第4話 衛星都市ハルデル
「お世話になっております。オーマ達の本体でございます」
「これはご丁寧にありがとうございます」
衛星都市の市長にそういって俺は頭を下げる。
こういった礼儀はこの『ネオン・パラダイム』の世界でも大事だ。
都市の市長ともなれば、セーブポイントの使用権限を一つ支配しているも同じ。
このセーブポイントを使えなくすることもできる。
そうしてセーブポイントが全て使えない状態で死ぬと、デスペナルティとしてコキュートスへと送られてしまうのだ。
なので変な行動は慎まなくてはならない。
「それで、オーマ様。その、遊具と化したあなた様たちについてなのですが……」
悲報。俺、手遅れ。
「本当に申し訳ありません! 分体たちにはよくいって聞かせますので……」
「いえいえ、そうではなくてですね。オーマ様。我が都市と提携して、『遊具』というものを売り出しませんか?」
「と、言いますと?」
市長が話すことをまとめるとこうだ。
結論から言うと自分たちはこの街の名物として、遊具を売り出したいのだという。
この世界において、遊具というものはなかった。
理由といえば、ジョブにつけるような年齢ではない子供達は、なるべく親、あるいは『保育士』のジョブを持った者の庇護下で生活しているからだ。
そうした子供達が普段何をしているかと言えば、鬼ごっこやかくれんぼといた遊びだ。
ちょうど意識の盲点だったのだ。
この世界には『遊具』というものはなく。
ゲームのプレイヤーたちは曲がりなりにも遊びに来ているので、遊具で遊ぶなんて発想は出てこない。
何せ死んでも死なないプレイヤーは遊具なんかよりもよっぽど派手な動きができるから。というか、VRMMOなんて最新鋭の遊びをやっている人間にとって遊具遊びを行うなど、技術の無駄遣いに他ならないだろう。
一億人いても、俺ほどNPCと積極的に関わっているプレイヤーは少ない。
そして粘液という万が一ぶつかっても安全な代物で遊具を形成できるのはさらに少ない。
結果として、遊具は俺がこの世界での第一人者となったのだ。
「いいですよ。後で話を詰めましょうか」
「本当ですか!」
「都市の市長がお墨付きを与えたとなれば、それなりに売れるでしょう」
そういうわけで俺は深く考えずに許可を出した。
……のちにこれが大ヒットにつぐ大ヒットによって俺の懐を大いに潤すことなるとは思いもしなかった。
それはさておき。
「その代わりと言ってはアレなんですけども、いくつか頼み事がありまして……」
「我々のできる範囲でしたら、なんでもお答えしますよ」
「都市の外壁付近に自分たちの拠点を作りたいんですよ。もちろんご迷惑はおかけしません」
「都市の外とは言わずにぜひ中で、お過ごしください」
「え、いいんですか?」
おんなじ顔のやつがいると、何らかの混乱が起きないだろうか?
プレイヤー、つまり常識にとらわれない人々が数百年前からいる中央都市ならともかく、衛星都市でこんなに多くの俺たちを呼び出して大丈夫なのだろうか?
「オーマ様の分体が来られてから、この都市は大幅に治安が向上しております。我々にもメリットがあることなんですよ」
なるほど。分体たちはうまくやっているようだ。
遊具に化けて遊んでいたわけではないらしい。
「オーマ様もユニークス討伐に参加されるのですよね?」
「そうなりますね」
「でしたら是非お気をつけください。プレイヤーの方たちならば死に至る心配はないかもしれませんが」
「そうですね。ご心配ありがとうございます」
話がまとまった。
というわけで俺たちの拠点に移動することにしよう。
□
「ここが俺たちの拠点か」
都市の空き家が密集している地域を、俺たちは借りることにしたのであった。
その地域の空き家をいったん更地にして——許可はもらっている——巨大な長屋を建てた。
ここでなら百人単位で人が出入りしても、問題ないだろう。
「凄いですね。オーマさん。建築魔術も修めているなんて」
「まあね。生産系統のスキルは色々持っているから」
主に中央迷宮の十から二十層に存在しているコブリン大王国を、攻め落としたときの代物だ。
あそこで大抵の生産系スキルは獲得することができた。
「さて。拠点も出来たことだし色々と情報を収集していこうか。分体!」
「はいよ」
そう言いながら、分体が進み出てくる。
紙束を持ちながら、分体は説明を始めた。
「今回のユニークスの名前は、未だに明らかになっていない。ただそのユニークスから派生した『影』については色々と情報が上がっている」
「『影』?」
スカイが可愛らしく小首をかしげる。
「既存のモンスターの黒いバージョンだ。全身が真っ黒で、昼間にしか出現しないことから、光の存在を前提にしているのではないかと考えられている」
「なるほど」
「現状確認されているのでは百八種存在している。どれもこのセントルシアの地上部分に生息しているモンスターだな」
「どのぐらい広域に確認されているのでしょうか?」
「全域だ」
「全域?」
「中央都市の全周の農耕地帯全てに確認されている。農作物への被害も少なくないらしい」
セントルシアの構造は以下の通りになっている。
まず、迷宮を内包している中央都市。
そしてその周囲半径数百キロを覆う、草原地帯。
さらに中央都市から万が一モンスターが溢れた時――そんなことが起きたら、人類が滅ぶが——のための防波堤として用意された、時計の数字のように存在する十二の衛星都市。
しかしその全域で確認されているとなると、相手は『グラン』、もしくは『オーバード』ユニークスの可能性もあるだろう。
「厄介だな」
「そうだな。そもそもこの影を召喚し、使役しているモンスターがどこにいるのかが分かっていないんだ」
「地中の場合もあれば、空の場合もあるってことか」
「その通り」
「……無理じゃね?」
半径数百キロの円って、日本列島の総面積の倍ぐらいあるぞ。
その全域で確認されているなんて、紛れもなく最上級のユニークスだ。
「そこを頑張るのが、俺たちの仕事だ」
「まあ、確かに。強力なスキルが獲得できそうだしな」
それに加えて。
「今のところ、出現するモンスターのレベルはそこまで高くないんだっけ?」
「ああ。衛星都市の防衛隊で充分に対処できるレベルだ」
「けれど、今後もそうであるとは限らないか」
「? どういうことですか?」
スカイがそう聞いてくる。
俺が説明しようとしたところで、アルリスが代わりに応えてくれた。
「召喚系のユニークスならば、強くなればなるほど、召喚する個体も強くなる可能性があるからです。オーマ様のように、召喚した個体から際限なく経験値を共有するなんて真似ができれば、その強さは際限なく上昇していくことでしょう」
「……オーマさんみたいなユニークスの可能性があるってことですか? ……メチャクチャヤバくないですか?」
メチャクチャヤバい。
自分のチートっぷりは自覚しているつもりだ。
それが敵に当てはまるとなれば、相当なバケモノが生まれるはず。
多分このまま手をこまねいていたら、このセントルシアが大打撃を受ける。
「まあ、その前に迷宮探索ををしている上位プレイヤーたちが対処に動き出すと思うけど、それでも相当な被害は避けられないし、打つ手を間違えれば滅びかねない」
「それを防ぐために俺たちがいるんだけどな」
『本体!』
「どうした?」
『都市に襲撃だ! 影のユニークス! 即座に対応を求める!』
早速被害が出たか。
「行くぞ!」
「「「了解」」」
「行きましょう、アルリスさん!」
「ええ。共に」
何か二人、仲良くなってるな。
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