第6話 影から得られるモノ

「間一髪だったな……」


 近くの村の見回りに来たが、ちょうどその時に、影たちに村が襲おうとしていたのだ。

 影たちのレベルは400程度。

 影たちにはレベルは表示されず、HPしかわからないのでなんとも言えないが、そのレベルだと推定できる。

 その平均レベルのモンスターが、100体ほど襲いかかってきたのだ。


 村の一つや二つ、ひとたまりもないだろう。

 そこに間一髪間に合ったのが俺たちというわけだ。

 

「これは本格的に分体を投入したほうがいいな」


 一万人に増えた迷宮探索組は全て投入した方がいいだろう。

 現状投入しているのは五千人程度だが、三倍は必要だ。


「しっかし、お前さんがいてくれてまじで助かったぜ。さもなきゃ村人に犠牲者が出てたところだった」


 ほっと一息をつく彼ら。

 しかしこうなると問題が。


「一度村人の皆さんには都市に避難してもらう必要がありそうだ」

「しかしそうなると、彼らを護衛する人間が必要だぞ」

「人員に関しては心配しないでくれ。こっちも残りの分体の大半は出す」

「大半なのか?」


 全員じゃないのかという言外の問いに俺は答える。


「都市待機組と迷宮探索組に俺の分体たちは別れているんだけど、都市待機組は、全員何らかの仕事に携わっているんだ。そうやすやすと仕事を放り出すわけにはいかない」

「な、なるほど。律儀だな」


 分体たちの仕事に関してはシフト制にしている。

 各分体ごとに週二日、休暇を割り振って仕事に空きを開けないようにしているのだ。

 仕事の方に関しては多岐に渡る。

 調薬、鍛治、錬金の生産ギルドに勤めている者。

 都市の治安維持をしている者。

 

 そして休日を謳歌している者も多岐に渡る。

 食べ歩きをする者。

 動物を愛でる者。

 行きつけの大食い料理屋で、最高記録に挑戦する者。

 闘技場を観戦する者。

 自分で料理を作って食う者。

 日向ぼっこをする者。

 一日中食べている者。

 一日中寝ている者。


 食ってるやつ多いな。


 それはさておき。

 分体たちは俺の分身であり配下だが、そのものではない。

 俺のように休みの日も延々と自己鍛錬に励む者はいない、というわけではないがソレをさせたら、あまりにブラックすぎるだろう。


 でもまあ、今回は人命もかかっていることだし、申し訳ないが休日組は、休日を返上してもらおう。


「てなわけで、仕事あるやつ以外は全員出動してくれ」

『まあ、人命がかかっているならしょうがないか』

『これが本体の私利私欲のためだったら、ボイコットしてたけどな』

『仕事組は出動しなくていいのか?』

「うーん、どうしようかな」


 こういう時にテレパシーを使えれば便利なんだけどな。

 いちいち、通信機で情報を交換するのも面倒くさいし。

 通信機に分体を一体貼り付けていないといけないし、通信機の数にも限りがある。


 逆に意思疎通をテレパシーで出来れば、いくつもの利点がある。


 一つ目はアクセサリー枠が空く点。

 これは通信機がアクセサリー枠を埋めてしまう点に起因する。そこが空けば、より装備の自由度が増すだろう。


 二つ目は即座に、好きな分体に意思疎通を出来る点。

 通信機に縛られないということは、どこにいる相手とも意思疎通ができる。


 三つ目は二つ目に似ているが、受信機に縛られない点。

 現状では通信機を持っている個体に限られるし、通信機同士は、連絡を取れない。

 受信機に一人張り付いていないといけないのだ。


 四つ目は、秘匿性の高い通信ができる点。

 多分これが一番大きいだろう。

 受信機と通信機による意思疎通は、何らかのアイテムを使えば傍受できてしまう。


 対してテレパシーならば、相手の頭の中身を読むパラダイムでもなければ、情報を傍受することはできない。

 通信の秘匿性は、今後ギルド同士の戦いになった時、大いに有利に働くだろう。


 そう。

 ギルド同士の戦いは避けられない。

 七大ランキングのうち、連合のランキングをあげる最も有効な方法は、上位のギルドを打ち負かすことなのだ。

 それは何も、俺がマッド・エックスを倒した時のようにどちらかの人的・物的リソースが底をつくまでやり合う総力戦だけではない。


 決闘のように明確なルールのもと、行われる戦いもあるのだ。

 そういった決戦において情報のアドバンテージが取れるのは大きいだろう。

 

「あーあ、テレパシーが使えればなぁ」

『おーい、本体。結局仕事組は待機でいいのか?』

「あ、ああ。すまんすまん。待機でいい」


 こんなふうに通信機を介して連絡する必要もないだろうに。

 でもそう都合よくテレパシーを持つモンスターやプレイヤーは見つからないよなぁ。


「おーい、オーマ。ちょっと情報共有したいことがあるんだが」

「あ、はいはい。わかった。今向かうよ」


 そう言って肩パッド連合の下へと向かう。


「うちの所属員の一人に鑑定系のパラダイムを持っていてな。見た相手の保有スキルを確認できるんだ」

「なるほど」

「その中でも特に危険度が高いやつがあってな」


 そう言って彼が提示したのは驚くべきスキルだった。



 ■


『分身共有』


自分の生み出した個体とHPとMP、SPを共有する。

また、自分を含めた、生み出した個体間で念話で意思疎通できる。


 ■

 


 渡りに船とはこういうことか。

 これは是が非でも獲得したい。

 テレパシーが使えるという利点は、先ほど述べた通りだ。

 しかもそれに加えて自分の生み出した個体――俺の場合は分体——とHP、MP、SPを共有できるというではないか。

 これは、俺の戦闘時の大きな欠点であるスキル連打によって、消耗が速く短期決戦を強いられるという点を克服できるということに他ならない。


『どうした、本体。何か言い忘れたことでもあったか?』

「今すぐ、全戦力をこの作戦に投入してくれ。総力戦だ」

『理由は?』

「今後の俺のゲーム生活において、必要不可欠なスキルが手に入ることが分かった。全戦力を投入したい」

『オッケー。なら全員に伝えておく』

「百人一組で動いてくれ。万が一のこともある」

『フォーメーション『広域探索・戦闘』だな。了解した』


 こんなこともあろうかと、事前にフォーメーションを決めておいて本当に良かった。

 意思疎通がスムーズに進む。

 しかしそんな手間もじきになくなる。

 俺が『ユニークス』を撃破することができれば。


「さあ。全力を尽くそうか」


 しかし俺は失念していた。

 自分が一体周囲からどう思われているのかを。

 そして彼らの存在を。

 そのことがまた一騒動起こすこととなるのだった。

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