指します~

ポテッ党

第一章 ゲームの始まり

第1話 【暴威暴食は同源】

 大地が漆黒に染まっていた。

 それら全てが生物だった。

 それら全てが軍勢だった。

 たった一個の意思によって完璧に統率される、完全なる軍勢。


「に、逃げろぉぉぉぉおおお!!」


 異形、異常、異様、そんな言葉たちしか当てはまらない、恐るべき軍勢だった。

 虫めいた細く尖った足に、頭部を埋め尽くす巨大な目を備えたモノ。

 足だけが異様に肥大化し、何かを踏みつぶすことに特化しているとも思わしきモノ。

 虫めいた透明な翅を六対も広げているモノ。

 手足が触手の束で構成されているモノ。


 そしてそれら全てが漆黒で、ひどく巨大だった。

 小さいものでも十数メトル、大きいものは数百メトルあった。それどころか地平線を凹凸さえさせている個体もいることから、もっと巨大な個体をも存在しているのだろう。

 

 そしてそれら全てが、踏み出す脚を揃え、大きさごとに配置を決められ、統率された行進を行っている。

 こんな化け物共が、一体どんな力によって。

 

「こんなの、勝てるわけねぇだろ……」

「あ”あ”あ”あ”あ”!! 俺たちが積み上げてきた物がぁ!!」


 兵士たちが、口々に喚く。

 統一された装備を身に付けた彼らは、軽く十万はいた。

 しかしたかだか十万で、あんなでたらめな軍勢を止められるわけがない。


「まだだ! まだ終わっちゃいない! 俺たちにはあの方がいる!!」

「そ、そうだ! あの方なら、あの方ならこの軍勢だって何とかしてくれるはずだ!」


『その通りだ』


 空気を震わせる、声があった。

 何らかの『パラダイム』によって決して大きくない声が、彼らの耳に滑り込んでくる。


『ようやく作り上げた俺たちの国は、けっしてあんな色なしの軍勢如きに滅ぼさせはしない! あれら全て! この俺が、號級能力者エクシーズ・ナンバーが灰すら遺さず消し飛ばしてやる!!』


 號級能力者。それはこの世界において、最強の一角の代名詞。時代の寵児、あるいは理外の超越者たち。

 

 その一人『極光極夜モノクローム』の異名を持つ男は能力を発動した。



 瞬間世界は夜になる。


 

 否。光が収束しているのだ。青空を作り出していた光が、たった一点、第二の太陽かのごとく光り輝く超巨大な光球に。

 

『消し飛べ!!!!』


 その光は解き放たれ――。

 閃光と衝撃。

 光は視界を埋め尽くし、衝撃は鼓膜を打ち破った。

 兵士の過半が気を失い、残りは言葉を失った。


 巨大なキノコ雲があった。

 見上げるほど高い、巨大な雲が。

 そして大地は赤く熔解していた。赤い海を形成していた。


『はははははははははは!!! この俺に敵う者などいはしまい! ははははははは、はぁ?』


 キノコ雲が吹き散らされる。

 灼熱の海から漆黒たちが次々に浮かび上がり、そして。

 再び大地は漆黒に染まった。

 所々焦げている個体はいる。しかしそれらもすぐに漆黒へと置き換わっていく。


 

 彼らは、不死身だったのだ。

 


 数百万に達するであろう軍勢、全てが。


『あ、あり得ない……』


 最大火力だった。

 この一撃で国を滅ぼしたこともあった。

 しかしそれらはすべて無意味だった。

 灰色の軍勢の前では。

 史上最凶の異能力者が、一から作り上げた軍勢の前では。

 『オーマ』という男の『パラダイム』の前では。

 そのオーマが告げる。


「踏みつぶせ」


 事実その通りになった。

 何か特別な攻撃はなかった。

 その巨体と強靭さと、そして不死性の前で立ちふさがった者は残らず踏みつぶされていった。

 あるいはその個体を損傷させられる者も、踏みつぶされても耐えた者も、空を飛び、軍勢の指揮官を狙おうとした者も。

 全ては同様の結末を辿った。

 死という結末を。


 この日、一つの国が滅んだ。



















 時を遡ろう。

 彼がゲームを始めた、その時にまで。



 □




 何でも一番になりたかった。それが俺こと『逢坂ユーマ』の夢。

 最初は幼稚園でのかけっこだった。それで一番になった時、色々な人が褒めてくれた。同じ子供たちから羨望の眼差しで見られた。

 思えばあの時か、俺が頂点に立つことに憑りつかれたのは。

 それ以来俺は人と競うモノがある限り一番を取り続けた。


 その欲求は肥大化の一途をたどり、俺にある夢を抱かせた。

 世界で一番になりたい。

 そんな子供じみた夢だ。実際子供の頃——今も中学を卒業したばかりと子供と言えば子供だが——に抱いた夢だが、その思いは日増しに強くなっていく。


 だから俺は最初にスポーツに打ち込んだ。

 テニス、野球、バスケ、サッカー、大概のスポーツで好成績を収めた。自分より一回り大きな相手に勝ったことだってある。

 格闘技でもそうだった。

 ジャンルは限定しなかった。

 

