第3話 始まりの街 ファースト
街並みは石造りのヨーロッパ風だった。
そこには多くの人々が行きかっており、屋台や露店などが開かれている。
「凄い活気だね!」
「そうだな。何でもチュートリアルエリアだとしても、街の中だったら高レベルプレイヤーも入れるみたいだしな」
そのため、この街ではチュートリアルエリアの先のオープンワールドエリアからのプレイヤーがギルドへの勧誘を行っていたりするのだ。
「はーい私たちは、『国境なき治癒術師団』でーす。新規加入希望の方は、こちらへー」
「あっ、入りたかったギルドだ!」
「それじゃあここで解散だな。確かあのギルド、治癒術師限定だろ?」
「はい……。あの、また一緒に遊ぼうね! オーマ君!」
「ああ。またな」
そう言って彼女はとてとてと去っていくのであった。
根っからの治癒術師だなぁ。
「さーてと。俺も行くか」
と言ってもどこかのギルドに所属するつもりはない。俺は団体行動に向いていないのだ。
幼少期からマルチに才能を発揮していたせいで、割と孤立気味だった。
嫌がらせを受けたことも数えきれないほどある。
そのせいか本能的に集団行動が苦手になってしまったのだ。
友達も少ない、というかいない。
……いや、ちゃんと学校に出席はしているぞ。
テストの点数はいつも百点だし、成績は学年トップだ。中学の三年間は常に。
けどソレも友達がいないことに拍車をかけているんだろうなぁ。
それはさておき。
スライムのコアを売り払って、初期の所持金に上乗せしつつ、回復薬を購入。
余ったカネで、新しい防具でも買おうと、武器屋を覗いてみると……。
「お、何だ。ニュービーか?」
そこにはスキンヘッドのいかついおっちゃんがいた。
「あの、籠手って売ってないですかね?」
「籠手か。ニュービー用のならそこの棚にあるぞ」
そう言って指示した先には、いくつもの籠手が無造作に置かれていた。
ソレに簡易鑑定を使用しつつ、吟味していく。
「だがお前さんには籠手じゃなくて、
「はい」
「それならこの『軽鉄の四肢鎧』だ。見たところ、お前さん結構な使い手だろう? 客人の草原からやってきたっていうのに、服に汚れがねえ。スライム相手なら一撃ももらわなかった証拠だ」
「おお、そんなことも一目見ただけで分かるんですね」
凄い目利きだ。
職人さんっていう奴かな?
「あたぼうよ! こちとら三十年鍛冶屋やってっからな! それでこの『軽鉄の四肢鎧』なんだが、まず何と言っても軽い! ミスリル並みの軽さだ。動きも阻害しねぇし、AGIにも補正がつく。そしてさらに丈夫! 軽いといえど鋼鉄だからな。生半可な攻撃じゃ貫かれねえ。そして最後に腐食をしねえんだ」
「腐食?」
「そうさ。次のエリアにどんなモンスターが出るか知っているか?」
「スライムですよね。色々な種類の」
「そうさ! そんな奴らの最も恐ろしいのは何だと思う?」
「ああ、そうか。それで腐食耐性なんですね」
「そのとおり! 奴らの酸攻撃は、武器の耐久値を大いに削りまくる! 下手な使い方をすれば、あっという間にダメになっちまう! しかしお前さんの技量と、この『軽鉄の四肢鎧』ならば、スライム共にも難なく勝てるはずだ!」
「おお……」
怒涛のセールストークだ。
これがNPCだというのだから、恐れ入る。
これは今後NPCと接するときは、人間と思って扱った方がいいな。
このイベントは初期エリアのスライム相手に無傷だと発生するイベントだろうか?
「でもそんな、いい商品お高いんでしょう?」
「何とビックリ、今ならタダだ!」
「え」
「ある依頼をこなしてくれたらな!」
成るほど、そう来たか。
俺の目の前にクエストウィンドウが表示される。
■
『武器職人バルザックの依頼』
武器職人バルザックに、スライムの沼地の青色鉱石を届けよう。
報酬:『軽鉄の四肢鎧』(前払い)+?
