第5話 影との戦闘

「『火炎放射』」


 分体の口から、炎の息吹が解き放たれる。

 それを喰らった黒色のゴブリンは、気にせず突っ込んでくる。

 ダメージがないのかと一瞬思ったが、しっかりHPは減少している。

 だがやけに減りが遅いような?


「痛覚がない、に加えて何かからくりがあるな」


 そしてそれなりに強い。

 レベル300ぐらいだろうか?

 450レベルを超えた俺からしてみれば、さほど脅威ではないが、それでもこの都市出身のNPC冒険者には手に余る強さだ。


 しかし都市の防衛隊を手こずらせらほどではない。

 彼らはレベル500。至天職にはつけてないものの、NPCの正規軍としてはこの世界屈指の戦闘能力だ。

 理由は二つ。

 一つは彼らはセントルシアの地上部の高レベルモンスターが出る危険地帯で、日々鍛錬を積んでいること。

 もう一つが千年前から存在しているプレイヤーの子孫であることだ。


 ゲームの開始は七年前からだが、プレイヤーの存在が現れたのは千年も前のことらしい。

 そうしたプレイヤーが、NPCと子供を作り、その高い成長限界が受け継がれて行くことによって、ここまで精強な軍隊が結成されるに至ったのだ。

 

 なので別に俺が出張らなくても、この都市が落ちる心配はない。

 ……今のところは。


「けど今後もそうであるとは限らないものなぁ」


 分体たちの報告によれば、微増だが出現する影のモンスターの強さは上がっているらしい。

 これが都市の防衛部隊でも対処できないレベルになってしまえば、一貫の終わりだ。


「だからなるべく早く、召喚主の居場所を特定しないとな」


 そんなことを考えているうちに、モンスターの掃討が終わった。

 レベル450が百人に、レベル500の勇者、そしてそれよりもレベルが高い、『宇宙飛行士』。

 ここまで揃えば、平均レベル300程度の相手なら余裕で叩きのめせるだろう。


 しかし気になることがあった。

 レベルが上がらなかったのだ。


「ふむ? なんでだ?」


 影を捕食しても、レベルが上がった感触がない。

 世界観的には、レベルというのは内包エネルギーの位階であり、経験値というのは魂が内包しているエネルギーだ。

 それを獲得できないとなると、本当にこの影は俺の分体と同じような代物のようだ。

 

「つまり、これらのモンスターが獲得したエネルギーは、全て本体に還元されていると考えた方がいいか」


 俺と同系統か。

 数週間でも放っておけば、オーバード・ユニークス、つまり1000レベルを超えてしまいそうだ。


「……俺以外のプレイヤーの協力が必要だな」


 俺はおよそ万能だ。

 三百を超えるスキルに、二万を超える分体。

 それだけあれば、一個人とは思えないほどの動きができる。

 けれどソレはあくまでこの世界の平均的なプレイヤーと比較した場合の話。


 例えばレベル千を超えるプレイヤー『號級』たちと比較すれば、まだまだだ。


「彼らの協力を仰げれば一番イージーなんだがな……」


 残念ながら俺にそんな伝手はない。

 スカイに聞いてみようか?


「おーい」


 声の出所を振り返ると、奇妙な恰好をした人々がいた。

 やたら長い肩パッドをつけているのだ。

 それ以外はいたって普通の、冒険者という服装だというのに。


「どうも」

「あんた、あのオーマか?」

「はい。そうです。初めまして、オーマです」

「俺たちは『肩パッド連合』。俺はその都市ハルデル支部長の、マルイだ」

「肩パッド連合……」


 聞いたことがある。

 ネット掲示板発祥のギルドだ。モチーフになるものをつけようと考えた結果、安価で肩パッドになったという逸話を持っている。

 しかしそんなふざけた発祥に反比例するように彼らは、マトモだ。

 マナーもよく、保安機構とよく合同で犯罪者を取り締まっている。

 この都市にいるような人は、都市の防衛隊では対応できないモンスターや犯罪者に対応するための人々だろう。

 つまり至天職クラスの猛者であるということだ。


「敬語はいらねえ。こっちはそっちに頼みごとがあってきたんだ」

「頼み事?」

「ああ。俺たちと一緒に、この衛星都市を、今回のユニークスから守ってくれないか?」

「良いよ」

「報酬は……、え、いいのか?」

「はい。十二の衛星都市を守るには、一人じゃ手がたらないと思っていたところなので」

「……、噂通りの善人だな。ほっとしたよ」


 どんな噂だろうか。


「こっちも頭抱えていたんだ。危険度が徐々に上がっていくタイプのユニークスなのに、保安機構の腰は重いしな」

「そうなのか?」

「ああ。保安機構の主力部隊は今ゼルシューラの治安維持に注力しているらしい。一応ここら辺担当の保安機構は、ユニークス討伐に参加してくれているらしいが、それでも数が足りない」

「なるほど」

「それに一部ではたかがユニークスなんて、他のプレイヤーに任せておけばいいっていう勢力も多くてな」

「……たかが、とは言えそうにないよ」


 俺が自分と同系統のユニークスである可能性を教える。


「……まじか。プレイ開始から三週間弱で、レベル450になったバケ——、逸材と同じか……。こいつは厳しい戦いになりそうだな」

「『號級』の人たちと連絡を取れればいいんだけど。何か心当たり有る?」


 バケモノと言おうとしたのはスルーしてあげよう。

 自分も普通のプレイヤー視点で見れば、充分バケモノだし。


「一応俺たち『肩パッド連合』の統括オーナーは『號級』だが、あの方はいま、『オルシャンド』にいるからな」


 大陸南東を中心とした諸島地域か。 

 ソレは確かにすぐには来れないだろう。


「とにかく現場にいる俺らでなんとかするしかねえ。中央都市にいる『號級』は迷宮の深部に籠っているしな」

「そうなんだよなぁ」


 『號級』の数は、その地域の保有武力を象徴している。

 この『セントルシア』には二十人を超える『號級』がいるが、その大半は迷宮に籠っている。

 つまり今回の騒動においては、頼りにできない。

 残る人たちも、対人戦に特化しているので、今回のユニークス相手には役立ちそうもない。


「そんじゃあ早速見回りに行かねえか? この近くに村があるんだ」

「そうだな。そうしよう」


 というわけで彼らと一緒に近くの村を見回りをすることになった。

 あるいはユニークスの力を知っていれば、こんな悠長なことはしなかっただろう。

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