 でも足りなかった。

 俺は世界で一番になりたいのだ。

 だから誰よりも真剣に練習に打ち込んだし、誰よりも熱心にコンディションを整えた。

 そうして戦っていくうちに、俺は小学校低学年の状態で、同学年ならば負けなしと言えるほどの強さを手に入れていた。

 

 このまま俺は、世界最高のプレイヤーになれると思っていた。

 その事を信じて疑わなかった。

 けれど、その夢は裏切られる。


 食べても太らない体質、と聞くと多くの人間がうらやむだろう。

 しかしトップアスリートを目指す者にとって、それは致命的だ。

 いくら食べても筋肉にならないのだから、どうしようもない。

 俺は、かつてトップアスリートを目指していた。それもただのトップアスリートではない。

 世界最高のアスリートだ。

 しかし、俺のスポーツマンとして致命的な体質が分かってから、俺はその夢を諦めた。

 

 諦めざるを得なかったのだ。

 身長149センチ。それが十五歳の俺の身長。同年齢の平均身長が、170センチ近くと考えれば、いかに低いか分かるだろう。

 自分よりも数段技術に劣る相手に負けることも珍しくなくなった。

 それでも俺の頂点への渇望は増すばかりだ。

 

 だから別の道を歩み始めた。

 ソレは——。


「すげえ……、これが『ネオン・パラダイム』の世界か……!」


 俺の目の前には青い空と、草原が広がっている。遠くには城壁に囲まれた街並みと、山々が見てとれる。

 風景だけではない。

 肌を撫でる風が、鼻腔を通って灰を満たす空気が、足元から伝わってくる草むらの感覚が。

 全てがこの世界を現実たらしめている。


「仮想現実とは思えないな」


 実際『ネオン・パラダイム』の世界に投入されている技術は、かなりオーバーテクノロジーらしい。

 一説では、世界規模の仮想世界移行実験のテスト用に作り上げられた世界という説もあるぐらいだ。

 他にも本当に異世界であるとか、宇宙人が作った侵略用プログラムだとか。

 都市伝説レベルの話ではあるが。


「まあ、尋常ならざる世界ってことは間違いないだろうな」


 そう。ここは異国ではない。まして異世界でもない。ゲームの中。

 『完全没入型仮想大規模オンラインRPG』。そのジャンルの中でも世界最高と名高い『ネオン・パラダイム』の中だ。


 そう。俺が選んだ道は、プロゲーマーとしての道だった。

 俺はやるからには頂点を極めたい。中途半端は嫌だ。だから、アスリートの夢は諦めた。大きくならない体では、頂点に立つことなどできないから。

 けれどこの世界でなら違う。

 この世界でなら肉体に縛られない。

 ステータスはどこまでも上げられて——このゲームにはレベル上限が無いらしい——工夫次第では、世界最強を名乗ることができる。


 そしてこのゲームは現実の貨幣と換金も可能で、ゲームでありながらこの世界で生計を立てている人間もいるほどだ。

 つまりプロという分野がある。

 社会的にも認められており、このゲームのトッププレイヤーは、世界的な大富豪になっていたり、有名人になっていたりする。


 ソレほど広範に世界に認められたゲームならば、俺の飢えも満たすことができるかもしれない。

 最強への飢え憧れも。


「それで、どんなパラダイムになったかな?」


 このゲームの特徴に、【パラダイム】というユニークスキルがある。何でも設定的には、世界間の壁を乗り越えたことによって膨大な魔力に充てられた魂が、うんぬんかんぬんといったそうだが、要はプレイスタイルが画一化しないためのランダム要素だろう。


 そしてこの【パラダイム】、当人の願望や理想、あるいはメンタリティやパーソナルが反映されるらしいのだが……。



 ■


暴威暴食は同源エイペックス・プレデター


捕食した対象のスキルを獲得できる。また捕食時に経験値を獲得する。


 ■


「要するに食えば食うほど強くなるスキルってわけか」


 成るほど。

 俺の叶わなかった理想をそのまま反映してくれたってわけだ。

 

「それじゃあ、始めるとするかね」


 そうして、俺、逢坂ユウマ、改め、プレイヤーネーム『オーマ』の頂点への道が始まったのであった。

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