■
「どうだい、受ける気になったかい?」
「謹んでお受けさせていただきます」
「礼儀のいいあんちゃんだ! 期待してるぜ!」
ぐっとサムズアップしながら俺に『軽鉄の四肢鎧』を渡してくるバルザックさんに一礼をしてモノを受け取る。
成るほど。これは動きやすい。
AGIに補正が乗るというのも嘘ではないようだ。別に疑ってはいなかったが。
「良い動きだな。それじゃあ頼んだぜ! これが青色鉱石の位置だ」
「あの……、一つ気になったんで聞いてもいいですか?」
「何だい?」
「このまま持ち逃げされるかもしれないっていうのは考えないんですか?」
「ははは! 安心しろ! そん時は俺が直々にぶっ飛ばしてやるよ! それにな」
一拍区切って、バルザックさんは言う。
「俺は俺の目ん玉を信じてるんだ。おめえさんはそんな奴じゃねえってな」
「……わかりました。信頼にお応えできるように全力を尽くします」
「頼んだぜ!」
そう。信頼には応えなくてはならない。
必ず。
□
「ここが粘獣の沼地か」
俺は早速、スライムが大量に群生している沼地に来ていた。
「確かに沼地だな。足を取られて、動きが鈍くなるな」
ざぶざぶと浅い沼を横断しながら、青色鉱石の有る岩場目指して歩いていく。
「しかしこの四肢鎧。便利だな。長靴みたいになっているのか」
おかげで泥が足の中に入り込んでこない。
AGI補正のおかげで動きの阻害もさほど気にならないし、いい買い物をしたな。まだ代金となるべき青色鉱石は入手していないけれど。
「お、スライムだ」
現れたのは先ほど倒した青色のスライムとは異なり、赤色のスライムだった。
つまり。
「早速吹いてきやがった!」
炎を扱う。
吹きつけられた火炎放射を、サイドステップで躱し、スライム目掛けて蹴りを繰り出す。
ポーンと吹き飛んだスライムは沼地へベチャリと落下し、そしてコアだけとなった。
「? やけに楽に倒せたな。レベルが上がったからか?」
まあいいか。
俺はファイアスライムのコアを、手持ちの飲料水で軽く洗い流してから、ぱくりと食べる。
『スキル『魔力放出:火』を獲得しました』
成るほど、MPを消費して火を放つスキルを獲得したようだ。
貴重な遠距離攻撃手段となるだろう。
「スライムには火が有効って話だったよな」
「ぴぎゃ」「ぷぎゃ」「ぺぎゃ」
早速現れた三体のスライム。
彼らを相手に俺は火炎を繰り出すのであった。
□
「お、ようやく着いたみたいだな」
道中のスライムを倒しまくって、レベルを15に上げ、スキルもいくつか獲得した俺は、遂に青色鉱石の有る岩場へと到着していた。
「さて、ひと段落ついたし、スキルを確認してみるか」
■
『魔力放出:火』
魔力を炎に変換して、放出する。
『魔力放出:風』
魔力を風に変換して、放出する。
『属性耐性:火』
火属性に対して、耐性を得る。
『属性耐性:水』
水属性に対して、耐性を得る。
『分体形成』 使用不可
肉体を分けて、分体を形成する。
■
「『分体形成』は使えないか。使えたら面白いことになりそうだったんだけどな」
まあ、確かに人間の体がアメーバとかみたいに分裂したら怖いもんな。
「あれ、そう考えると人間の体じゃなくなれば使用できるのか?」
何かそう言う変身系統のスキルを手に入れれば使用できるようになったりするのだろうか。
疑問は尽きないが、今は青色鉱石の収穫に移るべきだろう。
「よいしょ」
つるはしを振るう。
石ころが手に入る。
つるはしを振るう。
石ころが手に入る。
つるはしを振るう。
ようやく青色鉱石を手に入れる。
その後は大体十回につき三回の確率で、青色鉱石を手に入れていった。
目標の十個溜まると、インベントリが満杯になった。
「レベルに応じてインベントリの重量制限も緩和されるみたいだし、アイテムボックスも存在するみたいだけど、今のところはこれが限度だな」
うーん、一人だと独り言が多くなってしまうな。
そんなことを考えながら、俺は帰路につこうとした。
「待ちな」
その声の方向を見ると、モヒカンが立っていた。
「何か用ですか?」
「有り金全部とその青色鉱石を置いていきな?」
おいおい、こんな初期エリアで物取りかよ。
面白くなってきやがったじゃないか。
対人戦は大好きだぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます